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cys:160 覚醒と帰還

「やったか……?」


 膝をついたアネーシャを、離れた所からジッと見つめ様子を伺うロウ。

 他の皆も同じく様子を確かめている。

 もしアネーシャの動きを封じれたのなら、今が千載一遇のチャンスだから。


「どーなんだ?」

「膝ついたまま、止まってるように見えるけど……」

「ニャッハーー♪ ど〜〜かのぉ〜」


 皆がそう零す中、レイは静かに見下ろしている。

 膝をついたまま微動だにしないアネーシャを。


───たった一人でここまで来たなんて……それが貴方の愛の示し方。最高に美しいわ。


 レイは心でそう零すと、スッと瞳を閉じアネーシャに踵を返した。

 背中のマントを靡かせて。


「眠りなさい、アネーシャ。永遠(とわ)の夢の中で。それがせめてもの救い……」


 そう零しゆっくりツカツカと歩き始めたレイだが、突然背中に鋭い刃物が迫ってきたのを感じバッと振り向いた。

 美しいウェーブがかかった髪が、フワッと靡く。


「まさか……!」


 その時、レイ達の瞳に映った。

 さっきまで膝をついたまま微動だにしなかったアネーシャが、ググッと立ち上がってゆく姿が。


「あ、ありえないわ……! なんで?! あの夢の世界からどうやって……!」


 レイはあまりの事に驚愕し瞳を大きく見開いた。

 この技は、確かにかつて一度だけノーティスに破られた事はある。

 だが、この技はそれとはまた少し違うベータ版。

 悪夢ではなく、その人が本当に見たい、いや、行きたい世界へ誘うタイプの技だから。


「アネーシャ、あの夢は貴女が一番行きたかった世界のハズよ。人は苦しみには耐えられても、幸せや快楽には絶対(あがら)えないハズなのに……!」


 叫ぶように声を震わすレイに、アネーシャは凛とした眼差しを向けた。

 その瞳に強い光が宿る。


「レイ、貴女の技は確かに凄かったわ。それに、感謝もしてる。想いを伝える事が出来たから」

「じゃあ、なんで……!」


 アネーシャを見つめたまま軽く後ずさりし額からツーっと汗を流すレイに、アネーシャは力強く二ッと微笑んだ。


「レイ、決まってるじゃない。私の愛は現実を変える為にあるからよ。夢じゃないと幸せになれない……そんな世界、決して来させはしないわ!!」

「くっ……! 言うじゃない」


 レイがギリッと唇を噛みしめ後ろにバッと飛び退くと、アネーシャは剣を両手で斜め上にチャキっと構えた。

 アネーシャの体から、白桜のオーラが立ち昇っていく。

 だが、それを見たレイはハッと気づいた。


「アネーシャ、無理よ。もう止めなさい」

「フフッ、力の事心配してくれてるのかしら」

「そうよ。あの夢の世界から抜け出す為には、魂を引き裂く程の代償が必要なの。だから、今の貴女の戦力は……」


 レイが哀しそうにそこまで告げた時、アネーシャは不敵に微笑んだ。


「関係ないわよ、そんなの」

「なんですって?!」

「確かに貴女の言う通りだけど、それでもまだ戦えるし、私は決して止まらない。この身が朽ちるまで」


 その瞬間、レイ達は思った。

 アネーシャを生け捕りにするのは無理だと。

 ただ、同時に思う。

 この状態のアネーシャに、王宮魔導士全員の力を結集させて放つ『アクロ・クリスタルフォース』も使えないと。

 

「フム、いくら教皇の命令であっても今回は無理だな」

「うんっ、ボクもそう思う。王宮魔導士としてよりも、人として」

「そのとーーーーりニャ♪」

「ったく。降格しちゃうかもしれねーけど、まっ、しゃーないわな。で、どーすっか」


 ジークがそう零し片手で頭を掻くと、レイがザッと前に出て必殺技の体勢を取った。

 天に掲げた両手の上に『ディケオ・フレアニクス』の不死鳥が光を放っている。


「私がトドメを刺すわ。貴方達は手出し不要よ」


 その姿を皆が見つめる中、レイは切れ長の美しい瞳を煌めかせ、全身からパープルブルーのオーラを強く輝かせた。


「あの美しさに応えられるのは、私だけだから」


 そう言い放ったレイを、アネーシャは凛とした眼差しで見据える。

 伝わってきたからだ。

 レイもまた愛の為に戦う女だという事が。


「へぇ……さっきの技といい、貴女っていい女ね」

「フフッ♪ アネーシャ、貴女の美しさも素敵よ。だから……この技でトドメを刺してあげる」

「くっ……!」

「けど、貴女の事は忘れないわ……さよなら! 『ディケオ・フレアニクス』!!」


 レイの魔力で出来た不死鳥が、アネーシャに向かい襲い掛かる。

 アネーシャはそれを防ぐ為、今出せる最大限の力を振り絞り剣に込めた。

 それにより、剣が白桜のエネルギーに満ち、バババッ! と、激しく輝く。


「私は負けない!」

「ムダよアネーシャ!」


 そう叫びを上げたレイの不死鳥を、アネーシャは輝く剣でガシッ!! と、何とか受け止めた。

 

「うっ……!!」


 けれど凄まじい衝撃にググッと押され、それを必死に耐えるアネーシャ。

 押し寄せる衝撃波が美しい髪を後ろにたなびかせ、不死鳥の光がアネーシャを激しく照らす。


「アネーシャ、もう諦めなさい。今の貴女は……半分以下の力しか出せないんだから!」

「だから……だから、なんだっていうのよ! 私は……!」


 そう零し必死に耐えるアネーシャだが、現実はレイの言う通りだった。

 今のアネーシャの力では防ぎきれない。

 腕もブルブル震え、もう限界に来ている。

 レイの不死鳥に消し飛ばされてしまうのは、もう確実だ。


───こ、これまでのようね……! もう、力が……


 アネーシャがそう零した時、レイが技にさらに力を込める。


「ハァァァァァッ! これで終わりよ!」


 その咆哮と共に、不死鳥がより大きく光り輝いた。

 アネーシャの僅かに残っている白桜のオーラを、かき消すように燃え盛る。

 もはや、完全にアネーシャの負けだ。


───くっ……! ごめんなさいシド。そしてノーティス。私は愛した人を結局救えなかった……


 アネーシャはそう心で涙し、同時に覚悟をした。

 自分の死を。


 しかしその時だった。


「『バーン・メテオロンフォース』!!」


 その咆哮が広間に響き渡り、数多の流星のような斬撃がレイの不死鳥に、横からズガガガガンッ!! と、炸裂した。

 それによりレイの不死鳥はカッ!! と光を放つとアネーシャの目の前でバシュン!! と、虚空に消し飛び激しい衝撃波が周囲に広がる。


「きゃあっ!」


 突然の出来事と衝撃波に、思わず片腕で顔をガードしたレイは苦しそうに顔をしかめたが、次の瞬間大きく目を見開いた。

 他の皆も同じだ。

 その衝撃波が霧散していく先に立っていたからだ。


 澄んだ瞳に哀しみと怒りを宿したスマート・ミレニアムの勇者、エデン・ノーティスが……!

勇者の帰還……!

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