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ゼロの輝き─無魔力追放からの反逆  作者: ジュン・ガリアーノ
第9章 アルカナートの追憶
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cys:191 クルフォスの変異

「くっ……!」


 玉座からサッと、立ち上がったクルフォス。


 それを鋭い視線で見据えながら、ナターシャは凄まじい勢いで向かってゆく。

 それを止めるべく兵士達が立ち憚るが、ナターシャはササッ! と、躱しクルフォスの前に近寄った。

 青い魔力クリスタルが輝いている。


 それを、クルフォスは鋭い眼差しで見つめた。


「お前……その力は魔力ではないな」

「そうよ……このクリスタルは、魔力じゃなく闘気で光る偽物だから。この国に潜り込む為にね」


 ナターシャがそう言い放つ中、アルカナートは初めて出会った時の事を思い出した。

 得も知れぬ違和感を感じた事を。


───そういう事かよ……!


 気付けなかった事に苛立ちを零すアルカナートを背に、ナターシャは黄金の短剣を逆手に持ち、悲壮な眼差しでクルフォスを見据えている。


「愛を裏切ったクルフォス、私は貴方を……絶対に許さないっ!」


 黄金の短剣を逆手に構えたまま、ナターシャはダッ! と、真っ直ぐクルフォスに跳び向かった。

 ナターシャの長く美しい髪が横に靡き、瞳の光が横に流れる。


「愛が血を流す痛みを……貴方も知りなさいっ!!」


 ナターシャは咆哮上げ腕を横に振り抜き、黄金の短剣でクルフォスに斬りかかった。

 黄金の短剣がアーチを描き襲いかかる。


「ハァァァァッ!」

「うっ……!」


 そして、ドカッ!! と、いう鈍い音と共に床にポタポタと血が流れ落ちた。


 あまりの出来事に、思わず口を開き目を丸くするアルカナート達。

 その瞳に映る。

 クルフォスがナターシャのそれを片腕で受け、血と、涙を流しているのを。


「ナターシャ……すまない……」


 無論、腕の傷に涙を流している訳では無い。

 それは、まるで懺悔の涙である事は、誰の目にも明らかだった。

 当然ナターシャもそれを感じ、苛立ちに顔をしかめる。


「なによ……なんで、なんで涙なんか! 愛を裏切り、母を捨てた貴方なんかが……!」


 そう言い放ち、切なる激しい怒りと共にギリッと歯を食いしばりながら、ググっと短剣に力を込めるナターシャ。

 クルフォスが涙を流す姿から感じてしまうから。

 全ての罪を受け入れ、贖罪をするような清らかなオーラを。


「今さら……今さら善人ぶらないでよ!」

「ナターシャ、私も本当は受け入れたいのだ。お前の想いを心臓に、この短剣ごと……」

「うるさい……今さらなによっ!!」


 クルフォスを怒鳴りつけたナターシャの瞳に、涙がジワッと滲む。


 辛く貧しくとも温かい愛を持って育ててきてくれた母親の、切なる想いをずっと感じて生きてきたから。

 母親にそんな想いをさせたクルフォスは、悪人であるハズだし、むしろ、そうあってほしかった。


───これなら私は、今まで一体何の為に……


 くっ! と、目を閉じ顔をそむけたナターシャ。

 そんなナターシャを、涙を流し見つめるクルフォス。

 だがそんな中、クルフォスの脳内にピンッ! と、漆黒の閃光が走る。


「ううっ……!」


 クルフォスは苦しそうにうめき声を漏らすと、邪悪な゙笑みをニヤリと浮かべ、体を小刻みに震えさせながら静かに嗤い出した。

 オーラが今までの清らかな物から、邪悪なそれへとズズズズッ……と、変わってゆく。


「クククッ……」


 その異変に気付いたナターシャがハッと目をやると、クルフォスは斬りつけられてる腕にグッと力を込める。


「えっ?」


 思わずナターシャがそう声を漏らした瞬間、クルフォスの裏拳が炸裂した。


「きゃあッ!」


 悲痛な叫びと共に、殴り飛ばされたナターシャ。

 だが、すぐに体勢を立て直し、切れた唇に滲んだ血を片手で拭いながらクルフォスを見据える。


「くっ……なんなの一体……?!」


 ナターシャは殴られた痛みよりも、クルフォスから放たれるオーラの異変に苦しく謎めいた顔を浮かべた。

 しかし、それが何なのかを考える暇もなく、クルフォスはバッ! と、片手を前に伸ばし号令をかける。


「その女を殺せっ!」


 クルフォスの残酷な号令が広間に響き渡ると同時に、その場で固まっていた兵士達が一斉に動き出しナターシャに向かっていった。


「うぉぉぉぉっ!」「この狼藉者が!」「その首を跳ねてやる!」


 怒声を上げながら剣を振りかぶり、ナターシャに襲いかかる兵士達。

 教皇の命令ともあり、皆目が殺気立っている。


 だが、ナターシャは彼らの斬撃を素早く躱すと、教皇の間の出口にザッ! と、駆け出した。


───ここまで来たのに……!


 心の中が悔しさの渦を巻く。

 だが、奇襲が失敗した以上このままでは殺されるのは明白。

 また何より、実は今日斬りかかった事は、ナターシャ自身が予定していた事ではなかったのだ。


───でも、我慢出来なかった。あの男の顔を見たら……!


 ギリッと悔しさを噛み潰しながら、出口に向かい駆けるナターシャ。

 しかし、その前に立ち憚る。

 静かに自分を見つめているアルカナートが。


───くっ、アルカナート……!


 ほんの数旬の間の出来事ではあるが、二人は時間がゆっくりと流れるように感じた。

 まるで、その時を迎える事を、お互いが拒否しているかのように。


 だがそれも虚しく、現実には二人の距離は凄まじい早さで縮まってゆき、ナターシャはアルカナートの目の前の距離まで近付いた。

 アルカナートはそれを鋭く、だが、静かに真正面から見据える。


───ナターシャ……俺は……!

向かってくるナターシャに、アルカナートはどう出るのか……!

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