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ゼロの輝き─無魔力追放からの反逆  作者: ジュン・ガリアーノ
第1章 闇から光に転じるまで
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cys:2 神話という名の常識

「神の加護が無い……無色の魔力クリスタル?!」


 ノーティスは悲壮な表情で、震えながら神官を見上げた。

 額の魔力クリスタルが光らないという事が、どれだけヤバい事かを分かっているからだ。


「そ、そんな……」


 途轍もない不安に覆われたノーティスの顔を、嫌な汗がツーっと伝う。


 けれど、神官はそんなノーティスに同情する事なく、冷徹な眼差しで見下ろしたまま話を始める。


「そうだノーティス。キミは魔力が全く無い。これがどういう事か分かるか……!」


 神官に上から睨まれたノーティスは、悔しさに顔をうつむかせ両手を下に伸ばしたまま、ギュッと拳を握りしめた。


「はい……この先俺は、何も……出来ない」

「……そうだ。しかし、それだけではない……」


 神官は断罪するような瞳で肯定した。

 もはや先程までの温かさは微塵も無く、まるで罪人を見下ろす裁判官のようだ。

 神官がそう見下ろす中、ノーティスは両拳をギュッと握りしめ、体をブルブルと震わせている。

 分かっているからだ。

 

「はい……魔力クリスタルは、ガーディアン・クリスタルとして……『悪魔の呪いからの感染防止』を行う作用もあるからです!」


 ノーティスが声を絞り出しながら答えると、神官は冷たい瞳をキラリと光らせた。


「その通りだ! キミも知っての通り今から百年前にこの世界に突如として現れた悪魔『アーロス』は武力ではなく呪いを使った。その結果どうなったか、答えてみろ!」

「世界は……世界は人間同士の戦争で、滅亡の危機に陥りました……!」

「そうだ。それは、なぜだ?」 


 神官に問われたノーティスは再びうつむき、悔しさに両拳を震わせながら声を絞り出す。

 答えは分かっていても、本当は言いたくないからだ。

 これを言うのは、自らに死刑宣告を課すようなモノに他ならない。


「ぐっ……うっ……」


 けれど、ノーティスは顔を上げ苦しそうに答える。

 自らの運命を受け入れるかのように……


「悪魔の呪いが、人の心を壊すからです……怒りや憎しみ、悲しみや嫉妬、不寛容……あらゆる負の感情を、極限まで増幅させる事によって……」


 これは、この国の誰も知る『神話』であり史実とされる物。

 神官はもちろん、皆これを信じて生きている。

 これに異を唱える者など、ノーティスを含み誰もいない。


「そうだ。しかしキミも知っての通り、人類が滅亡の危機に晒された時『五英傑』という五人の救世主達が現れ悪魔と戦った。そして悪魔の力を弱めた隙に、悪魔の呪いからの感染防止作用のある、この魔力クリスタルを作ったのだ!」


 神官は一気にそう言い放ってからフウッと一呼吸つくと、先程よりさらに強く断罪の瞳でノーティスを上から睨みつけた。

 この神官にとって、もはやノーティスは人ではない。


「故にノーティス。魔力クリスタルが作動しないお前は無力なだけでなく、悪魔の呪いに感染し心を病む」

「うっ……!」


 そんなの酷いと思うかもしれないが、神話という常識にとらわれたこの国の人間にとっては、別段おかしな事ではないのだ。

 無論、そう考えてるのは神官だけではない。


「そして最悪の場合、フェクターというモンスターになってしまう可能性があるのだ!」

「くっ……!」


 ノーティスは涙を堪えながら、悔しさに両拳をギュッと握り締め全身をブルブルと震わせた。


 本当は将来、研究者として皆を幸せにしたいのに、自分が出来る事はそれとは真逆。

 いずれ呪いに感して悪魔のようになり、自分も人も苦しめる事しか出来ないのだから。


「俺は、本当はみんなの幸せの為に……」


 けれど、ノーティスはそこまで零した時にハッと思い出し、神官に向かいバッと身を乗り出した。

 訴えるような眼差しを向けて。

 こんな運命、やはり受け入れる訳にはいかないからだ。


「でも神官様、必ず感染するとは限りません! 現に、十三歳未満の人達は魔力クリスタルをしてなくても感染していないですし、この国は巨大な壁と結界に守られています! だから……」


 ノーティスがそこまで言った時、神官はキッと眉を釣り上げた。


「ならぬ! 十三歳未満の人間が感染しないのは、まだ思春期を迎える前だからだ!」

「うっ……」

「それに、この国神聖樹ユグドラシルから発せられる強固な壁と結界で覆われていようとも、それは、魔力クリスタルの救いを拒否する蛮族共の国家『トゥーラ・レヴォルト』からの侵攻を防ぐ為の物」

「うぅっ……」


 悔しさと悲しみで体を震わせうつむくノーティスに、神官はトドメとばかりに言い放つ。


「悪魔の呪いの感染防止は、偉大なる五英傑達が創りし魔力クリスタルでしか、行う事は出来ないのだ!」


 神官から告げられた事実に、ただ黙る事しか出来ないノーティス。

 この神話と魔力クリスタルの効果は、覆せない常識だから。

 けれどノーティスは再び声を振り絞り、綺麗な瞳に涙を滲ませながら神官を見上げた。

 心からの想いを乗せて。


「それでも俺は……将来研究者になって、みんなを幸せにしたい……! 一人でも多くの人の笑顔を作れるように!!」


 しかし、神官の瞳の温度は上がらない。

 冷徹に断罪するような瞳のままだ。


「ノーティス、それは分不相応というものだ。お前が出来る事が何かは、皆がもう教えてくれている……」


 そう告げられたノーティスがハッと後ろを振り返ると、その瞳に映った。

 クラスメイト達全員の、怒りと侮蔑に満ちた冷酷な眼差が。


「うっ……ああっ……」


 その眼差しを受け恐怖に顔を引きつらせているノーティスへ、皆が呪詛のような想いを突き刺してくる。


 さっき、ノーティスに笑いながら話しかけてくれてきたキリトやオルフェ、そして、エリスまでもが。


───死ねよ! 呪われたヤツは。

───無色のクリスタルなんてありえないよ……

───おぞましいわ。なのに人を幸せにしたいとか、ありえない……この身の程知らず!!


「あっ……うぁぁぁぁぁ……」


 恐怖と悲しみに押しつぶされそうになっているノーティスに、クラスメイト達全員が更に呪詛に満ちた眼差しを向けてくる。


───死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。消えろ。消えろ。消えろ。お前なんか、この世界にいてはいけない。


 皆、悪魔の呪いの感染を恐れているからに他ならない。

 感染させる者は、例えどんなに賢く優しかろうと彼らにとって悪なのだ。

 集団が『同じ正義』を持った時どうなるかは、歴史の示す通りだ。

 その残酷な正義の刃を全身に受けるノーティスの心が裂け、気が狂いそうになってゆく。


「やめろ! みんな、やめてくれ! 俺だって、好きで無色の魔力クリスタルになった訳じゃないんだ!!」


 両手で頭を抱え込み叫びながらうつむくと、神官が断罪の炎をその瞳に宿し睨みつけてきた。

 その眼差しに、同情の余地は欠片も宿っていない。


「ノーティス、これが答えだ。神の加護無き忌まわしき子よ。もはや、これ以上この場を穢す事は許さぬ……」


 神官はそこまで告げると、片手をバッと前に翳した。

 それと同時に、法衣がバサッと大きく(なび)く。

 まるで、残酷な正義の執行官のように。


「去れ! そして懺悔し続けろ!! その穢れた命が尽きるまで!!!」

「ううっ……くっ!」


 神官から断罪されたノーティスは、ゆらりと立ち上がり神官に背を向けると、ガクッと肩を落としたまま出口に向かって歩き出した。


 クラスメイト達があらゆる侮蔑を浴びせてくる中を、まるで、処刑台に向うような絶望と共にうつ向き涙を流したまま……

あまりにも理不尽で残酷な断罪……!


ただ、落ちこみ系は次話までです。

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ここにこのコメントを書いていいか悩みましたが、他に連絡手段がなかったため、すみません。 先日のお返事読みました。 日頃、自分の読解力のなさに不甲斐なさを感じております。 あちらのツールでは読者と作家の…
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