cys:195 参獄星と無双の剣
「フッ、始まったようだな」
シルフィードは、スッと軽く瞳を閉じ静かに零した。
クリス達の攻撃による轟音が、少し離れた場所から聞こえてきたからだ。
また、その音がナターシャの胸をギュッと締め付ける。
(アルカナート……!)
音のした方を切ない瞳で見つめるナターシャを、シルフィードは静かに見据えた。
「アルカナートはここまで辿り着けぬ。奴に差し向けた三人は、トゥーラ・レヴォルト最強の『参獄星』」
「参獄星……?」
「特別な任務をこなす隠密部隊だ。アイツらの作るトライアングルに死角は無い」
そう言い放ったシルフィードからは、彼らの力に対する信頼が溢れている。
これまで失敗した事が無い実績による物だ。
けれど、ナターシャはそんなシルフィードを強い眼差しで見つめた。
「でも彼は……アルカナートは強いわ。多分、これまで貴方達が戦ってきたどの相手よりも……!」
そう告げてきたナターシャの瞳が、光に揺れる。
それを静かに受け止めるシルフィード。
「そうかもしれぬ……だが、奴の運命は変わらん」
「そうかしら。彼ならもしかすると……」
ナターシャがそう零した時、一陣の風がビュッと舞い込み髪を靡かせた。
まるで、ナターシャの想いを吹き消すかのように。
◆◆◆
「さあっ、終わりにするよ!」
カミラは勇ましく笑みを浮かべ、片手でブンブン振り回している鉄球に闘気を込めた。
黒い鉄球が真っ赤な闘気で、炎のように赤く染まってゆく。
またその後ろでは、ザラークが鉤爪に黒い闘気を纏わせていた。
「ギギギギッ……!」
その黒い闘気により、両手の鉤爪が大きく禍々しいそれに変貌してゆく。
一つ一つの刃が、まるで漆黒の光を放つロングソードのようだ。
その鉤爪を、ザラークは前にザッと突き立てた。
そして、腰を落とし狂気に彩られた眼差しでアルカナートを見据えると、全身の凄まじいバネを活かし跳びかかった。
「ギイッ!!!」
その声と共に繰り出した無数の漆黒の閃光が、アルカナートの視界を覆う。
「くっ……!」
これはドラークの必殺技『残響滅牙』
凄まじい突進力と高速の乱斬から生み出される数多の斬撃は、まるで迫りくる無数の牙。
この斬撃の音を聞いた者は、それと同時にバラバラになってしまう恐ろしい技だ。
この技は軌道を見切るのがほぼ不可能な為、後ろに素早く跳び退くか耐えきるしかない。
現に、絶妙な間合いを咄嗟に保ったアルカナートだが、それでもいくつか掠ってしまい数か所から血を流した。
「チッ……攻撃の間合いが寸でで伸びやがる!」
それを分かっているカミラも、ニヤッと笑みを浮かべた。
───跳び退くか耐えきる間に仕留めてあげるわ♪
また、クリスも当然それを分かっている。
───万一避けられても、ボクが撃ち落とす!
シルフィードがナターシャに告げたように、このトライアングルの前に死角は無い。
───だが……!
アルカナートはそこから敢えて後ろに跳び退かず、剣を両手で真っ直ぐ構え、真正面からザッ! と、勢いよく跳び向かった。
全身と剣を、白輝の光りで煌めかせながら。
「ハァァァァッ……!」
その姿を目の当たりにしたカミラとクリスは、驚き目を大きく見開いた。
「嘘でしょっ?!」
「なんでっ?!」
二人が驚愕と共に見つめる中、アルカナートは白輝の光を滾らせる。
「闇の牙は俺が全て斬り裂いてやる! これが光の力だ! 『バーン・メテオロンフォース』!!」
無数の流星のような斬撃が、ザラークの闇の牙を全てバラバラに斬り裂いた。
その衝撃波が、ザラークをズガァァッ!! と、森の奥まで吹き飛ばす。
「グギィィィッ!!」
大きな叫び声を上げ全身からボタボタと血を流しながら、ガクッと頭を縦に落としたザラーク。
それを見たクリスは、怒りでより闘気を燃え上がらせた。
「カミラっ! 同時にいくよ!」
「もちろんよ!」
カミラが勇ましく応じると、クリスはアルカナートに向かい怒声を浴びせる。
「アルカナート! これで終わりだよっ! 『天空破弾』!!」
そして両手をブンッ! と、大きく振り抜いた。
頭上一面を覆い尽くす数多の光のエネルギー弾が、まるで隕石の雨のように、アルカナートへ全方位からズドドドドドッ!! と、降り注いでゆく。
またその瞬間、カミラも闘気を燃やし瞳を凛と光らせた。
「私の重くて熱い愛、しっかり受け止めなさい! 『紅華圧殺』!!」
カミラがより闘気を込めて放った巨大な真紅の鉄球が、クリスの天空破弾と共にアルカナートに襲いかかった。
だが、アルカナートは動じず二人を射抜くような眼差しで見据えている。
「やるじゃねぇか。けどよ……!」
アルカナートはそう零し、上空から迫りくる無数のエネルギー弾に向かい突きの形で剣を構えた。
「俺を止める事は出来ねぇぜ。光の閃光となり天を貫け! 『クラウディア・フォース』!!」
凄まじい勢いで、クリスに向かい突きを放ったアルカナート。
カミラが横から飛ばしてきた鉄球を躱し、クリスのエネルギー弾を掻き消しながら突き進んでゆく。
「オォォォォォッ!」
突き進むアルカナートの体が閃光のようになり、光の衝撃波を放つ。
「そ、そんな! ボクの天空破弾が!」
恐怖に顔をゾッとさせたと同時に、アルカナートの突きがクリスの体をザシュンッ! と、貫いた。
「ガハッ! た、たった一撃に破られるなんて……」
口から血を吐き悔しさに震えるクリスに、アルカナートは背を向けたまま静かに告げる。
「悪くなかったぜ。一歩間違えれば終わってたさ。けど、俺の一撃には届かねぇよ」
「……! ど、どこまでも、ウザったいなぁ……」
そう零し、クリスは両膝をつきドサッと倒れた。
その体を冷たい雨が打ちつける。
「クリスっ!!」
カミラは身を乗り出し叫ぶと、アルカナートをキッ! と、強く見据えた。
強い怒りと尊敬が入り交じる瞳が、キラリと光る。
「アルカナート……流石ね。私達のトライアングルを破るなんて、スマート・ミレニアム最強の勇者に恥じない強さだわ!」
「フンッ、俺は群れて戰うのが好きじゃねぇだけさ」
カミラの眼差しを、真っ向から見据えるアルカナート。
二人の眼差しが静かにぶつかり、雨音が二人を包んでゆく。
「カミラ、お前は何の為に戰う」
「フフッ、決まってるじゃない。私の大切なものを守る為よ。貴方はどうなの?」
そう問いかけてきたカミラをジッと見据えたまま、アルカナートはニッと笑みを浮かべた。
「奇遇だな、俺も同じさ」
「へぇ、貴方がそんな愛国者だとは思わなかったわ♪」
「愛国者? 違ぇよ」
「えっ?」
少し謎めいた顔を浮かべるカミラ。
そんなカミラを涼し気な瞳で見据えながら、アルカナートは剣を片手で地面にトンと刺し、柄にその手を乗せた。
そして、ニヤリと不敵な笑みを浮かべる。
「俺は、俺の目に映る奴を、この残酷な世界から救い出せればそれでいい」
その言葉が、カミラをハッとさせた。
立場は違えど、大切なものを守りたい気持ちは同じである事に気付いたから。
「そう……アルカナート、貴方とは敵としてじゃなく本当は仲間として……」
だが、カミラはそこまで言いかけ首を横に軽く振ると、すまなそうな顔でアルカナートを見つめた。
「ごめんなさい。こんな事、言うべきではないわね」
「フンッ、気にするな。俺もお前には、同じ事を感じてた所だ」
「アルカナート……!」
ハッとし瞳に光を宿したカミラ。
戦士としての誇りを守ってもらえた事に、心を打たれたのだ。
そんなカミラに向かい、アルカナートは艶のある眼差しで向かい合ったまま剣を突きの形に構え、そこに想いを乗せる。
「カミラ、いざ尋常に……」
「勝負よ! アルカナート!」
その咆哮と共に、二人は互いに技を繰り出した。
戦士だからこそ、真っ向から……!