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ゼロの輝き─無魔力追放からの反逆  作者: ジュン・ガリアーノ
第2章 波乱のギルド検定試験
16/251

cys:16 拳の重さ

「ふざけんなっ!!」


 ガルムは怒りに顔を大きく歪め、剛腕を振り下ろしアンリに殴りかかった。

 が、その拳はアンリには届かない。

 ノーティスが片手でガシッ! と、受け止めたからだ。


「なっ、キサマっ……!」


 歯をギリッと食いしばりながら力を込めているガルムに、ノーティスはまるで力を込めていないかのように、平然とした顔のままガルムを見据えている。


「いい加減にしろガルム。恥ずかしくないのか」

「なんだと……!」

「B+か何か知らないが、勝手に女の子を連れ去ろうとしたり、逆恨みで女性に拳を向ける。アンタは本当に冒険者なのか?」

「くっ……」

「第一、ランクが上の者には従うのが当然なんだろ?」

「黙れ、このガキが……!」


 ガルムが睨みつける中、ノーティスは余裕の表情でガルムの拳を押さえ見据えたままだ。

 そして、アンリの事をチラッと見た。


「これって、正当防衛成り立ちますか?」

「もちろんニャ♪ ただ、過剰防衛はダメだぞーーー」


 アンリが言葉とは裏腹に、やっちゃえ♪ と、いった感じの顔をして答えると、ノーティスは再びガルムを精悍な瞳で見据える。


「ガルム、お前は二度拳を振るった。アンリに逆恨みの拳を。そして何より、俺の大切なルミを連れ去ろうとして……ルミの心に拳を振るった!」


───ノーティス様……!


 ルミが両手で口を覆い、涙を浮べた瞳でノーティスを見つめる中、ガルムは腕にググッと力を込めたまま、よりイラッと顔をしかめた。


「へっ……それがどうしたよ。くそガキがぁ!」

「……その分、キッチリ返させてもらうって事さ!」


 ノーティスはガルムにそう言い放ち、もう片方の拳にググっと力を込めていく。

 それを見たガルムはギリッと顔をしかめ、力を込めた腕をギシギシと震わせながらもニヤリと笑った。


「なんだ、やんのかよ。でもな……オマエのその体格とその位置からじゃ、俺の身体にしか届かないぜ。この鋼鉄製の鎧にしかな!」


 だが、ノーティスの表情は変わらない。

 クールにガルムを見据えたままだ。


「……今まで、その程度の鎧で防げる相手としか、戦ってこなかったのか」

「なんだと?」

「ガルム。もし俺の師匠が相手なら、アンタは裸同然だ!」

「なにぃっ?!」


 ガルムが驚愕し目を見開いた瞬間、ノーティスはさらに拳に力を込めてゆく。


「ハァァァァッ!」


 そして咆哮を上げると、ガルムの鋼鉄製の鎧に向けて拳を繰り出した。


「コレがアンリに対しての分」


 ドガンッ!


「そしてこれが……ルミに対しての分だ!」


 ドガアンッ!!


ノーティスの拳を喰らったガルムは、


 「うっ……ぐはぁっ!!」


 と、吹っ飛び、白目を向いてそのままズドンと後ろに倒れた。


 それを見た周りの人達は、皆大きく目を見開いてノーティスを驚きの眼差しで見つめている。

 ガルムの鋼鉄製の鎧が、拳で二つグシャっと凹んでいるからだ。


 それを見たアンリはノーティスにスッと近寄ると、好奇心と好意に満ちた瞳で真っ直ぐに見つめた。


「いいパンチだにゃ♪」

「いえ、ちょっと凹ませただけですし」


 そう零し軽く瞳を伏せたノーティス。

 実際手加減はしたものの、やってしまったという気持ちもあったから。


「あれま♪ それだけの力を持ってるのに謙遜するかーーーキミ、名前はー?」


 斜め下から顔を覗き込んでアンリに、ノーティスはチラッと顔を振り向けた。


「俺は、エデン・ノーティスです」

「ノーティスか。覚えておくにゃ♪」


 アンリはそう言うなり、ノーティスの頬にチュッと軽くキスをした。


「なっ!? ア、アンリ」


 慌てながら顔を赤くしたノーティスに、アンリは飄々とした感じで微笑む。


「今の、いーーー戦いへのお礼ニャ♪」


 そう言われたノーティスは、その場で顔を少し赤くしてアンリを見ているが、隣で見てたルミはそうはいかない。


「ア、ア、アンリ樣! なんて事を!」


 慌てふためきながらアンリに訴えるが、アンリは余裕の笑みを浮かべている。

 まるで、さも今のが当然かのように。


「んんっ? アレぐらいもダメだと申すか?」

「だ、だ、ダメという訳じゃないんですけど……」

「ふーん、私の方がキミに負けてるんだけどニャーーー」

「えっ? ど、どーゆー事ですか?」


 するとアンリはルミに向かい、仰向けに倒れているガルムの方にスッと視線を誘導する。


「ほれ、気付かんかニャ? あの鎧の凹み方を見てみぃ」

「凹み方、ですか……」


 ルミはアンリからそう言われてよく見てみると、鎧の凹み方が共に少し違った。

 片方の方がより凹み方が大きい。


「あっ……」


 ルミがそう声を上げると、アンリは二ッと嬉しそうに笑みを浮かべた。


「そーゆー事ニャ♪ キミの事を想って打った拳の方が、より凹みが大きいのだーーー」


 アンリが両手を上げてニパッと笑うと、ルミは照れながらチラッとノーティスを見た。


「ノーティス樣……♪」


 すると、ノーティスは軽く照れて視線を斜め上に向けたまま、人差し指で頬を掻いていた。

 ノーティスは気持ちに素直なので、どうしても拳を打ち込む時に力の差が出てしまったのだ。


 アンリはその姿を見てアハッ♪ と、笑うと、ルミに少しいたずらっぽい顔を向けた。


「なっ? だから頬にキス位よかろうーーー♪」

「そ、それはダメです!」


 顔を火照らせ怒鳴ってきたルミを、アンリはニヤニヤしながら見つめる。

 Sランク王宮魔道士とは思えない、いたずらっ子のような顔だ。


「んーーールミ。キミは可愛いのっ♪」


 アンリはそう言ってニコッと笑うと、ルミの頬にチュッ♪ と、軽くキスをした。


 その瞬間、頬にアンリのプルンとした唇の感触が伝わり、ルミは倒れそうになるぐらい顔を火照らせると、バッと体を引いた。

 そして、恥ずかしさに体を震わせながらアンリを見つめる。


「ア、ア、アンリ様!!」

「じゃ、またにゃー♪」


 アンリはルミとノーティスに微笑んで片手を軽く振ると、背をクルッと向けてその場を去った。


 そこにポツンと取り残される形になったノーティスとルミは、互いを横目でチラッと見ると、照れくさそうに話を始める。


「あ、あのさ」「あ、あの」


 互いに言葉が被ってしまった二人は、互いをジッと見つめた。

 その中で先に話を切り出したのは、ノーティスだ。


「いやルミ……改めてさっきはごめんな」

「別に、もう怒ってませんよ」

「ホントに?」

「はい」


 ルミはそう言うが、ノーティスはルミの気持ちに、まだ何となくしこりが残ってしまってるように感じた。

 まあ、それもそのハズだ。

 結局女心については、全く分かっていないのだから。


 けれどルミは、そんなノーティスの事を少し頬を赤らめながら横目でチラッと見ると、フゥッと軽くため息を吐き笑みを向ける。


「いいんです。もう気にしないで下さい。ノーティス様は女心の筆記試験、れ〜点なんですから」

「ほら、だから……」


 ノーティスがそこまで言うと、ルミは言葉を遮った。


「でもノーティス様! 筆記試験は、れ〜点でも、実技試験は合格です♪」

「えっ? ど、どーゆー事?」


 ノーティスがキョトンとしてる中、ルミは腕を後に組んで嬉しそうな顔でノーティスに微笑む。


「いいんです♪ さっ、もうすぐ『攻撃力測定試験』が始まりますよ。一緒に行きましょう♪」

「あっ、あぁ。もうそんな時間か」


 ノーティスが何となくこれでいいのかなと思い、そのまま歩いていると、ルミが不意に横からチラッと見上げてきた。


「ノーティス様」

「ん?」

「……これが終わったら、後で紅茶付き合って下さいねっ♪」


 ちょっと照れながら、そう言ってくれたルミ。

 ノーティスは女心が分からない。

 けど、ルミから伝わってきた気持ちに胸がジンとし、優しく笑みを零した。


「あぁ、紅茶は1人じゃ美味くないからな」

「そーですね♪ お砂糖の分量は任せて下さい♪」


 そう言って、互いを照れくさそうに見つめ合う二人。

 が、その瞬間だった。


「ノーティス、超カッコよかったよーーーー♪」


 と、いう大きな明るい可愛い声で後ろから飛びついてきた女の子に、ノーティスは背中からガバッと抱きしめられた。


「うわっ!」


 ビックリして後ろを振り返ると、なんとそれは、さっきカフェで一緒にいたエレナだった。


「お、おいエレナ。離せよこんなとこで」

「やーだよ♪ ノーティスの事、大ーー好きだもんっ♪」

「分かった。分かったからエレナ。ちょっと離れよう」


 そう言って何とか背中から離しエレナの方へ振り向いたが、その瞬間、ノーティスより早くルミが口を開く。

 驚いて大きく見開いた目をエレナに向けて。


「エレナ! なんでアナタここに?」

「エヘヘ♪」


 ルミとエレナに突然挟まれ、一体何が起こっているのか分からないノーティスは、二人の事を交互にキョロキョロと見つめていた。

想いの拳を放ったノーティスだが、エレナの正体は謎……

次話はちょっと変わったざまぁです。

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