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cys:172 勝利への期待と疑惑

「ねぇノーティス、一つ尋いていい?」


 アネーシャはノーティスに問いかけた。

 どうしても、一つ気になる事があったからだ。

 そんなアネーシャに振り向いたノーティスの髪が、サラッと靡く。


「どうした?」

「三神器の件よ。貴方が『祓う者』で私が『封ずる者』なのは分かったけど、もう一つは何なの?」


 アネーシャの疑問は最もだ。

 三神器と言うからにはもう一つの存在が必要だし、また、その存在がいなければ完全な力は発揮出来ない可能性が高い。


「確かにそれ、伝えてなかったよな」


 ノーティスはそう答えると、アネーシャの事を真っ直ぐ見つめた。


「もう一つの存在は『守る者』さ」

「守る者?」

「そう。三神器は『祓う者』『封ずる者』『守る者』の三つで成り立つんだ」

「じゃあ……」


 ちょっと不安な顔を浮かべたアネーシャに、ノーティスは少し神妙な顔で答える。

 ノーティス自身、そこを話さなきゃと思っていたから。


「そうなんだアネーシャ。まだ、三神器の本当の力は発揮できない……!」


 その事実が、アネーシャとルミの心をざわめかせる。


「えっ?」

「それじゃ……」


 二人が危惧するように、このままでは五大悪魔王に完全に勝てるかどうかは、かなり怪しい。

 それによる不穏な沈黙が、その場に広がってゆく。


 けれどそんな中、ノーティスはそれを打ち消すかのように、ニコッと微笑んだ。


「けど大丈夫だ」

「えっ?」

「ノーティス様?」


 なんで? と、いう顔を浮かべた二人に、ノーティスは力強い眼差しを向けた。


「きっと勝てるから」

「なんでそう言い切れるの?」

「ノーティス様、何か当てがあるんですか?」


 問い詰めるように身を乗り出してきた、アネーシャとルミ。

 いくらノーティスからの言葉でも、何の根拠も無しに勝てると言われては、納得出来ないのも当然だ。

 けれどノーティスは、そんな二人を見つめたまま余裕の笑みを浮かべた。


「あぁ、きっと近い内に分かる」

「近い内に?」

「それって……」


 二人が少し謎めいた顔を浮かべると、ノーティスはそれ以上答えるのをやめ、二人にクルッと背を向け顔を振り返らせた。


「行こう、ルミ、アネーシャ。みんなと一緒に五大悪魔王を倒すんだ!」


 そう告げるとノーティスは顔を前に向き直し、同時に背中のマントをバサッと靡かせた。

 その姿は奇しくも、かつてノーティスが初めて出会った時のアルカナートのようだった。


◆◆◆


 カッカッカッカッカッ……

 王宮の薄暗い回廊に、レイ達が駆ける足音がこだまする。


「ねぇ、ノーティス達大丈夫かしら……」


 走りながら切なそうに零したレイに、ジークは前を向いて走りながら軽く歯を食いしばった。


「心配すんなってレイ。アイツは……負けやしねぇよ」

「そうさ。彼はなんの考えも無しに、僕達を先に行かせたりはしない」

「ニャハハッ♪ そのとーりじゃレイ。奴の強さは、お主もよーく知っておろう」

「そうね……」


 静かにそう答えたレイの側で、前を向いたまま黙って走っているメティア。

 その脳裏に、ノーティスと初めて出会った日の事が蘇る。

 雨の中、ハンカチを渡したあの日の光景が。


───ノーティス、あの時からキミは変わってないよ。あの時もキミは自分の為じゃなく、お母さんからボクを守ろうとして……ハッ、まさかキミは……!


 メティアがそこまで想いを巡らせた時、走り続けてきた回廊の先に光が見えた。

 それによりメティア達の緊張感が高まり、心臓の鼓動が早くなってゆく。

 これから起こるであろう、壮絶な戦いの幕開けに。


「チッ、もうすぐだな」

「あぁ、そうだなジーク。もうすぐ教皇の間だ」

「ニャニャッ♪ そうじゃの。まぁ、ここまで来たら腹をくくるしかあるまいて」


 アンリはニパッと笑みを浮かべた。

 こんな時でも飄々とした雰囲気を崩さない。

 もちろん内心緊張した物は感じているが、必要以上にそれを感じはしないようにしているから。

 それが、アンリの強さの秘密の一つだ。


───皆を守る為にも、いつでも冷静でおらんとの。


 そんな想いを抱えるアンリは、走りながらチラッとレイに流し目を向けた。


「レイ、どうした? お主程強くても、緊張しておるのか」

「まぁ、さすがに少しはね。それに……」


 レイは少し間を空け続ける。


「少し考えちゃったの」

「ん? 何をじゃ」


 その問いかけに、皆の視線がレイに集まった。

 レイから何か気になるオーラが伝わってきたから。


アルカナート(あの人)なら、こういう時どうするのかなって……」


 その答えに、ロウとジークにもピンとした物が走った。

 確かに気になるからだ。

 自分達を育ててくれたスマート・ミレニアムの元最強の勇者イデア・アルカナートなら、この局面をどう乗り切るのかを。


「フム、先生なら恐らく……」

「そーだよな、先生ならよ、多分……」


 二人とも走ったまま、アルカナートの事を思い浮かべた。

 厳しくも、熱く充実していた修行の日々の思い出が脳裏に蘇る。

 そして、その日々を通して教えて貰った数々の大切な教えが。


 それを振り返った彼らは、同時に同じ結論に辿り着いた。


「らしく押し通る」「迷わず蹴散らして進む」 


 同時に声を上げたロウとジーク。

 二人は走ったまま互いに顔を見合わせ、一瞬キョトンとすると、ニッと力強く笑みを浮かべた。


「フム、言い方は違えど同じだな」

「ハンッ、ちげーねぇ」


 すると、レイは前を向いたままセクシーな口元を二ッと上げた。


「フフッ♪ つまり、最高に美しく進むって事よね」

「レイ、キミらしい解答だ」

「んじゃ、らしく迷わず美しくいくとすっか!」


 ジークが勇ましく声を上げたと同時に、皆、教皇の間の扉の前へと辿り着いた。

 皆、重厚な扉の前で横に立ち並び、それをジッと見つめている。

 そんな中、ロウはザッと一歩前に出ると片手を扉に翳し、皆の方へ振り向いた。


「みんな、覚悟はいいよな」

「とーぜんだろ!」

「当たり前じゃない♪」

「ワクワクするニャ♪」

「もちろんだよ!」


 凛々しい顔で答えた皆に向かいロウはコクンと頷くと、扉に向き直りドンッ! と、勢いよく開けた。

 目の前に王の間が広がる。


 少し前にいた場所でもあるので、眼前に広がる光景に変化は無い。

 けれど、そこから受ける印象はまるで違う感じに思えてしまう。


「ったく、こんな状態で戻ってくるたぁな」


 一瞬ブルっと震えたジークに、レイが艶やかな流し目を向けた。


「あらジーク、緊張してるの?」

「バカ言え、んなわけねーだろ。こいつは戦士震いってもんよ」

「へぇ、ならいいけど」


 そう言って軽く口角を上げたレイだが、額からツーっと汗を流している。

 二人共気丈(きじょう)に振る舞ってはいるが、緊張するのは避けられない。

 そんな二人に、ロウは真っすぐ前を見据えたまま告げる。


「ジーク、レイ。適切な緊張は悪い事じゃない。それはきっと先生だって同じハズだ」

「おっ、おう!」

「フフッ、そうねロウ♪」


 レイがそう答えると、ロウはメティアとアンリに軽く振り返った。


「アンリ、メティア。キミ達はアルカナート(せんせい)の直接の弟子ではなくても、僕達の意思は同じだと信じてる」

「とーぜんだニャ♪」

「うん。ボクもその気持ちだよ!」


 二人の力強い笑みを受けたロウは、慧眼な瞳を向けたままコクンと頷き、スッと前を見据えた。

 凄まじく強大な漆黒のオーラが漂ってくる、教皇クルフォスの方へ。

 すると、その漆黒のオーラと共にロウ達に伝わってくる。

 まるで空間を振るわすような、威厳と邪悪に満ちた声が。


「お前達、なぜここに戻ってきた……」


 その声が、たった一言発したその声がロウ達全員にヒシヒシと感じさせる。

 この教皇こそが本来の姿であり、途轍もない力を持っている事を。


 それにより全員に凍てつくような緊張感が走る中、ロウはそれを超えザッと前に踏み出した。

 それと同時に、教皇を強く見据え胸を張る。


「教皇! なぜここに戻って来たかは、貴方が一番存じているハズだ!」

「クククッ……」

「な、なにがオカシイ?!」


 憤るロウに、教皇は仮面の奥から闇に染まった瞳を妖しく光らせた。


「ならば知っておろう。お前達の運命が、ここで尽きる事を……!」

「くっ、教皇。貴方はやはり……!」

「何も知らずに生きていればよかったものを。哀しいな、ロウよ」


 教皇からブワッと立ち昇る漆黒のオーラが、より増大していく。

 また、それと同時に教皇は玉座からゆっくりと立ち上がると、邪悪な瞳でロウ達を見下ろした。


「お前達王宮魔導士の役割も、もう終わりだ。ご苦労だったな」

「くっ、勝手に終わらせないでほしいな」


 そう言ってロウが魔導の杖を斜めに構えると、レイ達も後に続いてゆく。


「そうよ! そんなの全然美しくないわ!」

「レイの言う通りだぜ。俺は美しさなんかとは無縁だけどよ、アンタから感じるオーラは気に食わねぇ……!」

「ニャニャッ♪ 私もまだまだやりたい事が、たーーくさんあるからのう」


 アンリがそう言ってニヤッと笑みを浮かべると、メティアがスッと前に出た。

 そして、クリっとした可愛い瞳には似つかわしくない、静かな怒りを宿し教皇を見据える。


「教皇、ボクは本当は誰とも戦いたくなんてない。貴方とだってそうだよ」

「そうか。ならば、黙って闇に消えるがいい」


 教皇は深淵のそこから湧き出るような声でそう告げてきたが、メティアは全く怯まない。

 むしろ、教皇を怒りの中に哀しみを宿してジッと見据えたままだ。

 その姿に教皇は微かな違和感を覚え、軽く身を乗り出した。


「貴様……!」


 そんな教皇にメティアは告げる。


「大人しくそこを退いてほしい。命を失う前に……!」

メティアがそう告げる理由とは……

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