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cys:154 ルミとエミリオの決意

「ノーティス樣……」


 アネーシャがロウ達と対峙する少し前、ルミは王宮魔道士の控室で静かに佇んでいた。


 控室自体はかなり豪華な造りだ。

 様々なアンティークや絵画、本。

 また、中央の台座にある大きなクリスタル球からは、様々な映像が空中に投影出来るようになっているのに加え、筋トレ器具やリラクゼーションマシンもある。

 高級な化粧品はレイのだろう。

 

 なので、基本退屈はしない。

 けれど、そんな部屋でもルミは落ち着かなかった。


───アネーシャって(ひと)が一人で乗り込んできたって言ってたけど、ノーティス樣は一体どこに……


 部屋の中には色んな物がたくさんあるが、ルミの頭の中はノーティスの事でいっぱいだ。


 そんな中、控室のドアが勢いよくバンッ! と開き、そこから人が血相を変えて入ってきた。


「姉様っ!」


 ルミは一瞬ビクッとして声の方を振り返ると、そこにはなんと、あのエミリオが。


「エミリオさん……!」


 可愛く大きな目を軽くキョトンとさせて見つめるルミに、エミリオは息を切らせたままツカツカと近寄ってきた。

 ショートボブの髪を少し乱しながら。


「姉様はどこだ?!」


 息を切らし尋ねてきたエミリオに、ルミは少し気圧されながらも答える。


「ア、アネーシャという(ひと)が攻め入ってきたので、それの討伐に……」

「くっそ! 遅かったか……!」


 目をギュッと瞑り体を震わすエミリオ。


「姉様には……姉様には行ってほしくなかったのに……! うわぁぁぁっ!!」


 大きく口を開け仰け反るように上を向いて叫んだ。

 エミリオはアネーシャの強さを聞いて、レイには行ってほしくないと強く思い止めにきたから。


 その気持ちをヒシヒシと感じたルミが切なく見つめると、エミリオは怒りと悲しみにまみれた瞳を向けてきた。


「キミはなんでここにいる?」

「あ、あの、ノーティス様がああなられたので、家にいては危険だと言われて……」


 ルミは言いにくそうに、そう零した。

 ノーティスが反逆者と言われてしまい、激昂した市民からルミに危険が及ば無いようメティアが呼んでくれたのだが、ここにいるとそれを認めているようで嫌だったから。

 なので最初は反対したのだが、メティアに言われたのだ。


『ルミさんに何かあったら、ノーティス悲しむよ。だからボクに着いてきて。いいから! ほら、行くよ!』


 と、いった感じで。

 ちなみにエレナは、ヒーラーとして救護活動に回っている。


 ルミがその事に思いを巡らしていると、エミリオはフウッと溜息を吐いて静かに見据えた。


「そうか……だったら、仕方ない。キミは、ノーティスの彼女だもんな」

「ち、違いますっ! 私はノーティス樣の……」


 顔を火照らせ慌てて両手を向けたルミ。

 だが、そこまで言いかけてると言葉を止め、ゆっくりと両手を下げてシュンとなった。


「何なんでしょうか……」

「えっ?」


 ルミの突然の変わりように、どうした? という顔を浮かべたエミリオ。

 そんなエミリオを前に、ルミは静かに零していく。


「私、ノーティス様の執事としてずっと一緒にいました。けど、一緒にいる内にあの人の性格に惹かれてドンドン好きになっちゃって……」


 黙って聞いているエミリオに、ルミは言葉を続ける。


「けど、ノーティス様は私の事を執事としか見てなくて……でも、出立の時に言ってくれたんです。愛してるって」


 ルミの全身から切なさが溢れ出している。

 これまでの想いと共に。


「でも、私が止めなかったせいでノーティス様は敵と戦って記憶を失くして……私、執事としても恋人としても失格なんです。私なんて、所詮、ノーティス様の何にもなれないんです……」


 ルミがうつむきながらそう零した時、グスッという音が聞こえたのでスッと顔を上げると、大粒の涙をポロポロ零しているエミリオの姿が瞳に映った。


「エ、エミリオさん……?!」


 そんなルミに、エミリオはすすり泣きながら口を開く。


「うっ……ううっ……! 分かる、分かるよキミの気持ち!」

「えっ、ええっ?」


 なんで泣いてるのか分からず戸惑うルミの前で、エミリオは涙を拭う事なく想いを滾らす。


「僕も同じなんだ……! 姉様の事大好きなのに役に立ててないし、姉様が好きなのは僕じゃなくてアイツなんだ! ……ううっ……」


 その姿にハッとしたルミは、思わず軽く身を乗り出した。


「そんな事無いですよ! レイ様はエミリオさんの事、だれよりも愛してます!」

「嘘だ! ある訳な無いんだ、そんな事!」


 涙を迸らせながら叫んだエミリオを見つめたルミは、そっとハンカチを片手で差し微笑む。


「エミリオさん、忘れてしまったんですか?」

「えっ?」

「昔、ノーティス様がレイ様と戦った時、抱きしめてくれたじゃないですか」

「あっ、ああっ……」


 エミリオはそう声を漏らすと、斜め上を向き虚空を見つめ思い出した。

 あの日、愛するレイを守る為に立ち向かい、それでボロボロにされた自分を、レイが涙を流しながら抱きしめ愛してくれた事を。


 そんなエミリオに向かい、ニコッと微笑んだルミ。


「思い出しました?」

「あぁ……ありがとう。キミのお陰で思い出せたよ」


 エミリオはそう言って優しく微笑んだ。

 そして、ルミからのハンカチで涙を拭くと、涙の跡が残る瞳で見つめた。


「このハンカチ、洗って返すから」

「いいですよぉ、そんなの♪」

「いや、そこはちゃんとする。それに……」


 エミリオはルミを真っ直ぐ見つめたまま告げる。


「キミもきっと愛されてるよ」

「えっ?」

「ノーティスから、誰よりもさ」

「……!」


 ルミは一瞬ドキッとした雰囲気で顔を強張らせたが、すぐ首を横に振った。

 まるで、一瞬でも期待してしまった自分を恥じるかのように。


「エミリオさん、それは無いです。私なんて……」


 そんなルミに、エミリオは優しくため息をついて軽く首を傾げた。


「キミこそ覚えてないのかな? キミが……そうそうルミさんだよな。姉様から昔聞いたよ。キミが攫われた時、ノーティスの奴ブチ切れたって」

「あっ……!」


 今度はルミの脳裏に蘇った。

 昔ジークに攫われた時、ノーティスがこれまでに無い程怒りに身を滾らせた事を。

 

「思い出したみたいだね」

「う、うん……」

「どうした?」


 思い出した割に、なぜか浮かない顔をしてるのか気になったエミリオは、軽く覗き込むように首をかしげた。

 すると、ルミは悔しさと悲しさが入り混じった表情を浮かべて口をギュッと歪めた。

 瞳には涙を浮かべ、体を震わせている。


「だって……そんな記憶も、ノーティス様はもう覚えて……」

「ルミ……」

「ノーティス様の中に、私はもういな……」


 そこまで言った時だった。


「ルミさんっ!」


 エミリオは言葉を断ち切り、それにハッとして見上げたルミの事を真摯な眼差しで包み込んだ。


「違う! いる! きっといるから!」

「エミリオさん……」

「信じるんだルミさん。記憶? それがなんだってんだ! そんなの失ったって、愛は決して消えないから!」

「そうかな……本当にそうなのかな、エミリオさん!」


 潤んだ瞳で縋るように見上げるルミを、エミリオはジッと見つめ堂々と言い放つ。

 こころからの想いを込めて。


「当り前だろ。それに、アイツはそんなに弱くない。身体も心も。だからきっと思い出すよ。キミの事を!」


 そう言い切ったエミリオは、少しはにかんだ笑顔を浮かべ片手で頭を掻いた。

 

「まっ、認めたくないけど、アイツの強さは充分知ってるつもりだよ。ボコボコにされちゃった身だから、よーーーーく分かる。変な説得力かもしれないけどさ。ハハッ」

「……アハハッ♪ 確かに変な説得力ですね」


 片手で涙を拭いながらエミリオに微笑んだルミ。

 伝わってきたから。

 ノーティスと戦い改心したとはいえ、プライドの高いエミリオが、自分が負けた事を引き合いに出してでもルミを元気付けようとしているのが。 

 またそれは、かつてのエミリオには決して出来なかった事だ。


「エミリオさん」


 ルミはエミリオを真っ直ぐな瞳で見上げた。


「行きましょう。まだ出て行ってそんなに経ってませんし、さっき城内まで来たって言ってので、近くにいるハズです」

「ああ、行こう! 姉さんは僕が守る!!」

「さすがです!」


 ルミはそう言い力強くニコッと微笑むと、エミリオと一緒に控室を飛び出した。

 そして、走りながら決意を胸に宿す。


───泣いてたって、イジケたって変わらない。私は……ノーティス様の執事ですから!

ルミもエミリオも諦めない。愛する人を守る事を……!

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