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ゼロの輝き─無魔力追放からの反逆  作者: ジュン・ガリアーノ
第9章 アルカナートの追憶
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cys:189 任命辞退と不穏な呼び出し

「セイラ、クリザリッド、そしてアルカナート。今日はお前達に話がある」


 荘厳な王の間に、玉座に腰かけているクルフォスの低く威厳のある声が響く。

 アルカナート達は跪いたままそれを受けた。

 そんな彼らにクルフォスは告げる。


「アルカナート、これまでの戦や先日の救出劇見事であった」

「別に、当たり前の事をしたまでだ」

「フッ、なかなかそう言えるものではない」


 クルフォスはそう言って軽く口角を上げると、兜型の仮面の下から精悍な瞳でアルカナートを見据えた。

 只ならぬ決意が伝わってくる。


「アルカナートよ、そなたは仁・智・勇に優れ民からの信頼も厚い、スマート・ミレニアム最高の勇者だ」

「そんな大層な者ではないさ」

「いや、アルカナート。謙遜が過ぎるぞ。私は、そなたを、次期教皇として任命する……!」

「なっ?!」


 思わずアルカナートが声を上げた中、セイラがパァァァァァッと顔を輝かせた。

 大好きなアルカナートが認められた事が、自分の事以上に嬉しかったから。

 そして、跪いたままアルカナートの方へ振り向いた。


「わあっ! 凄いねアルカナートっ! おめでとう♪」


 ただ、その横でクリザリッドは神妙な顔をして瞳を閉じている。

 セイラと違って素直には喜べない。


───くっ……なぜアルカナートが……!


 そんなクリザリッドを、クルフォスは静かに見据えたまま告げる。


「クリザリッドよ。お前はアルカナートが教皇になった暁には、側でしっかりと支えてもらわねばならん」

「はっ……!」

「今、若く有能な者達が育ってきているがまだ未熟。彼らを育て……」


 クルフォスがそこまで言った時、アルカナートはザッと立ち上がった。

 そして、端的に言い放つ。


「断る」

「なんだとっ?!」


 アルカナートの予想だにしない答えに、クルフォスも思わず玉座から立ち上がってしまった。


「アルカナート、なぜ断る?!」


 クルフォスの言った事は最もだった。

 教皇はスマート・ミレニアムの最高権力者であると同時に、王宮魔導士であれば誰もが憧れ目指す場所だからだ。


 現にそこを目指していたクリザリッドは、大きく目を見開きアルカナートを見つめている。

 無論、セイラも同じだ。


 そんな眼差しで皆から見つめられるが、アルカナートは微塵も動揺しない。


「悪いが、俺は教皇ってガラじゃない」

「何を言っているアルカナート!」

「俺は、この目に映る奴らを守るので精一杯なんだ。悪いが他を当たってくれ」

「ぬぅっ……アルカナートよ、どうしても断ると言うのか」

「あぁ。俺は吐いた言葉は覆さない」


 アルカナートの見上げる眼差しと、それを見下ろすクルフォスの眼差しが静かにぶつかり合う。


 その状態が暫しの間続くと、教皇はフッと息を吐き玉座にドカッと腰かけた。

 それと同時にアルカナートはクルッと背を向け、その場から歩いてゆく。


 それを見て、思わず呼び止めるセイラとクリザリッド。

 

「アルカナート!」 

「おい、待てアルカナート!」


 その言葉にピタッと足を止めたアルカナートに、クリザリッドはサッと駆け寄り顔を覗き込んだ。


「アルカナート、お前正気か?! なぜ教皇様からの任命を断る!」

「聞いてなかったのか、クリザリッド。今しがた言った通りだ」

「バカな……!」


 取りつく島のない態度のアルカナートに、クリザリッドの苛立ちが加速する。

 クリザリッドとしては複雑な心境だ。


 アルカナートが辞退すれば自分にチャンスがあるかもしれないという気持ちもあるが、同時に、自分が目指す物をあっさりと蹴られた事に、プライドが傷付けられたようにも感じてしまうから。


「考え直せ、アルカナート。このようなチャンス、二度と無いのだぞ……!」

「くどいぜクリザリッド。俺は、何度も同じ話はしない主義だ」

「くっ……!」


 その様子をセイラは切なそうな顔で見つめたまま、何も言おうとはしない。

 クリザリッドの言う事はもっともだが、アルカナートが自分の言った事を反故にする事は、絶対無いのを分かっているからだ。


───アルカナート、でも、本当にそれが理由なの……?


 セイラが心でそう問いかける中、クルフォスが玉座に腰かけたままアルカナートの背に声をかける。


「アルカナートよ」

「……なんだ?」


 静かに振り向いたアルカナートは、先程の言葉に警戒するような眼差しを向けた。

 そんなアルカナートに、クルフォスは静かに命じる。


「お前が先日救い出したナターシャという女、ここへ連れてこい」

「ナターシャを? なぜ?」


 背中のマントをバサッと靡かせ振り返ったアルカナートに向かい、クルフォスは軽く口角を上げた。


「お前が命をかけて救う程の女、如何ほどのものかこの目で見ておきたくてな」

「別に、大した理由など無いさ」

「アルカナートよ、任命を断るのは自由だが命令には従ってもらう。例え、お前であってもな」


 そう告げクルフォスがジッと見据えると、アルカナートは再びマントをバサッと翻し背を向けた。


「後で連れて来る」


 もちろん、気乗りはしないが任命を蹴ったのもあり、従う事にしたアルカナート。

 だが、この時はまだ知る由もなかった。

 これが、終りを告げる命令になる事を。

クルフォスはただの興味本位なのか? それとも……

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