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ゼロの輝き─無魔力追放からの反逆  作者: ジュン・ガリアーノ
第9章 アルカナートの追憶
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cys:197 王宮魔道士の責務と甘さ

「セイラっ!」


 その声にハッと振り向くと、そこにはレイが強く見つめている姿が。

 また、レイの両隣にはロウとジークもいる。


「貴方達……どうしたの?」


 セイラが身体を振り返らすと、レイがズイッと前に出てセイラを見上げてきた。

 瞳には怒りと不安が宿っている。

  

「どうしたのじゃないでしょ!」

「えっ?」

「アルカナートに何があったの?!」

「レイ……」


 さっき王宮で起きた事をレイ達はもう知っている事を悟ったセイラは、少し切ない顔を浮かべた。


「ナターシャの事を探しに行ってるわ。私もそうよ」

「ワザと逃がしたって聞いたけど、どうしてなの?!」


 セイラに詰め寄るレイは、不安でたまらないのだ。


 教皇であるクルフォスを切りつけたナターシャをワザと逃がしたのが本当なら、大好きなアルカナートが反逆者とみなされてしまう可能性が高い。

 逆に、捕えに行ったとしてもそこからどうなるか全く予想がつかないから。

 また、それはロウやジークも同じだった。


「セイラ、正直僕も心配です。先生なら何があっても大丈夫だとは思うんですけど、何か嫌な予感が……」

「先生は、何だかんだ言っても女には甘いもんな」

「ロウ、ジーク……」


 セイラは皆を少し切なく見つめたままスッと膝を曲げ、レイ達と目線を合わせた。

 優しい瞳が光に揺れる。


「レイ、ロウ、ジーク、貴方達の気持はよく分かるわ。それに、心配な気持ちは私も同じよ。けど……」


 そこまで告げた時、セイラはハッと斜め上を見上げた。

 僅かに感じたからだ。

 アルカナートが滾らす魔力クリスタルの力を。


───まさか……!


 ハッとした表情を浮かべたのを見たレイは、セイラに再び詰め寄った。


「ねぇっ、もしかしてアルカナートがどこにいるのか分かったの?!」


 この頃のレイ達は、まだセイラ程魔力を感じ取る事は出来ない。

 でも、分かってはしまうのだ。

 自分達が感じる事が出来ない程遠くからでも魔力が伝わってくるなら、それはアルカナートの身に何か脅威が迫っている事を。


 無論、ロウやジークもそれは同じで不安な表情を浮かべている。


「セイラ、もしかして先生の身に何か……!」

「もしそうなら、俺は弟子として助けに行く!」

「そうよねジーク! 私のアルカナートに何かするなんて、絶対許さないからっ!」


 レイ達からアルカナートに対する想いがヒシヒシと伝わってくるが、セイラはスッと立ち上がりレイ達を静かに見下ろした。


「ダメよ」


 セイラからは、いつもと違い有無を言わせぬ雰囲気が立ち昇っている。

 けれど、レイはそれでも身を乗り出した。


「……なんでよっ!」

「セイラ、僕も納得出来ない……!」

「俺もだ。こんな時行かなきゃ……いつも何の為に修行してるか分からないぜ!」


 レイ達から強い眼差しを向けられたが、セイラは動じない。

 凛とした瞳で皆を見つめている。


「行かせる訳にはいかないわ。レイ、ロウ、ジーク、貴方達は……希望なの!」


 その言葉に思わず動きを止めたレイ達。

 セイラの口調も眼差しも強めだが、体からは聖女のようなオーラが立ち昇っている。


「私もクリザリッドも、そしてアルカナートも、この国と大切な人達を守る為に戦ってるわ。でも、いつかは前線から身を引かなきゃいけない時が来るの」


 そこまで告げたセイラは、皆にハッキリと言い放つ。


「貴方達が戦うのはその時よ。それまでは私達が戦う。それが、私達王宮魔導士としての責務なの……!」


 まるで聖女、いや、女神から告げられたかのように感じたレイ達は、瞳を揺らしながらセイラを見つめると、悔しさはありつつも納得した顔を浮かべた。


「分かったわよセイラ……一応、大人しく待っといてあげるわ」

「うん……僕もそうする事にするよ」

「まっ、しかたないよな」


 そんな皆を見つめたまま、セイラはニコッと微笑んだ。

 その微笑みは、包み込むような優しさが溢れている。


「よしっ♪ じゃあ、みんな待っててね」


 セイラはそう告げるとクルッと背を向けた。

 そして、その凛々しい後ろ姿を向けたまま静かに告げる。


「必ず連れて帰るから」


 そう告げると、セイラはサッと駆けだした。

 その胸に例えようの無い不安な想いを抱えながら。


───アルカナート、貴方がナターシャを選んでも私が必ず守るからね……!


◆◆◆


 セイラが全速力で駆けている頃、アルカナートには真紅の鉄球が勢いよく迫っていた。


「アルカナート、身動きも封じられてる貴方に避けるすべは無いわ!」


 カミラの力強い眼差しと共に真紅の鉄球が迫りくる中、アルカナートはそれを見据えたまま片手で鎖をガシッと握るとニヤリと微笑んだ。


「カミラ、俺も愛を伝えてやるよ」

「えっ? ……まさかっ!」


 その愛の正体を一瞬で悟ったカミラだが、もう遅かった。

 アルカナートは鎖を握ったまま闘気を走らす。

 自分を縛っている鎖に。


「ハァァァァァッ!」


 その咆哮と同時に、鎖を伝わった闘気がカミラの手をバチンッ! と、弾かせた。


「あつっ!」


 手に走った痛みに顔をしかめたカミラ。

 無論、アルカナート自身にもダメージはあるが、カミラが鎖を手放した事により拘束は解けた。


「くっ、しまった!」


 カミラがそう声を上げた瞬間、アルカナートは剣を素早く逆手に持ち替え必殺技の構えを取り、鉄球に向かい腕を大きく振り抜いた。


「オォォォォォッ……!」


 敢えて避けなかったのは、軌道が多少ズレても避けきれる大きさではなかったのと、真っ向から迎え撃ちたかったからだ。

 カミラが全力で放った技そのものを。


「カミラ、これが俺の答えだ! 爆ぜろ! 『バースト・スラッシュ』!!」


 白輝の輝きを纏った剣から放たれた光の刃が、真紅の超巨大な鉄球とぶつかり、ズガァァァァン!! と、大爆発を起こした。

 アルカナートとカミラの間を、灰色の爆炎が覆う。


「うっ、な、なんて爆発なの! でもっ……!」


 カミラは、アルカナートの放った技の威力にギリッと歯を食いしばりながらも、力を振り絞り振り下ろした。

 ありったけの闘気を込めた真紅の鉄球を。


「……私の勝ちよ!!」


 その叫びと共に真紅の鉄球がズドォォォン!! と、大地を砕き破片の混じった爆風が立ち昇った。

 が、その時カミラに伝わってきた。

 大地は叩き割っても、アルカナートを砕いてはいないという違和感が。


───どういう事なの……ハッ、まさか!


 そう思い上を見上げると、カミラの瞳に映った。

 上空高く飛び上がり、剣を大きく振りかざしているアルカナートの姿が。


「だからあんな爆発を……!」


 カミラはギリッと顔をしかめ、鎖を両手でジャラッと持つと横に張り防御の体勢に入った。

 その鎖を闘気で強度を高め、アルカナートを見据えながら。


「アルカナート……!」

「カミラ、今の一撃申し分無し。だが、惜しかったな」


 アルカナートは艶のある瞳を光らせ、剣にこもる白輝の力をバチバチバチッ……! と、滾らせていく。


「聞きやがれ。天から轟く雷鳴を! ハァァァァァッ! 『シェル・スラッシュ』!!」


 その咆哮と共に振り下ろされた剣が、ズガガガガンッ!!! と、凄まじい音を立て、カミラの闘気で強化された鎖をガリンッ! と、断ち切った。

 その剣が、そのままカミラの体をズザッ! と、斬り裂いてゆく。


「うぁっ……!!」


 アルカナートが剣を振り下ろした体勢のまま微動だにしない中、カミラは体から鮮血を吹き出しゆっくり前に倒れていった。

 そしてドサッと地面に倒れると、そのまま苦しそうにググっと顔を上げ、アルカナートの方へ振り向き声を絞り出す。


「ア、アルカナート……なぜ、急所を外したの……真剣勝負だったハズよ……!」


 カミラは、息絶え絶えにそう告げてきた。

 確かに出血は凄いが急所は外されているので、カミラの体力であればいずれ回復出来る傷だからだ。

 そんなカミラに、アルカナートは背を向けたまま静かに告げる。


「真剣勝負だったさ。ただ、俺は勝つ為に戦っただけで、殺す為じゃない」

「そう……ずいぶん、甘いのね……」

「言ったろ。俺は、大切な奴をこの残酷な世界から救えりゃそれでいいのさ。それに……」

「それに?」


 カミラがそう言うと、アルカナートは軽く口角を上げ微笑んだ。


「カミラ、いい戦いだったぜ」

「フフッ、お互いにね……最高だったわ♪」

 

 その言葉を背中で受けたアルカナートは、そのまま先へ歩き出した。

 そして、心の中で静かに思う。


───ナターシャ(あいつ)に以前言われた事が、一瞬頭によぎっちまったのさ。


 そんなアルカナートの背中に、カミラは呼びかけた。


「アルカナート! この先にいるシルフィードは私達よりも強いわ。だから、一つだけ覚えといて。彼は……」


◇◇◇


 背を向けたまま、カミラからシルフィードの事を聞いたアルカナートは、一瞬顔を強張らせた。

 そのあまりの凄まじい内容に。

 だが、スッと瞳を閉じ気持ちを落ち着けた。


「フンッ、礼を言うぜカミラ」


 そう告げ進む中、アルカナートは改めて心に誓う。


───どんな奴が待ち構えていようと、関係ねぇ。ナターシャ、俺は必ずお前を救い出す。


 その心に呼応するかのように雨は止んでいたが、暗雲は未だ立ち込めていた。

 まるで、これからの先を暗示するかのように。

カミラが告げたシルフィードの秘密とは……

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