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ゼロの輝き─無魔力追放からの反逆  作者: ジュン・ガリアーノ
第9章 アルカナートの追憶
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cys:192 逃亡

「アルカナートよ、ナターシャを止めろ!」


 クルフォスが大きな声で命じたが、アルカナートは動かない。

 自分に向かってくるナターシャを、ただ真っ直ぐ見据えたままだ。

 そんなアルカナートのすぐ側まで走ってきたナターシャは、横をスッと駆けながら静かに告げる。


「ごめんなさい。もう、来ないで」


 その言葉がアルカナートの心を呪縛のように一瞬で縛り、動く事をさせなかった。

 その隣を、ナターシャはそれ以上何も言わずに駆け抜ける。

 そして、出口をサッと駆け抜け姿をくらませた。

 まるで、一陣の風のように。


 その一部始終を見たクルフォスは、怒りと共に身を乗り出した。


「アルカナート! なぜだ?! なぜ……ナターシャを逃がした!!」


 苛立ちと共に怒鳴りつけたクルフォス。

 自分の命令を無視した事への怒りもあるが、そもそも、なぜアルカナートがそうしたのか分からないからだ。


「返答次第では、お前といえども決して許さん!」


 けれど、アルカナートはそれに答えずスッと瞳を閉じた。

 そして、心の中で思考を巡らす。

 ナターシャの言葉の意味を。


───ナターシャ、お前はなぜ……


 すると、脳内で糸がピンッと張るように繋がった。

 あの火事の日に拾った物と、今までの行動が。


───そうか、そういう事か! ナターシャ、お前は……


 アルカナートは全てを悟ると、くっ……! と、顔をしかめた。

 そして、スッと瞳を開きクルフォスを見据える。

 その胸に、ナターシャの切なる想いを抱きしめたまま。


「クルフォス、本当にいいんだな?」

「何を言っている、アルカナートよ。私はお前に命じたハズだ」


 苛立ちを交え答えたクルフォスに、アルカナートはバッと身を乗り出した。


「テメェじゃねぇ! クルフォス……本当のお前に尋いてんだよ!」

「なんだと? アルカナート、貴様何を言っている」

「んなもん……テメェが一番よく分かってるハズだろ!」


 とぼけるなと言わんばかりに怒鳴りつけ、クルフォスを見据えるアルカナート。

 感じていたからだ。

 さっき、明らかにクルフォスが変異した事を。


 無論、それが五大悪魔王による物だとまでは分かっていないが、アルカナートの目は誤魔化されない。


───チッ、あの野郎、何に取り憑かれてやがる……!


 だが、同時に分かっている。

 例えそうであれ、クルフォスは教皇。

 この国スマート・ミレニアムの最高権力者だ。


 そのクルフォスの命令に逆らい、このままナターシャを逃がせば自分であろうとも、いや、勇者という立場であるからこそ『逆賊』として粛正の対象にされてしまう事を。


───クソっ……!


 もちろん、自分自身だけであればアルカナートは迷わない。

 だが、脳裏に浮かぶのだ。

 クリザリッドとは敵になってしまうのはもちろんの事、セイラの悲しむ顔、そして、自分の大切な弟子達であるレイやロウやジーク達の悲しむ顔が。


───どうする……


 アルカナートは苦しくギリッと顔をしかめた。

 しかし、同時に思いを馳せる。

 ナターシャの抱えている闇と苦悩、そして、それを断ち切り救えるのは自分しかいないという事に。


───だよな……ナターシャ。アイツらは大切だが、お前ばっか犠牲にさせる訳にはいかねぇんだよ。


 アルカナートは心で決意を零すと、クルフォスを精悍な眼差しで見据えた。

 その瞳がキラリと光る。


「クルフォス、後悔すんなよ」

「何を言っている」

「フンッ」


 アルカナートは踵を返し背中のマントをバサッと靡かすと、チラッと振り向いた。


「俺は、俺の意思でアイツを追う」


 そう言い放ったアルカナートの眼差を見据えたクルフォスは、そのまま零すように告げる。


「さっさと行くがよい。アルカナート、お前の大切な者達の為にもな」


 その言葉が何を意味するか。

 それを、クルフォスからの圧と共に全て理解しているアルカナートは、瞳に宿る光を鋭く光らせた。

 そして、無言のまま前へ向き直る。

 心に燃える怒りと共に。


───ナターシャ、お前の闇は俺が祓ってやる……!


 心で誓い去ってゆくアルカナートの背を、その場の皆は黙ったまま見つめていた。


◆◆◆


「おい、いたか?」

「いや、こっちはいなかった」

「お前らの方もか。まあでもこれだけの包囲網、すぐに見つかるだろ」

「まぁそうだな。引き続き探すか」


 そう話し兵士達が去って行くのを見たナターシャは、物陰からチラッと周りを見渡すとサッと走り出した。

 しかし、少し走っていくとまた他の兵士達がウロウロ周りを警戒しながら歩いている。


「くっ……ここも包囲されてるわね」


 物陰に隠れながら、苦しそうに顔をしかめたナターシャ。

 このままでは彼らの言う通り、発見されて捕まるのは時間の問題だ。

 走ったのとはまだ別の意味で、額から汗がツーっと流れ落ちる。


───まだ、このまま捕まる訳にはいかないのに。


 だが同時に思う。


───でも、あの人の事を思うならむしろその方が……くっ、どうしたらいいの?!


 ナターシャが心でそう零すと、今まで晴れていた空が急に曇り出しポツポツと雨が降ってきた。

 そして雨は急速に勢いを増してゆく。

 まるで、ナターシャの焦りと哀しみに呼応してるかのように。


 するとその時、ナターシャの背後からスッと影が差した。

ナターシャの前に現れた者は……

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