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ゼロの輝き─無魔力追放からの反逆  作者: ジュン・ガリアーノ
第9章 アルカナートの追憶
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cys:194 ナターシャの悲哀と闇の戦士達

─スマート・ミレニアム禁制区域内─


 王宮魔道士が修行に使う、ただっ広い草原。

 一般の人が立ち入ると被害が出る可能性もある為、立入禁止指定に加え結界が張ってある。

 強力な力を持たねば侵入は不可能だ。


 なので、アルカナートは分かっていた。


───チッ、厄介な相手だ。恐らく実力は、俺ら王宮魔道士と同じレベルか。だが……


 アルカナートは止まらない。

 凄まじい速さで、禁止区域に向かい駆けている。

 ナターシャを救う為に。

 また、セイラとクリザリッドには連絡をしていない。

 当然、レイやロウ達にもだ。


───アイツらを巻き込む訳にはいかねぇ。


 無論、皆が自分を心配している事は分かっていたが、だからこそだ。

 ただ、駆けながら思考を巡らす中、アルカナートは一つ気になっていた。


───奴はなぜあの場所を……


 確かに禁止区域は普段、人は中々いない。

 しかも、こんな混乱時であれば尚の事だ。

 その為そこを利用し、敢えて指定場所にするのは理に適っているとはいえる。


───だが、何か引っかかる。まさか……


 アルカナートは自分の考えた事にハッとしたが、一瞬軽く瞳を閉じ再び前をキッと見据えた。


───何が来ようと関係無い。俺は、ナターシャ(あいつ)を必ず救い出すだけだ……!


 冷たい雨が打ちつけていく中、アルカナートは全速力で駆けていった。


◆◆◆


「離してっ!」


 ナターシャは禁制区域内に着くなり、男に振り向いてキツい眼差しを向けた。

 すると男は腕を解き、ニヤリと嗤う。


「クククッ、睨んだ所で何も変わらぬ。お前の運命も、アルカナート(やつ)の命が……尽きる事もな」

「くっ、そんな事……」

「ナターシャ……お前が望んだ事だろう。違うか?」

「ううっ。わ、私は……」


 瞳を閉じ、苦しそうにギュッと顔をしかめるナターシャ。

 今男に言われた事が、胸を辛く締めつける。

 確かにかつて、ナターシャ自身が望んだ事だから。

 そんなナターシャを、男は精悍な顔で見つめた。


「忘れたのか。アルカナート(やつ)が、何をしたのかを……」

「そんな事……そんな事ある訳ないじゃない!」

「……ならばいい」

「分かってるわよ……」


 瞳を伏せ切なく零したナターシャの瞳が、哀しい光に揺れる。


「彼は……アルカナートは、私の最愛の人を殺したんだから!」

「そう……奴は、お前の夫『アベル』を殺した仇であると同時に、我等トゥーラ・レヴォルトにとっての最大の脅威。生かしておく訳にはいかないのだ」


 そう言い放った男に、ナターシャは不安げな顔を向けた。


「シルフィード、貴方こそ分かってるわよね」

「あぁ、もう手筈は整えてある。お前の娘の監視を解けとな」


 シルフィードは、トゥーラ・レヴォルトの裏組織の長だ。

 魔力クリスタルの偽装等を行ったのも彼らであり、ナターシャの悲しみと美しさを利用し、この計画に参加させた。

 またその際、ナターシャの娘を人質に取ったのだ。


「奴をおびき出すのがお前の役割。我等は契約は違えない」

「随分、強引だったけどね」


 皮肉めいた言葉をナターシャがぶつけると、シルフィードは軽く口角を上げた。

 体から妖しげなオーラを立ち昇らせながら。


「後は、その目で見届けるがいい……」


◆◆◆


 シルフィードがそう告げた頃、アルカナートは禁止区域の近くまで辿り着いていた。

 ここから先は細く険しい山道だが、それを抜ければ目的地だ。


───待っててくれ、ナターシャ!


 アルカナートが心でそう告げた時、ブォンッ! と、いう重い音が鼓膜を揺らす。

 その音にハッとし振り向くと、太い鎖に繋がれた黒く大きな鉄球が目の前まで迫っていた。


「チッ!」


 素早く跳び退き躱すと、その鉄球がズドォォォン!! と、いう轟音と共にぶつかり地面を大きくへこませた。

 もし喰らっていれば、アルカナートといえども無事には済まない。

 また驚くべき事に、その鉄球を操っているのは男ではなく赤い髪の女だった。

 目尻の上がった猫の様な瞳を、凛と光らせている。


「アンタ、やるじゃない♪ 一撃で終わらせようと思ったのに」

「悪ぃが、重すぎるもんは受け止めない主義だ」

「へぇーー、つれないのね。あの子の事を助けようとしてるのに」

「俺は気分屋なんだよ」


 アルカナートがツンとした顔で答えると、女は再びジャラッと鎖を動かし鉄球をブンブンと振り回し始めた。

 巨大な鉄球をまるで風船でも回すかのように、余裕の笑みを浮かべながら回している。


「アハッ♪ そーゆー男、嫌いじゃないわ。だから私『カミラ』の愛で……粉々にしてあげるっ!!」


 カミラの手から巨大な鉄球が放たれ、アルカナートに向かい勢いよく飛び向かった。

 ブオンッ! と、空を切り襲いかかる。

 それを真っ直ぐ見据えるアルカナート。


「だから言ってんだろ。趣味じゃねぇってよ!」


 そう言い放ち跳び退いた瞬間、ザシュッ! と、いう鈍い音と共に背中へ強い痛みが走った。


「ぐっ!」


 顔をしかめて振り向くと、そこには両手に鋭く長い鉤爪(かぎずめ)を付けた男の姿が。

 異様なまでに絞り込まれた体だ。

 それを、呪符のような物が書かれた細長い布でグルグルに巻き付けている。


「テメェっ!」


 その男に向かいアルカナートがビュッと剣を横に振ると、男はサッと躱し血の付いた鉤爪をデロッと舐めて醜悪な笑みを浮かべた。

 明らかに不気味で異形のオーラを放っている。


───気味の悪いヤローだ……


 心で毒づく中、カミラがその異形の男に向かい嬉しそうに笑った。


「惜しかったわね、ザラーク。でも狙い通りっ♪」

「キキキッ……」

「チッ、ウザってぇ」


 アルカナートがイラッと顔をしかめると、間髪を入れず今度は斜め上から無数のエネルギー弾がズドドドドッ!!

と、雨のように降り注いできた。


「なっ?!」


 素早くそれを躱したが、旗色は悪い。

 今の連携攻撃で、アルカナートは完全に彼らの陣形にハマってしまったからだ。

 アルカナートを中央に、三人の闇の戦士達がトライアングルの形で取り囲んでいる。


「フフフッ……」

「フシュー……」

「ハアッ……」


 鉄球使いの女カミラと異形の切り裂き男ザラーク、そして、黒い魔装束を纏う小柄な男。

 彼らは罠に嵌った獣に向けるような眼差しで、アルカナートを見据えている。


「ぺしゃんこにしてあげる♪」

「ツギハノガサナイ……」 

「ねぇ、もう早く死んでくれないかなぁ」


 小柄な男は、軽く呆れた雰囲気で告げてきた。

 完全に勝ちを確信し、半分飽きてるような表情だ。

 確かに、この狭い山道で左右を挟まれ、前方からはエネルギー弾の照射。

 さらに、三人とも相当な手練れ。

 普通に考えたら、アルカナートの勝ち目は極めて薄い。


───厄介だぜ。しかも、連携によって個々の死角を無くしてやがる。けどよ……


 アルカナートは小柄な男を、艶のある瞳でスッと見据え言い放つ。


「残念だが、テメェらじゃ俺には絶対勝てねぇ」

「ハアッ? 全く、何を言うかと思えば……」


 小柄な男は、疎ましそうな顔でアルカナートを見下ろした。

 自分達の絶対的な有利な状況から、アルカナートの言った事が只の強がりにしか思えなかったから。


「ボクさぁ、嫌いなんだよね。根拠も無いのに、そういう事言う奴がさ」

「フンッ、気が合うじゃねぇか。俺も嫌いなんだよ」

「はっ? 何言ってんの」

「テメェみてぇに、策を根拠にしか出来ねぇ奴がよ」


 アルカナートはそう告げると剣の峰を肩にトンッと乗せ、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。


「教えてやるぜ。本当の強さってのが、どんなもんなのかをよ」


 策を弄する事を、真っ向から否定したアルカナート。

 全身からは、追い詰められてる者とは思えない、絶対的な自信に溢れたオーラが立ち昇っている。

 そのオーラが、不敵な笑みと共に艶を帯びてくるのを目の当たりにした三人は、思わず顔を強張らせた。


「へぇっ……言うじゃない」

「ギギギッ……コロス……」

「ウザいなぁ……マジで何なんだよ」


 小柄な男はウンザリした顔で苛立ちを募らすと、両手をバッと上に伸ばし、素早く無数のエネルギー弾を頭上に作り出した。

 エネルギー弾が怒りと交わるようにバチバチバチッ……! と、音を立て光っている。


「カミラ、ザラーク、さっさとあのウザい男片付けるよ!」

「アハッ♪ クリス、貴方怒った顔も可愛いわよ」

「カミラっ!」

「分かってるわよ」


 カラムはスッと表情を落とし、真剣な眼差しでアルカナートの方へ顔を向けた。


「この男が、ハッタリなんか言わないのは」


 また、ザラークは今にも飛びかかりそうな闘志むき出しの顔で、食いしばった歯の間から熱い吐息を漏らしている。


「ギギギッ……フシュー……フシュー……」


 そして三人の闘気が高まった瞬間、クリスは両腕を天に翳したまま大きく口を開いた。


「消えてなくなれーーーーーーーーーー!!!」

三人の戦士からの連携攻撃に、アルカナートはどう出るのか……!

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