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cys:150 アネーシャの応え方

「ハァッ……ハァッ……」


 城の薄暗い回廊を息を切らして走るアネーシャ。

 スマート・ミレニアム城は入り口は明るく荘厳だが、登っていく回廊は薄暗い。

 日差しが少ないと尚の事。


 そんな中を駆けるアネーシャには、元々一つの狙いがあった。

 それはこの城のどこかにあるハズの『魔力クリスタルの管制施設』に向かう事だ。


───あのクリスタルがユグドラシルからの魔力を使ってるなら、それを管理する場所が必ずあるハズ……!


 もちろん、アネーシャは城の内部構造は分からないし、そういう管理施設がある事も聞いた事は無い。

 ただ、それが必ずあるハズだと確信していたし、それさえ破壊すれば相手の力を大幅に削減出来る事も分かっていた。

 そして、それが恐らくこの国の最も奥深い所にあるであろう事も。


───きっと、教皇ならそれを知ってる。彼を倒し、その場所まで連れて行かせれば……!


 そう思いながら長い回廊を駆けていくと、少し先に扉が見えた。


───あれは……


 その扉をバンッと開け出てみると、そこは大きな広間だった。

 薄暗い回廊とは打って変わり、煌びやかな装飾に彩られた壁と高い天井。

 日が差し込んでいるその広間は、正にこの国の繁栄を映し出している様だ。


「凄い造りね……」


 思わずそう零し辺りを見渡すと、床に大きな円形の模様が描かれている事に気付いた。

 中央に光のクリスタルがあり、その周囲を赤、青、緑、黄、紫のクリスタルが囲んでいる。

 また、壁には描かれていた。

 巨大な悪魔『アーロス』を五人の英雄が力を合わせ打ち倒している姿が。


「くっ……! これは」


 思わずギリッと歯を食いしばり、その壁画を睨み上げたアネーシャ。

 女神レティシアが見せてくれたのとはまるで真逆の、改竄(かいざん)された偽りの歴史の壁画。

 ソフィアを愛し守る為に戦ったアーロスは逆賊扱されてしまっている。


───アーロス……!


 歴史は勝者が作るものとはいえ、あまりに酷いこの壁画に怒りが込み上げてくるのだ。


───ロキ、カイン、そしてソフィア……!


 アネーシャが心で彼らの事を悼んだ時だった。


「キミが最後を迎えるにはいい場所だろ。メデュム・アネーシャ」


 その声にハッと振り返ると、アネーシャの瞳に映った。

 差し込んでくる日差しを後光のように煌めかせている、ロウ達の姿が。

 皆、アネーシャの事を憐れみと怒りの入り混じった眼差しで見据えている。


 そんなロウ達を、キッと見返すアネーシャ。

 凛とした瞳が強い意志の光で揺れる。


「ついにお出ましって訳ね」

「フム、それはこちらのセリフなんだが……」


 そう答えるロウの隣で、レイがクールな瞳のまま妖しく口角を上げた。


「フフッ♪ わざわざ決着付けに来てくれるなんて嬉しいじゃない」

「へぇ、貴女まだ負けてないと思ってたんだ」

「なんですって!」


 イラっとして眉を上げたレイに、アネーシャは逆に軽く微笑む。


「だって、貴女の心って分かりやすいんだもん」

「ハアっ?!」

「フフッ、ほらね。ちなみに、そっちの彼とは上手くいってるのかしら」

「な、なによっ、いきなり」


 急に別の角度からの言葉にレイが慌てる中、ジークは、いっ? と、した顔を浮かべた。


「そ、そりゃ~~~いつだって絶好調! ……の予定だぜ」

「もうっジーク、貴方なに言ってんのよ」

「あっ、いや、どうかなと」

「ジーク、しっかりしなさい!」

「おっ、おぉ……」


 そんなやり取りを見て、思わず吹き出すアネーシャ。


「アハハッ! 貴方達、相変わらずみたいね。見てて面白いわ~~」

「なによっ!」


 レイが顔を真っ赤に火照らせて怒鳴ると、アンリがシリアスな顔をアネーシャに向けてきた。

 レイとは対照的だ。


「してアネーシャよ、ノーティスの奴はどうしておるのじゃ」


 その瞬間アネーシャはもちろん、他の皆も一気にシリアスな表情に変わった。

 皆が一番気になっている話だから。

 そこから数瞬の沈黙の後、アネーシャは静かに口を開く。


「無事よ」


 そう答えた時、メティアが切ない顔を浮かべてアネーシャに向かい身を乗り出した。

 ずっと心配だったから。

 自分にとって大切なノーティスの事が。


「よかった……でも、記憶は……ノーティスの記憶は戻ったの?! 教えてアネーシャ!」


 メティアの瞳に涙が滲む。

 片時も忘れていないから。

 あの日、自分がノーティスに忘れ去られ、まるで知らない人を見るような顔をされた事を。

 レイとはまた違う形での、ノーティスへの想いが溢れている。


───この子は純粋に愛しているのね。ノーティスの事を……


 アネーシャはそれをヒシヒシと感じていた。


───あの時もそうだった……


 アネーシャの脳裏に蘇る。

 以前、自分がノーティスにトドメを刺そうとした時、メティアが自分と圧倒的実力差があるにも関わらず、ノーティスを身を挺して守ろうとした事が。


 その想いを感じ巡らせながら、アネーシャは静かに答える。


「……戻ってはいないわ」


 もちろん、この答えがメティアの心を傷つける事は分かっていた。

 けれど、アネーシャはノーティスの記憶が戻った事は知らないし、嘘はより人を傷つける事を知っているから。


「そ、そんな……! うぅっ、ノーティス……」


 瞳に涙を浮かべるメティア。

 アネーシャから、もしかしたら違う答えが聞けるかもしれないと期待してしまっていた分、その落胆は大きい。

 また、他の皆も同じだ。

 メティアと違って涙は浮かべないものの、皆悔しさに顔をしかめている。


「そうか……」

「ちっ、クソったれが……!」

「ニャッハ〜〜戻らんか……」


 アンリがそう零した時、レイはアネーシャをキッと睨みつけた。


「貴方、いい加減になさい!」

「はっ? なにが」

「あの人の記憶が戻らないのをいい事に、都合のいい事吹き込んだでしょ!」


 レイが綺麗な口を大きく開けてそう叫んだ時、アネーシャの瞳が怒りでキラリと光る。


「いい加減にするのはそっちよ」


 アネーシャは剣を素早く抜くと、そのまま後ろの壁画に向かい神速の斬撃を浴びせた。

 ズバズバッ!! と、いう音と同時に壁画に白い閃光が幾つも走る。

 そしてその直後、壁画はその壁と共にバラバラに切り裂かれ、ドドドドッ!! と、その場に崩落した。

 そこから巻き上がった粉塵と風が、アネーシャの長く美しい髪を揺らす。

 

「なっ?!」

「マジかよ……!」

「くっ……やるじゃない」

「アネーシャ……!」

「ぬぬぬっ、やりおるニャー」


 驚愕の光景に目を丸くするロウ達を、アネーシャは怒りを宿した瞳で見据える。


「これが答えよ。そして、私の力」


 そう告げると、アネーシャは剣を片手でロウ達へ向けて突き出した。

 その瞳に決意を宿して。


「さあ選びなさい。偽りの光と歴史にまみれた戦士達。退くか、それとも……この壁画のようになるのかを!」

アネーシャの切なく激しい怒りが燃え上がる……!

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