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ゼロの輝き─無魔力追放からの反逆  作者: ジュン・ガリアーノ
第9章 アルカナートの追憶
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cys:183 問いかけるナターシャ

「ナターシャ、見事な対応だったな」


 席に戻ったナターシャにアルカナートは静かに告げた。

 実際さっきの対応は並みの女に出来る物ではなく、確固たる自身のプライドと信念を感じさせる物だったから。

 また、アルカナートはそんな女が嫌いではなかなった。


───いい女だ。


 そんな気持ちを敏感に感じたナターシャは、軽く頬を赤らめたがクールな表情は崩さない。

 思った事や感情を、あけっぴろげに表すセイラとは対照的だ。


「ほーーーんとにそうね♪ ナターシャ、貴方の対応素敵だったわ♪」

「ありがとう、セイラ、アルカナート」


 ナターシャはそう言って静かに微笑むと、アルカナートをジッと見つめた。

 今までと違い、少し緊張した面持ちだ。


「ねぇアルカナート」

「ん? なんだ」

「一つ尋いてもいいかしら」

「……別に構わんが」


 静かにそう答えたアルカナートに、ナターシャはそっと問いかける。


「戦ってて、辛いと思った事は無いの……?」


 その問かけがアルカナートの胸にスッと入り込み、今までの事を思い出させてゆく。

 まるで、ナターシャの問いかけが、アルカナートの記憶装置のスイッチを入れたかのようだ。

 それにより、少し黙ったまま紅茶をすするアルカナート。


 また、その横顔をセイラも少し切なく見つめている。

 今まで一番近くで、アルカナートと生死を共にしてきているから。


───アルカナート……


 そんな切ない眼差しを受ける中、アルカナートはゆっくり口を開く。


「この紅茶、この味になるまでに相当苦労しただろ」

「えっ? まぁ、そうだけど……」

「それと同じだ。その時辛くても、結果平和が守れりゃそれでいい」

「そうか。そうよね……」


 ナターシャは少し哀しそうに零した。

 それを見て、アルカナートは静かに告げる。

 その哀しみが何を意味するかを分かっているから。


「大事なのは、戦士としての誇りだ」

「戦士としての誇り?」

「あぁそうだ。人なんざ斬らなくて済むなら、それに越した事はない。本当はよ、こうして美味い紅茶や酒を飲んでいられりゃいいんだ」


 アルカナートはそこまで告げると、紅茶を一口飲んでから続ける。


「けど、戦場ではそんな事言ってられねぇのさ。相手が自分と同じで、大切なモノを背負ってる事を分かっていても斬らなきゃならねぇ。だから、正面から正々堂々全力で叩き斬る。それが戦士としての誇りだ」

「アルカナート……!」


 セイラが少し潤んだ瞳で見つめる中、ナターシャは膝に置いた両拳にギュッと力を込めた。


「そう……よね」

「不満か?」

「うぅん……ただ、ただ、それでも斬られた相手の残された人達は悲しむわ……」


 ナターシャのその言葉に、さすがのアルカナートも黙ったままだ。

 分かっているからだ。

 どんなに戦士の誇りを持って相手を倒そうとも、結局相手の命を絶ち、そしてナターシャが言ったように、残された遺族の悲しみは決して癒える事は無いという事を。


「その通りだ……」

「じゃあなぜ? あの国と仲良くする事は……出来ないの?」

「……分からねぇよ。ただ、俺もセイラもクリザリッドも、この国を守る為に戰うのが使命だ」


 そう告げると、皆一様に黙り込んだ。

 そんなアルカナート達を、店内の星座のオブジェが照らす。

 まるで、それぞれの気持ちを癒やそうとするかのように。


「ごめんなさい……変な事尋いてしまって。せっかく助けてくれたのに……」


 ナターシャがすまなそうに零すと、アルカナートはスッと一瞬瞳を閉じた。


「気にするな。ナターシャ、お前の想いは間違ってはいない」

「アルカナート……」

「だがすまん。お前の納得いく答えは、まだまだ出せそうにはない」

「いいの。ごめんなさい、こっちこそ」


 そう言って二人が静かに黙っていると、セイラがちょっと首をかしげて唸り、胸の前でパンッ! と、両手を叩いてニコッと笑みを浮かべた。

 このシリアスな雰囲気に耐えれなかったから。


「はーーーい、二人とも重い話はここまでーーーーーーーーっ。ささっ、みんなでもう一回コスモティーで乾杯しましょ♪ ほーーーら、かんぱーーーいっ!」


 セイラがそう言って思いっきりテンション高くカップを掲げると、ナターシャは思わずクスッと笑った。

 それに釣られ、アルカナートもいつもの表情に戻りハァッ……とため息を零した。


「ったくセイラ、お前は気楽でいいよな」

「いーーーーじゃない。気楽の何がいけないのよ。ほら、せっかくなんだしパーッといきましょ♪」


 そう言ってコスモティーをグイッと飲み干すセイラ。


「かぁーーーーーっ、この一杯がたまりませんな♪」

「フフッ♪ セイラ、それじゃまるでビールじゃない」

「やっぱり、紅茶もビールものど越しですよっ♪」

「セイラ、てめぇ何言ってんだよ。けどま……この紅茶が美味い事に違いはねぇ」


 アルカナートはそう言ってセイラと同じくグイッと飲み干すと、ソーサーにカチャッと置きナターシャを見つめた。


「ナターシャ、また来る。この紅茶を飲みにな」

「ありがとうアルカナート。またいつでも来てね」

「あぁ」


 そう告げて、アルカナートはセイラと一緒に店を出た。

 ナターシャはその二人の後ろ姿を見送り店に戻ると、自分専用の部屋に入りソファーに腰かけ切なくうつむいた。

 窓から差し込む光が、自分の影を長く照らす。


 その影を見たナターシャは、まるで自分の心が照らされているように感じ、哀しくそっと瞳を閉じた。

 やり切れない哀しさを、消そうとするかのように。

ナターシャがアルカナートに問いかけた真意とは……

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