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ゼロの輝き─無魔力追放からの反逆  作者: ジュン・ガリアーノ
第9章 アルカナートの追憶
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cys:187 悪夢が告げるナターシャの使命

「アルカナートっ!」


 セイラを抱き抱えているアルカナートの所へ、セイラが血相を変えてタタッと駆け寄ってきた。

 綺麗なミディアムヘアが、吐息と共に軽く揺れている。


「ナターシャは?!」

「心配すんな。疲労で眠ってるだけだ」

「よかった〜〜〜」


 安堵の表情を浮かべスッと肩を落としたセイラは、ナターシャの顔をそっと見つめた。

 アルカナートが言った通り、抱き抱えられたまま眠っている。


「でも、何で燃えてる中に入っていったのかなぁ?」

「……さあな」


 アルカナートは理由をある程度察していたが、敢えて何も答えず静かに零した。

 精悍な横顔には哀しみの影が差している。


 もちろん、セイラはその横顔を見つめながら感じていた。

 アルカナートが何かを知っている事を。

 しかし、アルカナートが答えなかった以上、尋ねてもムダだというのも分かっている。

 なので、フッと軽く息を吐くとニコッと微笑んだ。


「まあでも、無事でよかったよかった♪ さっすがアルカナートだねっ♪」

「フンッ、なーーに呑気な事言ってやがる。面倒くせぇのはここからだ」

「まぁまぁ、確かにお店は燃えちゃったけど、私達で手伝えばいいんだし♪」

「ったく、気楽で羨ましいぜ。取り敢えずコイツを家まで運ばねぇとな」


 そう零した時、アルカナートはふと思った。


「セイラ、知ってるか?」

「えっ、何を?」

「ナターシャの家だよ」

「あーーーっ、知らない……」


 どーしよ? と、いう顔を浮かべるセイラ。

 その側で、アルカナートはダルそうに斜め下を向いた。

 さっきの事が悔やまれる。


「チッ、やっぱり送ってくべきだったぜ」

「ん、どーゆ―事?」

「なんでもねぇよ。じゃあ仕方ねぇ、お前の……」


 そこまで零したが、アルカナートは言葉を止め考えた。

 さっき炎の中でこちらを見据えていた謎の男の事が、サッと脳裏をよぎったからだ。


───セイラ(こいつ)の家に預けるのはマズい。もしかしたら、セイラ(こいつ)にまで危険が及ぶ可能性がある。


 セイラの身を案じるアルカナート。

 無論、セイラは王宮魔導士なのでそこらの女とはまるで違う。

 だが、アルカナートはセイラに万が一の事があるのは許せないのだ。

 大切な存在だから。


───けど、クリザリッドの手前もあるし俺の家に連れてく訳にもいかねぇ。どうするか……


 アルカナートは思考を巡らすと、フッと軽くため息を吐いた。


「お前の家ならどうかと思ったが、お前ん家は汚そうだから却下だな」

「はあっ? 私ん家は超キレイにしてるわよっ!」

「さぁどーだか」

「もーーーーなによっ! アルカナートのバカっ!」


 セイラがむすーーーっと頬を膨らます中、アルカナートはナターシャの寝顔を静かに見つめている。

 完全に眠っていて、しばらくは目を覚ましそうにない。


「仕方ねぇ。王宮の控室に連れて行く」

「あそこに?」

「あぁ。あそこなら一晩ぐらい問題ねぇだろ」

 

 アルカナートが言った場所は、王宮魔導士達専用の控室だ。

 控室とは言っても王宮魔導士専用である為、相当な広さがあり設備も整っている。


 アルカナート達が現役を退いた後はノーティス達が使う事になるのだが、それはまだ先の話。

 今はアルカナート達が、各々の趣味全開で使っている。


「てな訳で、俺はナターシャ(こいつ)を運んでいく。テメェはさっさと帰んな」


 そう言ってクルッと背を向けたが、セイラはタタッと前に回り込みアルカナートを見上げた。


「私も行くっ」

「はあっ? もうこんな時間だぜ」

「それはアルカナートも一緒でしょ。それに、何か手伝える事があったらしたいし」

「チッ、勝手にしやがれ」

「わーーい♪」

 

 そんな二人の姿を、後から来たクリザリッドは気配を消し物陰から見つめていた。


「くっ……アルカナート、お前……!」


 本当は自分のナターシャの看護をしたかったが、性格が災いして踏み出せない。

 クリザリッドは自身のそんな性格を疎ましく思いながら、ギリッと顔をしかめた。


◆◆◆


「うぅっ……」


 眠りながら、苦しそうに顔をしかめているナターシャ。

 悪夢を見ているからだ。

 様々な情景が襲う中、全身からドロドロとした黒いオーラを放つ男がナターシャを見据えている。


『ナターシャ、お前の使命を忘れた訳ではあるまいな』

『わ、私は……』

『忘れるな。お前の使命を』


 ナターシャを見据える男の瞳が、不気味に赤く輝く。

 その光を受けたナターシャは、怯えた表情を浮かべたままザッと後ろに退いた。

 

『分かってるわ……でも、でも……!』


 切なさを宿した瞳で訴えるように見据えるが、男の表情は変わらない。

 邪悪な眼差しでナターシャを見据えたままだ。


『ナターシャよ、もう退く事は叶わん。その迷い、もう一度闇に染めてやる』


 男はそう告げると、ドロドロとした黒いオーラを湧き出させながら、ナターシャに向かいズイッと片手を伸ばしてきた。

 ナターシャに男の放つ黒いオーラが迫る。


『いやっ……! やめて!』


 逃げ出したいが、なぜか身体が動かないし目を逸らす事も出来ない。

 が、その時、白い光の斬撃が突然現れ男の腕を斬り裂いた。


『ぬうっ、貴様は……!』

『なめてんじゃねぇよ……! 汚ねぇ手でナターシャ(こいつ)に触んなっ!』


 その声と共にナターシャの瞳に映った。

 背のマントを靡かせ、男を睨みつける勇者の姿が。


『アルカナート……!』


 その瞬間ナターシャは目を覚まし、バッ! と、上半身を起こした。


「ここは……」


 控室で目を覚ましたナターシャは周りを見渡したが、ここがどこだか分からない。

 ただ、アルカナートやセイラ、クリザリッド達の置いてある様々な物が瞳に映る。

 まだ脳裏に残っている先程の夢の憧憬と共に。


「もしかしてここは……!」


 勘のいいナターシャはここが控室だとまでは分からなかったが、王宮の内部である事は察しがついた。

 また、ここに運んできてくれたのがアルカナートであろう事も。


───アルカナート、ありがとう。でも、私は……


 ナターシャの胸に切ない想いが去来する。

 先程の悪夢は夢であると同時にナターシャの心その物であり、事実だったからだ。


───決して逃れられないの……


 その想いを抱える中、ナターシャはベットから降りゆっくり部屋を見回り始めた。

 窓から射しこむ優しい陽光が、自分が一晩完全に眠っていた事を告げてくる。

 また、自分が行わなければいけない使命も。

 だが、ナターシャはその時同時に思い出しハッとした。


───あっ、アレはもう……


 悔しさにギュッと拳を握りしめると、控室のドアがガチャッ! と、勢いよく開けられた。


「アルカナート!」

「えっ?」


 ナターシャがその声の方へサッと振り向くと、そこには美しい髪を揺らしながら綺麗な瞳で部屋をキョロキョロと見回す少女の姿が映った。


「貴女は……?」

 

 その少女が誰か分からず不思議そうに見つめたが、少女はナターシャを見るなりキッ! と、強く睨んできた。

 綺麗な瞳に、疑惑と嫉妬の炎が宿っているのを感じさせる。


「あなたこそ誰なの?! 大体、なんでここにいるの! アルカナートはどこよっ!」

この少女はまさか……!

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