cys:177 黄金の剣士の正体
「クククッ……」
クルフォスが邪悪な笑みを浮かべロウ達を見据える中、黄金の剣士は斜めに下げいる剣をスッと持ち上げ、横に軽く振り抜いた。
その直後、その剣の風圧が疾風の如く勢いよくロウ達に襲い掛かる。
「くっ……!」
「うわっ!」
「なんて剣圧なの!」
「クソったれ! 軽く振り抜いただけでこの威力かよ」
「ニャニャニャッ! こいつは、ちとマズいのぉ……」
アンリがそう声を漏らした時、いち早く体勢を立て直したジークが戦斧ハルバードを振りかぶり、黄金の剣士に飛びかかった。
「こーゆー気分の時は、一発かまさなきゃよ! うらぁぁっ! 喰らいやがれ! 『カロル・アックス』!!」
凄まじい灼熱を纏った戦斧ハルバードが振り下ろされる。
黄金の剣士はそれをサッと躱した。
だが、ズドォォォン!! と、割れた床から横に炎がズザァァッ!! と、勢いよく走り、黄金の剣士目掛け襲いかかる。
「燃えやがれ!」
ジークがそう叫ぶと同時に、黄金の剣士はダッ! と、上に大きく飛び退いた。
けれど、ジークはそれを見てニヤリと笑う。
黄金の剣士が飛んだ先の空間が、急激な凍気によりピキピキピキッ! と、凍りついていったからだ。
それを創り出したのは、もちろんレイだ。
「フフッ♪ その派手な鎧ごと凍りつかせてあげる。この絶対零度の凍気で! 『グラキ・コフィン』!!」
レイが翳した両手の平から放たれた魔力により、黄金の剣士の前後左右と上下に氷の棺のパーツが現れた。
「クールな棺で眠りなさい!」
レイがそう告げた瞬間、前後左右と上下から氷の棺のパーツが黄金の剣士にザァァッ! と、襲いかかる。
「諦めなさい! この技に逃げ場はないわ!」
レイの言った通り、この技には逃げ場は無い。
全方位から襲ってくる技であると同時に、熱や斬撃にも非常に強いからだ。
なのでレイもニッと笑みを浮かべたが、黄金の剣士はその瞬間剣を鞘に素早く収め、両手足に闘気を一気に集約させてゆく。
そして、その両手と両足で、向かってくる氷の棺のパーツを全て一瞬でズカガガガンッ!! と、粉々に打ち砕いた。
「嘘でしょ?! あんな事が出来るなんて、まさか……」
自らの技が破られたのもショックだが、それに加え、今の動きに一瞬最悪な予感がレイの脳裏を掠めた。
だが、それと同時にロウは創り上げていた。
ロウの十八番の魔法弓を。
「この距離なら外さない! 貫け! 『コズミック・メテオアロー』!!」
ロウの魔法弓から、エメラルドグリーンに輝く絶大な魔力を持つ矢が回転し渦巻きながら、黄金の剣士に放たれた。
目の前まで一気に矢が迫る。
けれど、その矢は貫く事はなかった。
黄金の剣士が凄まじい速さの抜刀で、矢を一瞬で斬り裂いたからだ。
「くっ! なんて凄まじい抜刀術。しかも、あの型は……」
ロウもレイと同じく、技を破られたショックに加え、最悪な予感が脳裏をよぎった。
───まさか……!
あまりにも最悪な予感に、顔がサァーっと青ざめてしまう。
またそれは、側で見ていたジークも同じだった。
───うっそだろ。おい……!
そんな彼らをチラッと見たアンリは大体の事を察しながらも、敢えて不敵にニッと笑みを浮かべ魔力を滾らせた。
その魔力の滾りと共に、アンリの体を包む紫色の輝きが増してゆく。
「金ピカよ。お主からは半端ない強さが伝わってくるが、無口でいかんのぉーー。歌って踊るニャ♪ 『アンリ・シスターズ』!!」
アンリの掲げた魔導の杖がピカッと光り、そこからアンリそっくりで衣装だけ違う、五人の女の子達が現れた。
これは、アンリが魔力によって創り出したエネルギー体。
その彼女達に向かい、アンリは魔導の杖を前に突き出し号令をかける。
「ゆけーー! アンリ・シスターズよ♪ あの金ピカの剣士をやっつけるニャ♪」
その号令により、元気に拳を掲げるアンリ・シスターズ。
「やってやるニャー♪」
「悪いヤツは許さんニャ♪」
「ボッコボコにしてやるニャ♪」
「ドッカンドッカンいくニャ♪」
「今日のお歌は『トランプ・ダンス』でビシッと決めたるニャー♪」
アンリ・シスターズは意気揚々と、黄金の剣士にタンッ! と、飛びかかってゆく。
そして黄金の剣士を囲むような陣形を取ると、皆サッと両手の平を黄金の剣士に向けた。
「一生ドキドキを止めれないニャ♪ ハートのA!」
「もうそこからは逃げれないニャ♪ ダイヤのA!」
「スパーンと体を刺しちゃうニャ♪ スペードのA!」
「ここに迷い込んだら出れんニャ♪ クローバーのA!」
四人の手の平から、それぞれのマークがピピピピピッ……! と、連続で放たれてゆく。
一見ふざけた攻撃ではある。
しかし、様々な属性の攻撃を一気に仕掛ける事が出来る為、やられた方は防ぐ事が非常に困難なアンリらしい必殺技だ。
「黄金の剣士よ、いかな強さがあろうともこの攻撃は防げんじゃろ♪ ニャッハ――♪」
嬉しそうに笑うアンリ。
だが、黄金の剣士は動じる事無くズザザザザッ!! と、全ての攻撃を切り裂いた。
アンリは、その光景に目を丸くして唸る。
「ニャ、ニャンと! それぞれの周波数に合わせた斬撃で斬り裂きおったか! しかも一瞬で……う~~~む。だが……!」
アンリがそこまで言った時、アンリ・シスターズのリーダーがニパッと笑った。
そして、黄金の騎士に斬り裂かれたエネルギーをササッと空中で回収し、両手を天に掲げる。
「みーーんなのマークを集めて作っちゃうよーーーー♪ ジョーカーのナイトメア・キャットだニャ!」
その詠唱と共に、手の平の上に巨大な紫色のネコが現れた。
全身が艶やかな紫色の魔力エネルギーで輝いているそのネコは、パッと床に下りると、う~~~ん、と、大きな伸びをしてから黄金の剣士を見据える。
「ニャ―――――――!」
ジーっと見据えながら唸り声を上げたナイトメア・キャットは、紫色のエネルギーを尻尾から放ちながら、黄金の剣士の周りを凄まじい勢いでグルグルと回り始めた。
「ニャーーーーーーーーーゴッ!!」
それにより、黄金の剣士の周りに気流のような激しいエネルギーが渦巻いてゆく。
また、その嵐のような気流により、金色の剣士もその場から動かない。
それを見たリーダーの女の子は、嬉しそうに顔をクシャッとさせて咆哮を上げる。
「いくニャーーーーーーーーーーーっ!!」
それと同時に、ナイトメア・キャットはバンッ! と、高く飛び上がると、急降下しながら黄金の剣士に飛び掛かった。
見た目の可愛さとは裏腹に、途轍もなく大きく、また、様々な種類のエネルギーが混合した力が黄金の剣士を襲う。
ズガァァァァンッ!!!
ナイトメアキャットの大きな混合エネルギーを、黄金の剣士は剣に闘気を滾らし受け止めた。
それを押しつぶすかのように、エネルギーを輝かせるナイトメアキャット。
「ニャーーーーーーーーーーーーーー!!!」
「チィッ……!」
黄金の剣士が始めて声を漏らした事に、アンリは嬉しそうに笑みを浮かべポップに言い放つ。
「よいぞーー! もっと歌うニャ♪」
「テ、テメェ……!」
黄金の剣士はナイトメアキャットの力をググッと耐えながら、僅かに声を漏らした。
アンリはその姿をニヤニヤしながら見据えているが、同時に冷静に分析していた。
───私と皆の魔力に大きな隔たりはないニャ。なのに、彼らの技は簡単に破られ私のは違う。そういう事じゃの……
心の中でそう考えた時、黄金の剣士がさらに力を滾らせ咆哮を上げる。
「オォォォォォッ……! これで終わりだぁっ!!」
その咆哮と共に黄金の剣士はナイトメアキャットを薙ぎ払い、それと共にカッ! と、眩い閃光が走った。
その直後、ズドォォォン!! と、いう爆発が起こり黄金の剣士の兜が爆風により吹き飛び、床にカランカランッ……! と、音を立てて舞い落ちた。
「チッ……!」
片手を手に当てると、顔を軽く横に振り苛立ちを募らせた黄金の剣士。
爆煙が霧散してゆく中、その姿がロウ達の瞳に映る。
その瞬間、ロウ達の瞳があまりの驚愕に大きく見開かれ、同時に染まってゆく。
最悪な絶望の色に。
「う、嘘だ。そんな……」
「どーなってんだよ……」
「そ、そんな。こんな事……」
ロウもジークもレイも言葉を失い、その場で固まってしまった。
また、アンリは自分の当たってほしくなかった推論が当たってしまった事に、落胆の表情を零している。
「やはりか……」
そんなアンリに、メティアは不安げな顔を浮かべ問いかける。
皆のこんな表情は今まで見た事が無かったから。
「アンリ、どういう事なの?! 何でみんなあんなに……」
「それはの……」
アンリが苦しそうに答えようとした時、ロウが悲壮な顔で黄金の剣士に向かい身を乗り出した。
「なぜ……なぜですか?! アルカナートっ!!」
最悪の形での再会……!