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ゼロの輝き─無魔力追放からの反逆  作者: ジュン・ガリアーノ
第9章 アルカナートの追憶
182/251

cys:180 ドラゴンとアルカナート

「なっ?! どういう事だ!」


 声を荒げたロウに、クルフォスはニヤリと嗤った。


「今言った通りだ。奴が意識の扉を開ける為にその女を殺せば、奴の記憶からその女は消える。故に、心の中でも永遠に会える事は無いのだ……ハーッハッハッハッ!」


 高笑いを上げるクルフォス。

 分かっているからだ。

 アルカナートは無愛想で唯我独尊の性格ではあるが、本当は誰よりも心優しく、惚れた女を守り抜く男である事を。


───クククッ……奴には絶対出来はしない。


 無論、それを分かっているのはロウ達も同じである為、クルフォスの非道が許せない。


「貴様……!」

「酷すぎるよ……!」

「悪趣味が過ぎるの……」


 ロウ達がそう零す中、レイの心は誰よりも怒りで煮えくり返っていた。

 アルカナートにそういう人がいたのがショックだし、また何より、その愛を弄ぶクルフォスの事も許せない。


「クルフォス! 貴方は教皇としてだけじゃなく、人として失格よっ!!」


 レイの悲しみが込められた怒声が、広間に響き渡る。

 だが、クルフォスは意に介さない。

 むしろ、憐れむ瞳でレイを見下ろす。


「クククッ……諦めきれぬか。ならば教えてやろう。アルカナートが愛し……そして、その手で殺した『ナターシャ』の事を……!」


 そう言い放った時、クルフォスの瞳が哀しく揺らめいた。

 まるで、涙を浮かべたかのように……


◆◆◆


 今から遡る事、十三年前……


「イヤっ! 離してください!」


 スマート・ミレニアムの広間に女の子の叫ぶ声が響いた。

 三人の男達がフード姿の女の手を囲み、その内の一人が手を掴み強引に誘っている。

 だが、周りの人達は彼女を助けようとせず、男達に怪訝な顔を向けるだけだ。


「おい、うるせぇぞ女!」

「そうだぜ。この俺様達を誰だと思ってやがる」

「ったくだ。俺達はB+ランクパーティ『竜狩りの刃』だぜ!」


 彼らは今勢いに乗ってるパーティであり、火力重視の荒いパーティとして有名だから。

 なので、周りの皆も彼らの横暴を止めれない。


「くっそ、アイツら……!」

「でも、手出せねぇよ……」


 また、そのパーティーのリーダー『パスメノス・ドラーク』は無類の女好きである為、その女からフード越しに漂ってくる色気を敏感に察知していたのだ。

 そんなドラークは彼女の腕を掴んだまま、グイッと身を乗り出した。


「オメェがいい女だってのは分かってんだよ。だから付き合ってもらうぜ」

「イヤよ! 誰がアンタなんかに……!」


 顔をしかめた彼女の事を、ドラークはニヤリと嗤い見下ろす。


「いいか、俺様達はもうすぐAランクになるんだ。見ろこれを!」


 ドラークはそう言い放つと同時に、バッと片手を広げ見せつけた。

 魔法の檻の中に閉じ込めた中型のドラゴンを。


「キュィィィィッ!!」


 そのドラゴンはまだ子供のドラゴンであり、哀しい悲鳴を上げている。

 そして、必死に抜け出そうとするが、檻に触れた瞬間バチバチバチッ! と、魔力が流れドラゴンを苦しめる。

 その姿を見て、得意げに卑らしい笑みを浮かべるドラーク。


「どーよ。俺達の手にかかれば、ドラゴンだってこんなもんよ」

「ヒヒヒッ……!」

「クククッ……!」


 そして、自慢げに彼女に向かい言い放つ。


「コイツを売っぱらっちまえば、ランクも上がるだろうし当分金には困らねぇ。なっ、だから大人しく俺に付き合えよ」


 だが彼女は、そんなドラークを目を丸くして見つめた。

 その瞳には恐怖の色が浮かんでいる。


「あ、貴方、本気なの? そんな事したら……」

「ああん? 本気だぜ。まっ、よゆーだけどな」


 ドラークがそう言ってイキリ顔を浮かべた時、スマート・ミレニアムの上空にズドォォォォォン!! と、凄まじい爆音が響き渡り、周囲の空気を震わせた。


「なっ?!」「うわっ!」「うひっ!」


 その衝撃に皆が上を見上げると、そこにはドラークが捕まえたモノとは比較にならない巨大なレット・ドラゴンが怒りの眼差しを向けバッサバッサと羽ばたいている姿が。


「なっ、なんだありゃあ!」

「ええええええっ?!」

「や、ヤバいデカさだ!」


 驚愕と共にドラーク達が上空を見上げる中、レット・ドラゴンは口から巨大な光線を再びカッ! と、放つ。


 それにより結界が大きく揺れ、その隙にレット・ドラゴンは、凄まじい速さで結界に体当たりをしてきた。

 その衝撃で結界が破られ、穴がこじ開けられてゆく。

 そして、そのままグググッ……! と、結界を破ると大きな翼をゆっくり羽ばたかせながらズズンッ! と、地面に舞い降りた。

 その衝撃で地面から砂塵が立ち昇る。


「ヒイッッッッッ!」

「あわわわわわ……!」

「ちょちょちょちょ……あっ……あぁっ」


 あまりの恐怖にガタガタと体を震わせ、そのレット・ドラゴンを見上げているドラーク達。

 言葉など無くともビリビリと伝わってくるからだ。

 そのレット・ドラゴンから感じる、自分達に向けられた激しい怒りと殺意が。

 

 また、そんな彼らとは対照的に、魔力の檻に閉じ込められてる中型のドラゴンは嬉しそうにレット・ドラゴンを見つめながら鳴いている。

 

「キュィィィィッ♪ キュィィィィッ♪」


 だが、嬉しさのあまり間違えて翼が檻に振れてしまった。


「ギュィィィィッ!」


 魔力の電流が身体に流れ苦しそうに顔をしかめた瞬間、レット・ドラゴンは口を上に向け怒りの咆哮を放つと、ギロリと瞳を光らせドラーク達を見下ろした。

 口から怒りの吐息が立ち昇る。


「フシューーーーー!」


 もう、ここまでくれば誰の目にも一目瞭然。

 このレット・ドラゴンは中型ドラゴンの母親であり、子供を取り返す為にここに来たのだ。

 人であろうがドラゴンであろうが、我が子に手を出した者を母親は決して許さない。

 それを彼女は分かっていたので、先ほど瞳に恐怖を宿したのだ。


───やっぱりこうなるわよね……どうしたら……


 そんな中、怒りに燃えるレット・ドラゴンは口を大きく開き、その中にエネルギーを一気に集約させていく。

 もしこのエネルギーを喰らえば、骨も残らないのは明白だ。


「あっ……あぁぁぁぁぁぁ……こ、これが本物のレット・ドラゴン……!」

「む、む、無理だ、こんなの……!」

「うぅぅぅぅぅっ……!」


 情けない声を漏らすドラーク達。

 彼らには分かっていた。

 目の前にいるレット・ドラゴンは、今まで自分達が使ってきた卑怯な罠や攻撃など、一切通じぬ真の強者である事が。


 そんな彼らを哀れむような眼差しでチラッと見た彼女はレット・ドラゴンに向き直り、自分の懐にスッと手を入れ黄金の短剣の柄をギュッと握った。


───このドラゴンは何も悪くないわ。でも、このままだと街の人達にも被害が……!


 彼女が一瞬ためらった時、レット・ドラゴンの口から破壊の光線が放たれた。


───しまった!


 彼女の顔が光線の光に照らされる。

 そう思いギュッと目を閉じた瞬間だった。

 少し離れた場所から、凛とした声がその場を貫くように響いてきたのだ。


「『クリスタル・アミナ』っ!!」


 それと同時に彼女の目の前にクリスタルの防御壁が現れ、レット・ドラゴンの放った光線を弾き返した。

 バシュンッ! と、いう激しい炸裂音と共に爆風が立ち昇る。


「……えっ?」


 そんな中、彼女が恐る恐るそっと目を開けると、その側に緑色の魔装束を身纏い、凛とした姿で佇む女の姿が瞳に飛び込んできた。

 綺麗な長い髪がサラサラと揺れている。


「あ、貴女は……?」

「私は『パナーケア・セイラ』よ」

「えっ? セイラってまさか……」


 驚き瞳を大きく開いた彼女に、セイラは軽く振り向きニコッと微笑んだ。


「うん。一応、王宮魔導士よ♪」

「な、なんで貴女がこんな所に?! 王宮魔導士は敵国トゥーラ・レヴォルトと戦うのが役目で、街の事には関わらないハズ……」


 驚きながら謎めいた顔を浮かべる彼女に、セイラは優しいため息を零した。


「まぁ本当はそーなんだけど、私達のリーダーがそういう人だから♪」

「リーダー? まさか……!」


 彼女がそう零し前に向き直ると、その瞳に映った。

 背に纏った大きなマントを風に靡かせながらレット・ドラゴンを見据え、ニヤリと不敵な笑みを浮かべている男の姿が。


「フンッ……」


 恐怖のあまり意識を失いかけているドラーク達とは違い、その男からは、揺るぎない絶対的な自信に満ちたオーラが溢れ出ている。

 最強のモンスターである、レット・ドラゴンを前にしているにも関わらず。


「黙ってられねぇよな。子供取られちゃよ」


 見上げながらそう告げた男を、レット・ドラゴンは鋭い目つきで見据える。


「グルルルルルッ……」


 唸り声が混じった吐息を漏らすレット・ドラゴン。

 そんな中、男は視線を逸らし魔力の檻をチラッと見ると、鞘から凄まじい速度でザシュザシュザシュッ! と、抜刀術を繰り出した。

 あまりの速さに剣筋はまるで分からない。


 だが、それにより魔力の檻は一瞬で消え去り、中型のドラゴンはレット・ドラゴンの下へキュィィィィッ♪ と、喜びの鳴き声を上げて駆け寄った。

 そのドラゴンを母親であるレット・ドラゴンは翼を大きく広げ大切に包み込む。

 男はその姿を見つめ微笑んだ。


「フンッ、心配かけちまったな」


 そう零すと、男はレット・ドラゴンをクールな瞳で見据えた。

 その瞳が涼やかな光に揺れる。


「だがすまん。ここはこれで退いてくれ。このバカ共は、この俺『イデア・アルカナート』が必ず処分するからよ……!」

若き日のアルカナートとセイラ……!


過去編が少しだけ続きます。

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