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ゼロの輝き─無魔力追放からの反逆  作者: ジュン・ガリアーノ
第2章 波乱のギルド検定試験
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cys:17 真面目なルミとエレナの我儘

「ノーティスって、頭いいのに凄く強いんだねーーー♪」


 満面の笑みで、今度は真正面からノーティスにギュッと抱きついたままのエレナに、ルミは顔を赤くして眉を釣り上げた。


「エレナ! ノーティス様から離れなさい!」


 けれどノーティスに抱きついたまま、ルミにべーッと可愛く舌を出すエレナ。

 どうやら、離れる気は微塵も無さそうだ。


「いーじゃん、私ノーティスの事大好きなんだもん♪  お姉ちゃんこそ何なの?」

「お、お姉ちゃん?!」


 ビックリしたノーティスは思わず声を上げ、腕の中のエレナと怒りに顔をしかめているルミを、交互にキョロキョロと見比べている。


───まあ、似てるといえば似てなくもないけど……


 ノーティスがそう思っていると、ルミがこっちにツカツカと歩いてきて、エレナの目の前にグイッと身を乗り出した。


「私はノーティス様の執事よ」

「えっ? じゃあ、もしかしてお姉ちゃんが言ってた執事の仕事って、ノーティス様の執事の事なの?」

「えぇ、そうよ」


 するとエレナは離れるどころか、ノーティスにより強くしがみつき、ルミに可愛くしかめっ面を振り向けた。


「えーーーーーっ! ズルいズルいズルいーーーっ!」

「ズルいって……何を言ってるのエレナ」

「だってお姉ちゃん、ずっとノーティスと一緒にいるんでしょ!」

「ずっとじゃないけど、まあ、大体はそうね……」

「やっぱりそうじゃん!」


 そう言って頬をぷくーっと可愛く膨らますエレナの前で、ルミは片手を額に当てハァッとため息を零した。

 エレナとは二つ違いの姉妹だが、昔からずっとこの調子なのだ。


「ハァッ……またなの……」


 ルミは軽く力の抜けた状態で溜息を漏らし、虚空を見つめた。

 そして、脳裏にこれまでの事が蘇る。


 ルミは昔から真面目に物事に取り組み、イヤな事も我慢するタイプだが、妹のエレナは良く言えば天真爛漫で、悪く言えばワガママだ。

 自分が欲しいと思ったモノは、決して譲らない性格。


 本人に決して悪気は無いのだが、小さい頃、ルミが大切にしていたピンクのウサギのぬいぐるみを取った事から始まり、かつてルミが好きだった人をエレナは奪った事もある。


───もう、困ったわね。エレナは昔からこうだけど、今度はノーティス様の事を……


 そう思ったルミは、エレナに再びグイッと顔を近づけ、諭すような表情で見つめる。


「いい、エレナ。アナタがノーティス様を好きなのはよーーく分かったわ。けど、ノーティス様はこれから攻撃力測定の試験に向かわなければいけないの。それは分かるかしら?」

「エレナだって試験受けるもん」


 エレナはブスーッとした顔で睨んできたが、ルミは表情を変えずに話を続けていく。


「じゃあ、尚の事ね。試験は1人で受けるものでしょ」

「う〜〜〜そうだけどさ〜〜」

「それに、腕組んでたら、大好きなノーティス様のお邪魔になるわよね?」


 ルミは1つずつ確認しながら話を進めているが、エレナは聞き入れない。


「ううん、ならないよ! だって、こうやって一緒に行けばいいんだもん♪ ねっ?ノーティス」


 エレナはルミの問いかけを否定するように、ノーティスに上目遣いで同意を求めた。

 エレナの男をコロッと落とすやり方だ。


 大抵の男は、エレナのこの甘えた潤んだ瞳に大抵の事は許してしまう。


 それを知っているルミは、諦めた顔で再び虚空を見つめた。

 悔しさと脱力感が体から滲み出てくる。


───ハァッ。結局これでエレナ、またワガママ通っちゃうのよね……


 そう思ったルミは、諦めてガクッと肩を落とし顔をうつむかせた。

 けれどその瞬間、ノーティスはスッと目を閉じると、エレナの腕をそっと外した。


「えっ……?」


 腕を外され一瞬たじろいで声を漏らしたエレナ。

 もちろんルミも別の意味でだが、心の中で同時に声を漏らしてハッとノーティスを見上げた。


───ノ、ノーティス様……!


 そして、エレナは信じられないという顔で、目を丸くしてノーティスを見つめている。


「なんで、ノーティス……」


 エレナは見た目も可愛いし、ルミと違って男ウケの言動も分かってる女の子だから、こんな風に迫って断られた事など一度も無かった。

 だからこそ、そのショックは震える程大きい。


───うそでしょ。エレナの腕を外すなんて……!


 動揺するエレナの横で、ノーティスはスッと目を開け、少し哀しそうにエレナを見つめる。


「エレナ。気持ちはありがたいけど、ルミの言う通りこれから攻撃力測定の試験がある。エレナもそうだろ?」

「エレナは回復系希望だから、魔力測定の試験だよ」

「うん。だから、これからまだお互い試験頑張らなきゃいけない」

「当たり前じゃん。エレナも頑張るし! でも、移動する時はこうしてようよっ♪」


 エレナがそう言って抱きつこうとすると、ノーティスはサッと体を引き、少し冷めた眼差しをエレナに向けた。


「それは遠慮しとくよ」

「なんで?」

「悪いけど、あまりベタベタするのは趣味じゃないんだ」

「そんな……」


 エレナには悪いが、ノーティスはエレナに上目遣いで迫られた時、思い出してしまったのだ。

 エリスから、あざとく迫られた時の事を。

 ただノーティスの中で、一番引っかかったのはそこではなかった。


「それに、俺の信頼してるルミの言う事を聞かないのは、あまりいい気分じゃない」

「えっ……!」

「確かに、ルミはエレナにちょっとキツい口調だったかもしれないけど、何も間違った事は言ってないよ」

「そんな……」

「それにルミは、きっと今までキミの事を想って色々言ってくれたり、時には我慢してきたんだと思う」


 それを側で聞いていたルミの瞳が、涙で滲む。


───ノーティス様……!!


 今まで誰かにずっと言ってほしかった事を言ってくれたから。

 しかも、大好きなノーティスから。


 そんなルミが涙を滲ませ見つめる中、ノーティスはエレナに少し寂しげな顔を向け微笑んだ。


「じゃ、エレナ。試験応援してるよ」


 ノーティスはエレナにそう告げると、ルミの方へ向き直り優しく微笑む。


「ルミ、お待たせ。一緒に行こう」

「……はいっ! ノーティス様♪」


 涙を零しそうになるのを我慢して、ルミはノーティスに笑顔で返事をした。

 ノーティスがエレナに言ってくれた言葉に、心から気持ちが救われたから。


 そんな二人の背中に、切ない顔を浮かべ片手を伸ばすエレナ。


「ちょっと、待って……」


 けれど、エレナは思わず途中で声が止まってしまった。

 二人の後ろ姿を見た時に感じてしまったから。

 ノーティスとルミは腕も組んでいないし手すら繋いでないが、二人を包み込む何かがあるのを。


「う〜〜〜〜〜〜〜っ!」


 それを見せつけられたエレナは、思わず両手を下に伸ばし両手をギュッと握り締めると、体を小さく震わせながら二人を睨んだ。


「なによ……でも、でも絶対諦めないんだからっ!」


 エレナはそのまま静かに叫び、悔し涙を浮かべながら二人の背中をジッと見つめていた。


◆◆◆


 ルミはしばらく歩いた時、ふと思った。


「ノーティス様。そーいえば、エレナとはいつからお知り合いで?」

「あぁ、ついさっきだよ」

「ついさっき?」

「うん。いや、ほら、さっき一人でカフェにいたんだけど、その時に声かけられてさ……」


 ノーティスが少しバツが悪そうに言うと、大体の事を察したルミは、敢えて少しツーンとした感じで上を向いた。


 エレナと二人でカフェにいた事に、軽く嫉妬したのもある。

 が、それ以上に、こうでもしないとさっきの事が嬉しくて、ギュッと抱きついてしまいそうだから。


「ふーん……よかったじゃないですか。エレナみたいな可愛い子に声をかけてもらえて」

「別に、そんな事無いよ」

「またまたー。ちなみに、何をお話されてたんですか?」

「あーー女心ってヤツの相談を少し……」


 ちょっと言いにくそうな顔でノーティスが視線を逸らすと、ルミはえっ? と、した顔で目を丸くして、ノーティスを見た。


「もしかして……私にさっき言われたからですか?」

「う、うん。まぁ……そんな感じかな」


 ノーティスがちょっとバツが悪そうな顔を浮かべると、ルミはクスッと笑ってノーティスを見つめる。


「ノーティス様」

「ん?」

「ノーティス様は女心の試験、実技の方で点を取っていきましょう♪」

「へ? ど、どーゆー事?」

「まぁまぁ。ノーティス様は実践向きの方という事です♪」


 実戦向きと言われたノーティスは、軽く虚空を見上げ、自分が女の子と剣を交えて戦ってる所をぼんやりと想像した。

 もはや、これに関しては救いようが無いのかもしれない。


───女の子と戦う? ダメだ。やっぱりこれに関しては、ルミが何を言ってるのか、さっぱり分からない……


 ノーティスは歩きながら片手を額に当て、軽く下を向いて顔をしかめた。


 そんなノーティスの隣で、ルミがニコニコしながら歩いていると、少し先の方に攻撃力測定の試験会場が見えてきた。

女心は分からなくても、人の気持ちは誰よりも汲むノーティス。

次話は新たなざまぁの前触れです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] エレナ、なかなか積極的ですね。 でもそれを軽く躱すノーティスも良いです。 ただ女の子に振り回されるんではなく、 自分の主張をちゃんと言うところが好感を持てます。
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