cys:20 測定不能の斬撃
「アーーッハッハッハッハッ♪」
ノーティスを見下ろし、ゴミを見るような目で嘲笑うエミリオ。
「残念だけど、無色の魔力クリスタルしか持たないキミがいくら努力しても、ここまでの領域には、決して辿り着く事は出来ない。だから、冒険者なんて目指すのは辞めて、ギルドの受付でもしてた方がお似合いだよ♪ それが、分相応なんだから」
エミリオがニヤッと嗤うと、試験官の男もハアッと大きく溜息をついてノーティスに哀れみの目を向ける。
「エミリオくんの言う通りだ。人には分相応というモノがある。まあ、どうしてもというなら試験を受けてもいいが、これを記念として、もうバカな夢は見ない事だ」
試験官はノーティスにハッキリそう告げたが、ノーティスは測定器を見たまま動かない。
それにイラッとした試験官は、顔をしかめ怒鳴りつける。
「おい、キミ! 聞いてるのか?!」
すると、ノーティスはようやくハッとした顔を浮かべて試験官の方を向いた。
「あっ、すいません。今何か言ってました?」
「キミは……今の私の話を聞いていなかったのか!」
試験官がノーティスに怒りの声をぶつけると、エミリオがそれをなだめるように割って入ってくる。
「まぁまぁ試験官さん、許して上げて下さい。ボクのせいです。きっとボクとの力の差に唖然として、言葉を失ってしまったのですから♪」
「フンッ、そういう事か……なら仕方ない」
試験官は腕を組み溜息を吐いて、気持ちを落ち着けた。
けれどノーティスは、せっかく落ち着いた試験官の気持ちを、また揺らすような事を平然と言ってしまう。
「すいません、懐かしいなと思って」
「懐かしい? 受験票を見る限り、キミは始めてだろう。まあ、そしてこれが最後になるのだがな。ハッハッハッ」
腕を組んだまま嘲笑う試験官だが、ノーティスはスッと視線を斜めに落とし、懐かしむ顔のまま静かに零す。
「いや違うんです。ドラゴンを魔力クリスタルの力無しで倒すのが、師匠からの最低ミッションだったから、つい、懐かしくて……」
ノーティスは、アルカナートとの修行時代を思い出していたのだ。
確かに壮絶な修行ではあったけれど、アルカナートに鍛えられ、セイラに癒されて育ったあの日々は、ノーティスにとってかけがえのない思い出であり、力そのものだから。
けれど、そんなノーティスの思いも知らず、何より話を全く信じていない試験官とエミリオは、大声で嘲笑う。
「ハッハッハッ! 何を言うかと思えば、バカな事を」
「アハハッ! よかったなノーティスくん。キミの職業が今見つかったよ。ピエロにでもなるといい。面白いキミにはピッタリだよ♪」
もちろん会場の皆も、ノーティスを見てバカにして嘲笑っている。
「ハハッ。マジで盛りすぎ。魔力クリスタル無しでドラゴン討伐とか、聞いた事無いし」
「てか、ドラゴンてAランク冒険五人からでやっとだろ。アイツ、頭イカれんじゃねーの」
「マジで見てて痛いわー♪」
会場がノーティスを嘲る声で溢れかえる。
だがノーティスはそんな中、それを全く気にする事なく測定器の前まで行き剣を構えた。
───いつもの事だ。こんな事には慣れている。けど……!
「964355番、エデン・ノーティス。参ります!」
ノーティスがハッキリと大きな声で言うと、ヤジは更に加速する。
「ドラゴン倒せる力見せてくださーい♪」
「これで100PTとかぐらいだったら、マジでウケるんだけど♪」
「あーっ、でも案外いったりして。200PTぐらい。ヒャハハッ!」
会場には、ノーティスへのヤジや罵声が飛び交っている。
が、そんな中、嘲りの声と視線を一閃するかのように、キンッ!! と、いう大きな金属音が会場に鳴り響いた。
その音に、一瞬静まり返った会場。
そしてしばらくの静寂の後、段々皆静かに話を始めていく。
「えっ、何今の音」
「やっば、耳ちょっと痛いわ」
「金属音だよな? あっ、てかアイツまだ剣抜いてないし」
「ホントだ。何してんだろ」
「さっきから、つっ立ったままじゃん」
皆ノーティスに注目するが、なんとノーティスはそのまま測定器にクルッと背を向けて、元の位置までゆっくりと戻ってゆく。
それを見た会場の皆は、えっ?と、目を丸くし、一瞬の沈黙の後、一斉に笑い出した。
「アハハハハッ! なんだアイツ。剣も抜かずに戻ってくるぜ」
「マジで何しに来たんだアイツーー」
「ヤバっ、マジでザコ過ぎじゃん♪ カッコ悪ーーー」
会場中にノーティスを嘲る笑い声が溢れている中、試験官は腕を組んで目を軽く閉じたまま、呆れた顔で首を左右に軽く振った。
「ハァッ、まったく。これでは記念にもならんではないか」
また、エミリオは下卑た笑みを満面に浮かべて、ノーティスの顔を覗き込む。
「おいおい、ノーティスくーん。せめて剣は抜いてくれなきゃーー。ただ腰にぶら下げてるだけじゃ、飾りだよ」
エミリオそこまで嘲ると、ノーティスの魔力クリスタルを見てニタァっと嗤った。
「あっ、そうか〜〜。キミの魔力クリスタルも飾りか。アッハッハッハッ! そうか、それに掛けたのか。面白い! ノーティスくん、やはりキミはピエロの才能があるよ♪」
けれど、ノーティスはそんなエミリオ達の嘲笑を無視している。
強がりではなく、ノーティスは別の事が心配で測定器をジッと見つめると、試験補助官の女性をサッと顔を向けた。
「補助官さん、そこ危ないからどいて下さい!」
「えっ?」
「いいから早く!」
「は……はぁ」
彼女はノーティスが何を言ってるのか分からなかったが、取り敢えずその場所からちょっと離れた。
それを見て、更に嘲るエミリオ。
「危ないって、なーにが危ないんですかぁ? あっ、もしかしてドラゴンが出てくるとか? アーッハッハッハッ!」
エミリオのそれにつられ、高まる会場の嘲笑。
が、次の瞬間、それらの笑い声は小さくなって消えていく。
「アッハッハッハッ…… えっ?」
何と、測定機が真ん中からズ……ズズッと斜めに動き始めたからだ。
鋼鉄製の分厚い円柱にドラゴンの皮膚と同じ硬度の施した特殊素材が巻かれた円柱が!
「な、な、なんだアレは!!」
試験官はテーブルにバンッ! と、両手を叩きつけて立ち上がり、目をかっぴろげた。
その瞬間、測定機はバラバラバラッバラッ!! と、キレイに10個に切り裂かれた。
当然その場の誰もが驚愕し、信じられない物を見るような顔をして口を大きく開けた。
「なっ!!」
「バ、バ、バカなっ?! ドラゴンの硬度だぞ!!」
「け、剣筋も見えなかって、う、うっそだろ……!!」
「ヤ、ヤバすぎなんだけど…… すごーーーーい♪」
皆が驚愕して目を丸くしたり湧き立つ中、ただ啞然とする事しか出来ないエミリオ。
「あっ…… あっ…… えっ?…… えっ…… な、な……」
そして、震えながらノーティスを見つめる。
「な、な、なんでお前なんかに…… 無色の魔力クリスタルで…… 学校中退のお前が、名誉あるクロスフェード家のエリートの僕よりも……」
目の前で起こった事に怒りと、それを遥かに凌駕する戦慄を禁じ得ずガタガタと震え、大量の冷や汗を流したながら立ち尽くすエミリオ。
ノーティスは、そんなエミリオの側に近寄り軽く瞳を閉じると、フッと軽く微笑む。
───悪いけど、師匠とセイラをバカにされる訳にはいかないのさ。
そして左手をエミリオの右肩にポンと乗せ、クールな瞳でスッと流し目を向けた。
「エミリオ。別に才能や家柄、ましてや、魔力クリスタルで全てが決まる訳じゃない。これまで何を、どれだけ本気でやってきたかだ」
その瞬間、エミリオはその場にドシャっとへたり込んだ。
まるで、魂が抜けてしまったかのような顔で……
侮蔑には言葉じゃなく、圧倒的力で魅せる……!
次話は試験官へのざまぁです。




