表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゼロの輝き─無魔力追放からの反逆  作者: ジュン・ガリアーノ
第9章 アルカナートの追憶
190/251

cys:188 レイの怒りとロウの諭し

「どこって……」


 矢継ぎ早に告げてくる少女に少し気圧されたが、ナターシャはすぐに立て直し凛とした瞳で少女を見つめた。


「私はナターシャよ。私もアルカナートを探してるの」

「ふ~~ん……」


 そう零し少し疑った顔を向け見つめる少女と、ナターシャの視線が交叉する。

 少女は強く睨んでいるが、ナターシャはそれを包み込むような眼差しだ。


 それを感じた少女はナターシャのそれに耐えられず、少し顔を火照らせプイっと横を向いた。


「まあ別にいいわ。だって、アルカナートはレイの物だもんっ!」


 その言葉で全てを理解したナターシャは一瞬目を丸くすると、優しく微笑んだ。


「フフッ、そうなんだ。じゃあ、早く見つけないとね♪」

「な、なによ! そんな、よゆーな態度できるのも今の内なんだからね!」

「そうねレイ。貴女は可愛いし、強力なライバルとして覚えておくわ♪」


 ナターシャの微笑む姿に納得のいかないレイ。

 まだこの頃は幼いが、盗賊から救い出してもらったのを機に、アルカナートに強烈な恋心を抱いているからだ。

 なので、再びナターシャの方へ振り返ると大きく口を開いた。


「ナターシャ、あなたもキレイだけど絶対負けないから!」

「分かったわ。よろしくね、レイ♪」

「ふんっ……一応覚えといてあげるわ」


 軽くムスッとしながらそう答えた時、レイの後ろからダルそうな声が聞こえてくる。


「おいレイ、なんでこんなとこにいんだよ」

「アルカナートっ♪」


 レイは、その声にパァァァァァッと顔を明るくして振り向いた。

 ついさっきまで怒っていた顔からは、想像出来ない程の表情だ。

 そしてタタッと駆け寄ると、可愛く顔をムスッとさせながらアルカナートを見上げる。


「ねぇアルカナート、あのナターシャって(ひと)誰なの」

「ハンッ、てめぇには関係ねぇこった」

「あるわよ! だって、あの(ひと)、なんか……凄く、キレイだし、大人っぽいし……」


 少しもじもじしているレイに、アルカナートは面倒くさそうにサラッと言う。


「まあ、ナターシャ(あいつ)は大人だからな」

「ほらやっぱり! ダメなんだからねっ!」

「ったく、何がダメなんだよ。ロウ、こいつをなんとかしてくれ」


 そうボヤくとアルカナートの後ろから、まだ少年時代のロウがスッと姿を現した。


「えっ、ボ、ボクがですか?!」


 もちろん、この頃はまだ王宮魔導士ではなかったが、その類稀なる魔力と頭脳でアルカナートに才を見出されていたのだ。

 けれど、まだ少年という時期の為、女の子と話すのは苦手で仕方ない。

 特に、レイのように綺麗な相手だと尚更緊張してしまう。

 だが、敬愛するアルカナートから言われた以上、ここは上手く収めなきゃという気持ちが緊張を上回る。


「う~~ん……」


 少し唸りながら思考を巡らすロウに、レイがキツく睨んできた。

 勝ち気な気質はこの頃から健在だ。


「ロウっ! 邪魔しないでよねっ」

「……する訳ないだろ。だってこのままいけば、次の稽古はボクの時間が増えるんだから」

「はあっ? どういう事よ」


 謎めいた顔でイラっとするレイを、ロウは軽く顎に手を当て慧眼な瞳で見つめる。

 ロウのこの癖もレイと同様、この頃から既にあった。


「だってそうだろ。先生は自分の言う事を聞かない人が嫌いだ。嫌いな人に稽古はつけない。だから、その分、ボクの時間が増えるって訳さ」


 ロウはそこまでサクッとレイに告げると、アルカナートの事を軽く見上げ微笑んだ。


「先生、この解答は合ってますか?」

「フンッ、満点の解答だ」

「なっ、なによっ……!」


 レイは悔しいという顔を浮かべてロウを睨みつけたが、チラッとアルカナートを見上げると諦めざるおえなかった。

 アルカナートの横顔がロウの解答を、言葉通り全肯定している事を伝えてきているから。

 なのでレイは、ムスッとした顔でクルッと踵を返した。


「わかったわよ……! あっち行けばいいんでしょ! 別にナターシャなんて……私の敵じゃないし! フンッ!」


 そう言ってプンスカしながら歩いていくと、ロウがアルカナートにペコリと頭を下げた。

 サラサラの髪がスッと零れる。


「先生、後はボクが……」 

「任せたぜ」

「はいっ!」


 そしてロウとレイが去ったのを見届けると、アルカナートはナターシャを見つめた。


 また、ナターシャもアルカナートを見つめている。

 さっき夢で会った記憶を重ね合わせながら。

 けれど、敢えてその想いは抑えたままニコッと微笑んだ。


「元気な子達ね。レイは綺麗で気が強そうだけど、その分凄い魔力を秘めてるし、あのロウって子もそう。それにあの子は、頭も貴方と同じくらいキレそうね」

「フンッ、少し話しただけでそこまで分かるとは流石だな」

「そんな事ないわ。ただ、子供が好きなだけ」


 そう零し、ナターシャは少し切なそうにうつむいた。

 子供が好きだと言っているにも関わらずだ。

 その理由をある程度察している、アルカナートの胸が痛む。


───ナターシャ、お前は……


 だが、同時に気になってしまう。

 ナターシャの本当の目的が。


 それを単刀直入に尋けばいいのかもしれないが、アルカナートの直感が告げるのだ。

 抱えてる闇が、途轍もない物である事を。

 なので、不本意ではあるが、まずはそれとなく問いかける。


「子供が好きか。まっ、お前ならいい母親になるだろうよ」


 しかしそう告げた事により、ナターシャの瞳に静かな怒りが走った。


「ないわよ、そんな事……」


 両手をギュッと握りしめたナターシャからは、静かな怒りが立ち昇っている。

 しかしそれは、アルカナートに向けたモノではなく、自身の何かに対してのような雰囲気だ。

 それを感じたアルカナートは、一瞬スッと瞳を閉じナターシャを見つめた。


「そうか。ただ、俺はお前の事をそう思っている」

「アルカナート……」

「それに、お前の事はこの俺が必ず守ってみせる。例えお前が、誰に狙われようとな」


 そう告げ見つめるアルカナートの瞳が、揺らめく光と共にナターシャへ伝える。

 ナターシャが抱えている闇。

 そこから必ず救い出す決意と強さを。


「アルカナート。私は……」


 その光を受けたナターシャの心が揺れる。

 だがその時、控室のドアがコンコンとノックされ、一人の兵士が入って来た。


「失礼します」

「なんだ?」


 軽く振り向いたアルカナートに、兵士は跪き告げる。


「教皇様がお呼びです」

「教皇が?」

「はい。至急、教皇の間に来るようにと。セイラ様とクリザリッド様もお待ちしております」


 そう告げられたアルカナートはナターシャの方へ再び振り向くと、フウッと溜め息を零した。

 ナターシャの口から、何か大事な事を聞けそうだったのにもどかしい。


「すまん、呼び出しだ」

「忙しいのね」

「面倒くせぇだけさ。すぐに戻る」


 アルカナートはナターシャにそう答えると、クルッと背を向け教皇の間へと向かった。

教皇から突然の召集令。一体何が……

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ