cys:151 メティアの結界
今朝方間違えて先にアップしてしまった分です。失礼いたしました。
「チッ、こいつは厳しいぜ」
苦虫を噛み潰したような顔でそう零したジークの隣で、アンリが猫口で唸る。
「ふ~~~む、確かにのう……」
その隣でレイは悔しそうに口をギリッと噛みしめているが、気持ちは二人と一緒だ。
言いたい事は同じ。
教皇クルフォスから命じられているものの、アネーシャを生け捕りなんて無理だという事だ。
「まさか、あれほどとはね……」
「あぁ、それにまだ本気じゃねーだろうしよ。ったく……どうするよ、ロウ」
基本的に攻撃は担わないメティアは別として、レイとジークとアンリはロウを少し困った顔で見つめた。
ここからどうやって戦っていけばいいのかという視線が、ロウに注がれる。
そんな中、ロウはアネーシャの方を向いたまましばらく考えると、慧眼な瞳を揺らめかせた。
「メティア」
「えっ?」
突然呼ばれたメティアは、少し驚いた顔をしてロウを見つめた。
すると、ロウはメティアの方へサッと振り向き告げる。
「キミに頼みたい。アネーシャの回復を」
「ア、アネーシャの?」
「ああそうだ。僕達は今から全力でアネーシャと戦う。ただあの強さに、手加減は出来ない」
「だからアネーシャの回復をボクが……」
「頼めるか? 敵を回復させろなんて変な話だけど、これしか方法が無い」
そう告げてきたロウに、メティアは力強く瞳に意思を宿した。
「ロウ、やるよ! だってボク、本当はアネーシャにも傷ついてほしくないんだ」
「そうか。メティア……キミは優しいな」
「うぅん。そうじゃなくて、アネーシャなんだか凄く哀しそうだから……」
メティアがそう零すと、ジークは横から、本気か? と、いう表情でメティアの顔を覗き込んだ。
「哀しそう? あの鬼神みたいな女がかぁ?」
「うん……なんか、そんな感じがするんだ」
「そーかねぇ?」
ジークは軽く眉間にしわを寄せアネーシャをチラッと見ると、ハァッとため息を吐いてヤレヤレのポーズを取った。
「俺にはわかんねーーな」
決して人の気持に鈍いとかではない。
ただ、ジークは根っからの戦士なので、アネーシャから立ち昇る高い戦闘力の方に気がいってしまうのだ。
そんなジークに、レイは冷ややかな流し目を送る。
「でしょうね。ジーク、貴方みたいにガサツな人には分からなくて、とーぜんよ」
「なんだよレイ。まーた、イヤミかい」
「あら、それは分かるのね♪」
「ケッ、どーせ俺には繊細さはねーよ」
軽く顔をしかめ片手で頭をクシャっと掻いたジークに、レイは妖しげな瞳で微笑んだ。
「フフッ♪ でも、今はいいのよそれで」
「へっ?」
「悔しいけど、全力でいかなきゃ止めれないから」
レイの目尻がキッと上がった。
アネーシャに対してレイも色々思う所はあるが、実力は認めざるを得ないから。
かつてノーティスと互角の戦いをしたのを知ってる上に、今、その実力の片鱗を見せられてしまった以上は。
そんなレイを見つめたまま、ジークはニカッと笑った。
「ああ、その方が分かりやすくていいぜ。全力でやってやらぁ!」
ジークがそう声を上げた時、アネーシャがロウ達を見ながらニヤッと微笑みを浮かべた。
片手で剣を突き立てたまま。
「フフッ、決まったのかしら」
ロウはそんなアネーシャを慧眼な瞳で見据えたまま、凛々しく答える。
「アネーシャ、ここは僕らの城だ。退く事も、ましてやその壁画と同じになる事は御免こうむる」
「そう……だったらどうするの」
アネーシャが挑発的な瞳を光らせた瞬間、ロウはそれを見据えたまま魔導の杖を片手でバッと大きく掲げた。
ロウの纏っている魔法衣が、背中の茶色いマントと共にバサッと揺れる。
「スマート・ミレニアムの王宮魔導軍師として皆に命ずる。敵国トゥーラ・レヴォルトの勇者メデュム・アネーシャを、全力を持って討伐せよ!!」
ロウのその勇ましい号令が広間一帯に響き渡ると同時に、皆の瞳がキラリと光った。
そして、それと同時に皆輝かせていく。
額の魔力クリスタルを。
「オォォォォォッ! 獄炎の炎と共に唸りやがれ! 俺のクリスタルよ!!」
「美の女神アフロディーテの名の下に、蒼く輝きなさい! 私のクリスタル!!」
「ニャッハ――――――♪ 全力で神秘の色に染めてやるニャ――――――!!」
「全ては理のままに……! 僕のクリスタルで全てを照らす!!」
「ボクの光はみんなを癒す為の力! 煌めいて! 僕のクリスタル!!」
メティアは額の魔力クリスタルから黄色い光を放つと同時に両手を前に出し、その中に四角い箱を創り出した。
かなり力のいる技で、メティアはそれを見ながらググッを歯を食いしばっている。
「アァァァァァッ……!! くっ……こ、この強度なら……」
メティアはそう呟くと、両手を天に掲げた。
「ここでの攻撃は外へは漏らさない! この結界で守ってみせる! 『セント・オーリオ』!!」
その咆哮と同時に、メティアの手から放たれた結界が辺りにバァァァァッ! と広がってゆき、透明な結界が広間全体を覆った。
それを見て、アネーシャはニヤッと不敵に微笑んだ。
「メティア、貴方やるじゃない」
「これは聖魔法の1つ。外からは入れても、中からはボクが解かない限り決して出られないよ」
「へぇ、心外だわ。貴方、私が逃げるとでも?」
「そうじゃないよ。けどもう、ボクはここで終わりにしたいんだ。アネーシャ……キミの為にも!」
哀しそうな瞳で言葉をぶつけてきたメティアを、アネーシャはジッと見据えた。
メティアから伝わってくるからだ。
自分を敵として倒したい訳じゃなく、心を入れ替え自分達の仲間になってほしいという想いが。
それは奇しくも、ノーティスがシドに対して戦いの最中に抱いた感情と同じだった。
───甘いわね。本当に甘い。ノーティスを庇った時といい、貴方は優し過ぎる。まるで……
アネーシャは心でそう零すと一瞬瞳を閉じ、メティアを凛とした瞳で見上げた。
「奇遇ね。私も同じ気持ちよ」
「アネーシャ……!?」
「ここで貴方達を倒してね!」
「うぅっ……アネーシャ、キミはどうしても……」
「戦場に情けは無用よ。いつでもクールでいなさい」
アネーシャはそう言い放つと同時に、桜色のオーラを全身からブワッ! と、立ち昇らせた。
そのオーラはアネーシャの怒りを現わしているかのように、全身から勢いよくババッ! と放たれていて、所どころがバチバチッ! と、小さな炸裂をしている。
その力は、全力の姿になった王宮魔導士達に決して引けを取らない。
「ったく、なんてぇ力だよ」
「……やるじゃない」
「さすがだニャーーーー」
「どうしても、戦わなきゃいけないんだね……!」
メティアが哀しくそう零した時、ロウが魔導の杖を弓を持つように左手を前に出して構えた。
ロウの慧眼な瞳が、強い意志を宿す光で煌めく。
「ならば……!」
構えた魔導の杖の後ろにエメラルドグリーンの弦が現れ、ロウは右手で弦を引き魔導弓を形作った。
そして、その中にエメラルドグリーンの矢をブワンと作り、慧眼な瞳と共にアネーシャを真っすぐに見据える。
「アネーシャ、喰らうがいい。これが、僕ら王宮魔導士達の意思だ。『コズミック・メテオアロー』!!」
エメラルドグリーンの矢が回転しながら、凄まじい勢いでアネーシャに襲い掛かった。