cys:174 闇を祓う黄金色の力
「メティアーーーー!! アンリーーーー!!」
片手を前に伸ばしロウが叫びを上げると同時に、それをかき消すかの如くズガァァァァンッ!! と、いう炸裂音が広間に響き渡った。
その凄まじい炸裂音と共に、漆黒の闇がブワッと周囲に広がる。
「くっ!!」
「きゃあっ!」
「うおっ!」
まるで、黒い津波が一気に押し寄せるような衝撃に、三人ともしかめた顔を片腕で覆った。
その隙間から覗き見る視界に映るのは、二人を消し去って尚、未だ広間を黒く照らす漆黒の破壊エネルギーと、それにより大きく壊され舞い散る破片の混じった黒煙のみ。
「くそっ……!」
「アンリ……!」
「メティア……!」
ロウ達はやり切れない思いで歯を食いしばり、拳を握りしめながらその光景を見つめている。
未だ渦巻く漆黒のエネルギーを。
もう、アンリもメティアも生きていないという絶望を、苦しく胸に抱えながら。
ただ逆に、クルフォスはその光景を見てニヤリと笑みを浮かべた。
「クククッ……ロウ、レイ、ジークよ、嘆く事はない。むしろ、命を噛みしめろ」
「なんだと?!」
「貴様らとて、もうすぐ無と化すのだからな」
「クルフォス、貴様……!」
普段は涼やかなロウの瞳が、激しい怒りに燃えている。
無論、レイとジークも怒りを滾らせているが、軍師として皆の想いを背負っている分ひとしおだ。
「なぜだ……なぜ教皇でありながら、そこまで邪悪に加担する?!」
魔導の杖を横にビュッと振ったロウに、ジークも続く。
「ったく、ロウの言う通りだぜ。仮にもアンタ、この国で一番偉い人間なのによ。五大悪魔王ってのは、そんなに恐ろしいのかい」
「フンッ、愚かな。ジーク、そしてロウよ。貴様らなどには決して分からん。あの方達の素晴らしさがな」
そう告げたクルフォスからは、それが誇張や忖度ではなく本心からだというのが伝わってくる。
だからこそ、ジークもロウもより心が苛立ちに揺れた。
「ケッ、分かりたくもねーよ。悪魔達の素晴らしさなんざよ!」
「あぁジーク、僕も全く同感だよ。理解出来ない」
ロウがそう吐き捨てると、レイも口を開く。
美しい瞳に怒りを宿しクルフォスを睨みつけながら。
「そうよクルフォス。悪魔の素晴らしさなんて、ちっとも美しさを感じないわ!」
「……レイよ。お前は確かに美しい。王国随一と言っていいだろう。だが、その美しさも霞むのだ。あのお方達の力と志の前ではな」
「力と志? 悪魔のそれに私の美しさが霞むなんて、聞き捨てならないわね」
そう言い放ち真っ直ぐ見据えてくるレイに、クルフォスはフウッと、軽くため息を吐いた。
「分からぬならそれでいい。人は所詮、自分の器以上の物は理解出来ぬ、愚かで哀れな存在だ」
クルフォスはそう告げた時、ふとした違和感を感じた。
そして、スッと振り向き見つめる。
未だ渦巻く漆黒のエネルギーを。
───妙だな……いくら威力があろうとも、なぜ未だに渦巻いているのだ。奴らを消し去った今、もう収まっていい頃のハズ……まさかっ?!
そう思いハッとした時、漆黒のエネルギー渦が内側から眩い黄金色に輝き、その光により漆黒のエネルギーが消えてゆく。
「バ、バカな! 余のダークネス・メテオの力が消されてゆくだとっ!?」
驚愕により額から汗を零し、思わず身を乗り出したクルフォス。
こんな事は今まで起こった事も無ければ、想像した事すらない出来事だから。
「う、ううっ……まさかこの光は……!」
たじろぐクルフォスだが、ロウ達はそれとは対照的に嬉しさに目を見開き見つめている。
眩い黄金色の輝きを全身から放っているメティアの姿を。
「メティア……!」
「なんでぇありゃ。黄金色にプラチナの色が混ざってやがる」
「フフッ♪ あの美しさになら、私が多少霞んでも許せるわ」
皆がそう零す中、黄金色の光はさらに膨れ上がってゆく。
メティアの力の滾りと共に、強く、鮮やかに、神々しく。
「ハァァァァァッ! みんなを守る為に煌めけ! ボクのクリスタルよーーーー!!」
その咆哮と共にブワ――――――――ン……! と、膨れ上がっていくメティアの輝きが、クルフォスの漆黒の闇のエネルギー弾をバシュンッ!! と、一気に消し飛ばした。
「バカな……こ、こんな事が……!」
額からツーっと汗を流し、驚愕した顔で身構えるクルフォス。
これがどういう事かを分かっているからだ。
教皇は代々、王宮魔導士の中から選ばれる。
スマート・ミレニアムの最高権力者として、皆を束ねなければいけないからだ。
クルフォスは先代の王宮魔導士の中でも最高の実力を持っていたからこそ、教皇として君臨している。
さらに、染まってしまったとはいえ、その分今は闇の力も有している為さらに力は盤石だ。
───この私のダーク・メテオを破るには、それ以上の力を持つだけではなく闇の力に対抗出来る光のエネルギーが無ければ不可能。それを成したという事は、すなわち……!
心でそれを確信し、とてつもない恐怖を感じているクルフォスをメティアは凛とした眼差して捉えている。
全身から黄金色とプラチナの混じった闘気を滾らせたまま。
「クルフォス、だから言ったハズだよ。ここを退いてほしいと……!」
優しきゆえに、仲間の為には誰よりも強く怒りを滾らす……!