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cys:164 アネーシャの挑発

「アンリ、貴女何を言ってるの?!」


 驚いて目を見開いたレイに、アンリはいつも通りの飄々とした顔で話していく。


「まあまあ、落ち着くニャ♪」


 もちろん、アンリも先程ノーティスの話に驚愕した部分は大いにある。

 けれど同時に、あながち嘘ではないと思っているのだ。

 元々、教皇クルフォスの闇のオーラは見抜いていたから。


───さて、どうしたものか……


 なので、本来ロウもこの思考に辿り着いてもいいハズなのだが、正義感が強いロウと自由人のアンリがそれを分けていた。


「レイよ、こ奴が嘘をつけんのは分かっておるじゃろ」

「分かってるわよ! でも、そういう問題じゃないの!」

「そうだぜアンリ、認める訳なんざいかねーだろ」

「ジーク、キミの言う通りだ。あんな荒唐無稽な話、受け入れる訳にはいかない」

「ボクもだよ。悲しいけど……」


 皆の気持と眼差しを受け止めたアンリはコクンと頷くと、再びノーティスに向かい問いかける。


「ノーティス、どうするニャ? 私もお主を信じてやりたいが、これだけの話、確証無きままには受け入れてやる事は難しいぞ」

「アンリ。じゃあ、どうしたら信じてもらえるんだ……」


 哀しい瞳で見つめ問いかけてくるノーティスを、アンリはジッと見つめた。

 ノーティスの話を信じてない訳ではないが、この状況では出来る事は限られてしまっているから。


「もう分かっておろう。確証を出せぬ以上、アネーシャから離れ私達の元へ戻るしかないニャ。今ならまだ間に合うぞ」

「それは……」

「幸い、お主はまだ私達に剣を向けた訳ではないし、記憶を失くしていた事もある。処罰はされるだろうが、軽減するように計らってやるニャ」


 アンリのその言葉にノーティスの心が騒めいた。

 自分の処罰が軽減されるとかはどうでもよかったが、アンリが自分を慮る気持ちが伝わってきたから。


───アンリ……!


 だが、それがノーティスの心を苦しめる。

 アンリの気持は嬉しいが、真実から目を背ける事はノーティスには出来ないのだ。

 また何より、アネーシャの事をここで放り出す事など出来はしない。


 なので、ノーティスは拳をギュッと握りしめ声を絞り出す。


「……出来ない。俺には、そんな事は出来ないよアンリ!」


 それを受けたアンリは、哀しそうに一瞬瞳を閉じた。


───やはりそうかノーティス……お主はそういう男よの。真っすぐな故にその道を選ぶか。


 アンリは心でそう零し、密かに胸をギュッと締め付ける。

 そして、スッと目を開けノーティスを見つめた。


「だとしたらノーティスよ、最早この道しか残されておらん。私達の屍を越えてゆく道しかの……!」


 その言葉がノーティスの心を裂き血を流す。


「くっ……! どうしても、やるしかないのか」

「……それしか、ないニャ」


 アンリがノーティスを見つめながらそう零した時だった。


「ノーティス、そのどちらも選ぶ事は無いわ」


 静かだが強い意志が込められた言葉と共に、アネーシャがノーティスの前にサッと躍り出てアンリ達を見据えたのだ。


「アネーシャ! それは一体どういう……」

「ノーティス、ここは私に任せて先に進んで。それが一番の道よ」

「なっ……! アネーシャ、そんな事出来る訳ないだろ!」


 強く叫んだノーティスに背を向けたまま、アネーシャは軽く口角を上げた。

 アンリ達を凛とした瞳で見据えながら。


「いいのよノーティス。これは本来私がやらなきゃいけない戦いなの。それに、貴方は私の事を信じてくれた。そんな貴方の心から、もう血を流させたくないの」

「ダメだアネーシャ、そんな事……!」


 哀しく顔を歪めるノーティスの気持が、アネーシャの背に伝わってくる。

 なので、アネーシャはそれを振り払うかのようにアンリ達を強く見据え、剣を両手で前に構え挑発していく。

 皆の意識と怒りの矛先が自分に向かうように。


「さぁ、かかってきなさい。本来、貴方達が憎いのは私でしょ。それとも貴方達、お優しい勇者様とじゃないと戦えないのかしら。フフッ」

「なんですって?! 貴女いい加減にしなさい!」


 アネーシャの挑発に真っ先に乗ったのはレイだ。

 そんなレイの怒りを燃え上がらせるように、アネーシャは言葉を投げかけてゆく。


「いい加減にするのはレイ、貴女の方よ。ノーティスの事を好きなくせに、信じてあげないじゃない」

「うっ……!」


 痛い所を突かれたレイは分が悪そうに一瞬ギリッと顔をしかめたが、すぐに身を乗り出した。


「そ、それは、貴女が私の大切なノーティスを騙しているからでしょ!」


 レイがそう叫ぶとメティアもそれに続く。


「そうだよ! ボクの大切なノーティスを(たぶら)かしたアネーシャが悪いんじゃないか!」


 レイとメティアから強い怒りの眼差しと共に怒声をぶつけられたアネーシャだが、臆する事無くニヤッと笑みを浮かべた。

 まさに、アネーシャの狙い通りだったから。


「アハッ♪ 貴女達勘違いにも程があるわ。二人とも分かってないわねーーー」

「はぁっ? どういう事よ!」

「そうだよ! 何言ってるのアネーシャ!」

「だって、貴女達のノーティスじゃなくて、私のノーティスだから。嫉妬は美しくないわよ。アーッハッハッハッ♪」


 わざと剣を下ろし胸を張って笑い声を上げたアネーシャに、レイとメティアは思いっきり顔をしかめた。

 二人とも女としてのプライドが燃え盛る。


「ふざけないで! 嫉妬なんかしてないわ! 第一、貴方に私とノーティスの何が分かるのよ!!」

「そうだよ! ボクだって、ノーティスとは大きくなってから奇跡の再会を果たしたんだからっ!!」


 大声で叫んだレイとメティア。

 二人ともノーティスとアネーシャの間に流れる空気が我慢できず、まるでそれを消し飛ばしたいかのような叫びだ。


 そんな二人の叫びが広間に響き渡ると、アネーシャは二人をフフンとした感じで見下ろし、今度はジークを蔑むような瞳で見つめた。


「ジーク、貴方何やってるの? 二人がこんな状態なのに何もしないなんて」

「チッ、苦手なんだよ、こーゆーのは」

「フフッ、でしょうね。貴方じゃノーティスの代わりは無理っぽいし」

「んだと?!」


 苛ついた顔を浮かべたジークの前で、アネーシャはわざとらしくハッとした顔をして片手で口を軽く押さえた。


「あっ、ズボシ過ぎちゃったわね。ごめんねジーク♪」

「こんのやろ……!」


 ジークの怒りが膨れ上がる。

 アネーシャにプライドを刺激されたからだ。

 同じ王宮魔導士としてノーティスのライバルと自認はしているものの、いつも根底には勝つ事が出来ないという気持ちと、いつも最終的にはノーティスがいないと上手くいかないという想いが渦巻いている。


───チッ、くそったれが……結局アイツがいねぇと……


 そんなジークを見据えたアネーシャは、今度はトドメとばかりにロウに向かい余裕の笑みを見せつける。


「ロウ、貴方は今回は楽そうね♪」

「どういう意味だ」

「だって、私が全員すぐに倒しちゃうから、作戦立てなくていいんだもん♪」


 アネーシャが軽やかにそう告げた瞬間、ロウは怒りを爆発させ魔導の杖を再びアネーシャに向かい突き立てた。

 ロウの慧眼な瞳が、怒りでギラリと光る。


「侮辱するのも大概にしろ! そこまでお望みなら、キミから成敗してやる。僕達への侮辱とノーティスを誑かした罪、決して許さん!」


 その怒声を上げると同時に、ロウは額の魔力クリスタルの輝きをより強めた。

 ロウの全身がエメラルドグリーンの輝きに包まれていく。


 また、他の皆も同じく額の魔力クリスタルから溢れ出る光をより強め、それぞれの輝きに身を包んでいった。

 その鮮やかな輝きが広間を煌めかし、皆、力を最大限に開放した全力の状態でアネーシャを見据えている。

 その姿は壮観であると同時に、凄まじい脅威をアネーシャにヒシヒシと感じさせる物だ。


───さすが王宮魔導士達ね。まぁ狙い通りとはいえ、彼らに勝てるかどうかは……!


 アネーシャの額を緊張の汗がツーっと伝う。

 けれど、臆する素振りを見せる事無く凛とした瞳に笑みを浮かべた。


「フフッ、かかってきなさい。全員まとめて倒してあげるから」


 その瞬間、射し込んだ光がアネーシャの構えた剣を照らしキラリと煌めかせた。

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