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cys:179 死を超える命の使途

「ジーーーーーーーーークっ!!」


 レイが悲痛な叫びを上げたと同時に獄炎は消え、濃い黒煙が周囲にサァァァッ……と、漂った。


 その黒煙が霧散してゆくと、皆の瞳に映る。

 戦斧ハルバードを両手でアルカナートに向けて構えたまま、微動だにしないジークの姿が。

 姿形はいつものままだが、体からまるで魂が抜けてしまった抜け殻のようだ。


「くっ……!」


 ロウは思わず顔をギュッとしかめ、斜め下に顔をそむけた。

 見ていられなかったからだ。

 ガサツだが、どんな時も明るく元気でチームのムードメーカーであるジークが、廃人のようになってる姿を。


「ジーク、まさかキミが……」


 また、アンリもメティアと一緒にジークを見つめたまま立ち尽くしている。


「ジーク……お主は戦士として立派じゃ。しかし……くっ!」 

「嘘だ……いくら限界を超えたからって、キミが……そんな……ううっ!」


 皆が悲しみを零す中、レイは脇目も振らずジークにタタッ! と、勢いよく駆け寄ると、後ろからガシッと抱きついた。

 涙を横に迸らせながら。


「ジーク!!」


 けれどその瞬間ジークの体はレイの腕を抜け、前のめりにドシャ! と、倒れてしまった。

 ジークの手から戦斧ハルバードが離れ、ガシャンと音を立てて床に落ちる。

 まるで、ジークの魂が零れ落ちたように。


 そんなジークの事を、レイはすぐにしゃがみ抱き抱えた。


「ジーク! いやぁっ! 起きてよ! 目を醒まして!!」


 瞳を真っ赤にさせ必死に呼びかけるが、ジークは満足げな笑みを浮かべたまま微動だにしない。

 その顔をレイの瞳から零れ落ちる涙が濡らす中、アルカナートは冷徹な表情のまま、スッと剣を片手で掲げた。

 それを見て、体を震わせ嗤うクルフォス。


「クククッ……ハハハッ……ハーッハッハッハ!!」

「ふざけないで! 何がおかしいのよ!」


 レイがジークを抱きかかえながら怒りにキッ! と、瞳を釣り上げ怒鳴りつけると、クルフォスはニヤリと嗤い勝ち誇った顔で見下ろした。


「無駄死にとはまさにこの事。お前達が、いくら力を滾らそうと意味は無い」

「うるさいっ! そんな事、そんな事……」


 認めたくないし言い返したいが、その先の言葉が出てこない。

 実際、ジークが命をかけてエネルギーを爆発させてもアルカナートにはまるで届かないし、何より、それを告げるかのように頭上で煌めいているからだ。

 アルカナートが掲げている剣が。


「くっ……もう、ダメなの……?」


 レイは、怒りと悲しみの交叉する瞳でそれを見上げた。

 そんなレイに、剣の輝きが告げてくる。

 お前達はもう終わりだと。

 

 だが、レイは諦めない。

 ザッと立ち上がると、アルカナートに向かい両手をバッと広げた。


「いいわ。斬りたければ斬りなさい! ジークの命で足りないなら……私の命もあげるわっ!」


 その姿を目の当たりにしたロウはレイに駆け寄り、後から片手で肩をガシッと掴んだ。

 サラッと揺れた前髪の奥から覗かせる瞳が、哀しみく揺らめく。


「レイ! やめるんだ! 悔しいが……そんな事をしても、奴の言う通り無駄死にになるだけだ……!」


 ロウのその言葉に乗り、レイの背中越しにヒシヒシと伝わってくる。

 激しい怒りと、どうしようもできない哀しみが……


 けれど、レイはアルカナートを凛とした瞳で見据えたまま動かない。


「ねぇロウ……無駄じゃない死って何なの?」

「えっ? それは……」


 レイからの思いがけない問いに、ロウの手の力が緩んだ。

 流石のロウも答えに窮してしまったから。


「フフッ♪ もちろん、無駄に命を捨てるのは美しくないわ。けど、いつか必ず命には終わりがくるの」

「そ、それは、そうだが……」

「だからね、命は何の為に使うかなの」


 レイはそこまで話すと、額の魔力クリスタルをより美しく輝かせた。

 パープルブルーの輝きがレイの体を包み込み、広間を鮮やかに照らしてゆく。


「私は愛の為に使うわ! その先に死が待っていても構わない! 愛は死を超えるのよ!!」

「レイ……!」


 ロウがやり切れない思いに瞳を揺らめかす中、クルフォスはそれを嘲笑う。


「愛だと? くだらん。死せば全てが無に還る。決して超える物など無い」


 けれど、レイの表情も輝きも変わらない。


「クルフォス……貴方、教皇なのに嘘をつくのは良くないわね」

「なんだと?!」


 クルフォスがギロッと睨みつけると、レイは軽く口角を上げた。


「だってそうでしょ。クルフォス、貴方だっていたハズよ。命を捨ててでも守りたかった人が」


 レイがそう告げた瞬間、クルフォスの胸に衝撃が走る。

 まるで、不意に強烈なボディーブローを喰らったかのような衝撃が。

 それによりクワッ! と、大きく瞳を見開きながらもクルフォスは憎しみに顔を引きつらせた。


「く、くだらん……! ある訳が無いだろう! そのような愚かな感情など」

「フフッ♪ 人ってね、図星突かれると怒るものなの。貴方も意外と可愛いじゃない」

「おのれ……!」


 クルフォスはギリッと顔をしかめると、そのままアルカナートに命ずる。


「やれっアルカナート! その女共々斬り捨てろっ!!」


 その命令を受けたアルカナートの手に、ググッと力がこもる。

 しかし、その瞬間、アルカナートの纏う黄金の鎧にピキピキピキッ……! と、幾つもの亀裂が走ってゆき、バリンッ! と、音を立てて砕け散った。


 それにハッと目を見開いたアルカナートと、身を乗り出し驚愕するクルフォス。


「な、なにいっ?! バカなっ!」


 それを目の当たりにしたレイも一瞬驚き目を丸くしたが、すぐに力強く微笑んだ。


「ほらね。無駄じゃないのよ」

「くっ……こ、こんな事が! あの黄金の鎧が、あんな奴に砕かれただと?! ありえん……あってはならぬのだ!」


 クルフォスはそう怒声を上げながら、内心凄まじい焦りを感じていた。

 この黄金の鎧こそ、アルカナートの意識を封じる大きな役割を果たしていたからだ。


───マズい! このままでは奴の意識が……


 歯を食いしばりながら、アルカナートを警戒し見据えるクルフォス。

 だが、アルカナートの瞳の色が変わらぬのを確認すると、フウッと安堵の息を漏らした。


───やはり、アレは破れぬか。お前であれば、そうだよな……アルカナートよ。


 クルフォスが胸を撫で下ろす中、ロウ達は悔しそうにアルカナートを見つめている。


「くっ、鎧を破壊してもダメか」

「ねぇっ、何でダメなの?!」

「むうっ、何がアルカナートを縛っておるニャ……」


 アンリがそう零した時、クルフォスは高笑いを上げた。


「ハーッハッハッハ! 無駄だ。奴は決して目を醒さん。奴の意識の扉は、決して勝てぬ者に守られているからだ」


 クルフォスはそこまで告げると、邪悪な笑みをニヤリと浮かべ言い放つ。


「奴の意識の扉の番人は、奴が死に別れた心から愛してる女だ」


 その言葉に皆が驚愕し目を見開く中、クルフォスはさらに告げる。

 絶望と悲しみで身が凍りつくような事実を。


「心の中でその女を殺せば、奴はもう記憶の中ですら、その女と会う事は出来なくなる。永遠にな……!」

あまりにも残酷過ぎる禁忌の魔法……!

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