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ゼロの輝き─無魔力追放からの反逆  作者: ジュン・ガリアーノ
第9章 アルカナートの追憶
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cys:184 忠告と恋心

「おいアルカナート、ちょっと顔を貸せ」


 あれからしばらくの月日が経った頃、クリザリッドが急にアルカナートを呼び止めた。


「なんだよクリザリッド。俺は戦いで疲れてんだ。面倒くせえ用事なら勘弁願いてぇんだが」


 相変らずダルそうに零すアルカナートだが、クリザリッドは諦めない。


「それはこちらも同じだ」

「チッ。で、なんだよ」

「要件は二つだ」

「二つ? 面倒くせえな」


 アルカナートは心底ダルかったが、クリザリッドが退きそうにもなかったので渋々付き合う事に。


「仕方ねぇ。じゃあアステール・ダストにでも行くか」

「そ、それはダメだ! アルカナート!」

「はあっ? 何でだよ。何か訳ありそうだし、立ち話じゃ何だろ」


 アルカナートの言う通りではあるのだが、クリザリッドは珍しくアタフタと慌てている。

 その発言と表情に、アルカナートはピンときてニヤリと笑みを浮かべた。


「クリザリッド、お前さては……」


 アルカナートがそこまで言いかけた時、後ろからセイラの元気な声が。


「アルカナートーーーっ♪」


 その声と笑顔共に、セイラは背中にパフッと飛びついた。

 クリザリッドを始め他の人達も周りにいるが、セイラは満面の笑みでアルカナートに抱きついている。


「今日も大活躍だったねーー! カッコよかったよっ♪」

「あぁ。ただその活躍も、お前の重さで台無しだ」

「なによっ! イジワルばっかり言って。もーーっ!」


 可愛く頬を膨らませるセイラ。

 まあ、いつも通りのやり取りなのだが、アルカナートはセイラを背中からスッと離し、ニヤッと軽く微笑んだ。


「セイラ、お前も来るか」

「クリザリッドが、何やら話があるんだとよ」

「えっ、クリザリッドが?」


 キョトンとした顔でセイラが見つめる中、クリザリッドは片手を額に当ててうつむいた。

 勘弁してくれと言わんばかりの顔だ。


「おい、アルカナート。お前……!」


 だが、アルカナートはニヤリと笑いクリザリッドの肩にポンと片手を置いた。


「まっ、いいじゃねぇか。コイツも一応女だしよ、野郎同士で話すよりも案外いい知恵出るだろ」

「お、お前、何でそれを……!」

「フンッ。テメェは分かりやすいんだよ」

「うっ……」


 クリザリッドが顔を火照らす中、セイラはアルカナートに身を乗り出しプンスカしている。


「ちょっとアルカナート、一応女ってどーゆー事よっ! これでも人気あるし、ブロマイドだって売上トップなんだからっ」

「はんっ、物好きが多い国だぜ」

「もーーーっ、なんなんっ!」


 セイラが可愛く腕をブンブン振っていると、クリザリッドはハァッ……と、ため息を零しアルカナートを見据えた。

 その瞳に真剣な光が宿る。


「もうここでいい。一つ目からだ」

「あっ? なんだよ」

「アルカナート、お前最近……躊躇(ためら)いが出てないか」

「なんだと?」


 アルカナートの眉がピクリと動いた。


「何を証拠にそう思うんだよ」

「それはアルカナート、お前自身が一番分かっているハズだ」

「チッ……」


 アルカナートはバツが悪そうに、視線を斜め下に逸らした。

 クリザリッドが告げてきたように、自分自身でよく分かっていたからだ。

 以前と違い、敵にトドメを刺す時に躊躇いを感じている事を。


「心当たりがあるようだな……」


 クリザリッドの呟きに黙ったままのアルカナートだが、理由はハッキリしていた。

 以前、ナターシャから告げられたあの言葉。


『うぅん……ただ、ただ、それでも斬られた相手の残された人達は悲しむわ……』


 それが、心にトゲのように刺さっているからだ。


「アルカナート、お前程の力があれば、正直影響はさほど大きくはない。だが、もしその隙にお前に万が一の事があれば、この国の戦力は大きく傾く」


 昼下がりの陽光が照らす中、ビュッと吹いてきた風が艶のある髪を風を靡かせた。


「フンッ……ご忠告ありがとよ。肝に命じておくぜ」

「ほぅ、お前にしては随分と素直だな」

「別に……そういう時もあるだけさ」


 アルカナートは軽く横顔を向けたまま端的に答えると、軽くため息を吐きクリザリッドをチラリと見据える。


「で、もう一つはテメェの事だろ? クリザリッド」

「あ、あぁ……」


 クリザリッドは、今までの戦士としてでの顔ではなく、一気に別の表情を浮かべ再び顔を火照らせた。

 そして、額からツーっと汗を零し瞳を軽く閉じると、言いにくそうに口を開く。


「実は……その……ナターシャに、惚れたらしい」

「フンッ、やっぱりか」


 ニヤリと笑うアルカナートの側で、セイラは驚いて目を大きく見開いた。


「えぇっ?! ナターシャに?! クリザリッドが?」


 セイラが驚くのも無理は無かった。

 クリザリッドは見た目はカッコいいし、王宮魔道士としてアルカナートと二分する程の人気もある。

 だが、今までクリザリッドが女に興味を示した事など、少なくともセイラが知る限り一度も無かったから。


 そんなクリザリッドの恋心に、セイラは興味津々だ。

 

「ねぇっ、いつから? どこを好きになったの? まーーやっぱりナターシャ可愛いもんねーー♪」


 ニコニコしながら矢継ぎ早に話すセイラに、アルカナートは顔をしかめた。


「おいセイラ、ちょっと黙ってろ。クリザリッドが話せねぇだろうが」

「えーーーっ、だって気になるーーー♪」

「ったく……」


 アルカナートは軽く呆れながら、クリザリッドに告げる。


「あの日からだろ」

「あぁ……そうだ」

「やっぱりか。最近様子がオカシイと思ったぜ」

「わ、分かっていたのか……」

「当たり前だろ。テメェは俺の仲間なんだからよ」

「アルカナート……」


 クリザリッドはそこから語り始めた。

 あの日、初めて出会った時にナターシャから淹れてもらったコスモティー。

 それ以来、ナターシャの事が気になり店に頻繁に通う内に、より惚れてしまった事。

 ただ、今まで自分から女にアプローチした事がなく、どうしていいのか分からない事について赤裸々に。


「どうしたらいいんだ、アルカナート」

「フンッ、どーしたらいいも何も、さっさと付き合っちまえばいいじゃねぇか」

「バカっ、それが出来ないから困ってるんだろうが」

「ったく……らしくねぇなぁ、おい」


 アルカナートがそう言って軽く笑うと、セイラが人差し指を立ててクリザリッドにグイッと顔を近づけた。


「そーゆー時はね、普通にしなきゃダメよ」

「ふ、普通に?」

「そう。ドキドキするのは分かるけど、不自然にすると相手も不自然になっちゃうから」

「そ、そーゆーものか」

「トーゼンでしょ♪ ねっ、アルカナート♪」


 ニコッとして振り向いたセイラに、フッと息を漏らしたアルカナート。


「まっ、そうだな。お前には何の感情も沸かねぇけどな」

「もうっ! でも、別にいーーーもん。私が好きならそれでいいのっ♪」


 いくらアルカナートから不躾な態度を取られても、セイラの態度は変わらない。

 何だかんだと言いながら、戦闘中はいつも密かに気にかけてくれてる事を知ってるし、アルカナートの不躾な態度が、一種の甘えだと思ってるから。


 そんな二人を見つめるクリザリッドは、二人にスッと背を向け歩き出した。


「いらぬ手間をかけたな」

「おい、今から行くのか」

「……まぁ、気の向くままにな」

「そうか。まっ、せいぜい頑張んな、応援はしてやるよ」


 その言葉を受けたクリザリッドの背中のマントが、礼を告げるようにバサッと風に靡いた。

ナターシャに惚れたクリザリッドだが……

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