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cys:142 アーロスの究極とソフィアの叫び

「うっ……!」


 焦げるような匂いで目を覚ましたソフィアは、瞳に映った光景を見た瞬間ハッと目を大きく開いた。


「あ、あれは……!」


 門から離れた街の方で大きな火の手が立ち昇り、人々が血を流しながら悲鳴を上げて逃げ惑っていたのだ。

 その光景を見たソフィアの心に、怒りの炎が燃え上がってゆく。

 これを引き起こしたのが誰なのかが、直観的に分かったからだ。


「許さない……!」


 そう声を漏らし歯をギリッと食いしばった時、その炎を背に砂塵の中から現れた。

 ソフィアを見据えながらニヤリと嗤うカイザー達が。


「女、そしてアーロスよ、惜しかったな」

「カイザー!」


 ソフィアがキッと見据えると、カイザーは歪んだ笑みを浮かべた。


「クククッ……所詮奴らも犬死だったという事だ」 


 その瞬間、ソフィアは怒りと共にザッと立ち上がり、悲壮な顔に怒りを乗せ大きく口を開く。


「ロキとカインをどうしたの!」

「フッ、言わずと知れた事。我らがここにいる事が、その答えだ」

「そ、そんな。ロキ、カイン……!」


 ソフィアの心に二人の最後の雄姿と笑顔、そして、これまで同じ志を持ち共に過ごしてきたかけがえのない日々が駆け巡った。

 それがソフィアの心を引き裂き、心からボタボタと血が流れ落ちていく。


「うっ……くっ……!」


 怒りに全身をブルブルと震わすソフィアだが、カイザーだけでなく、他の悪魔王達もニヤニヤと嗤いおぞましい話を始めた。


「フフッ、あの子たちの壊れていく姿は最高だったわぁ♪」

「うんっ♪ そうだねエルナ。あの二人、何度も殺して甦らせて蹂躙できたの楽しかったーー」

「グフフフッ、思った以上に美味かったしな♪」

「ったく、ノーバ。お前のせいで他の奴らで実験する事になってしまったんだぜ」

「ゲヘヘッ、悪ぃ悪ぃ。でもバルド、たくさん贄で遊んでたろーーー」


 聞くだけで見もよだつような恐ろしい話だが、ソフィアは恐ろしさなど微塵も感じていない。

 体中の血が沸騰してじう程の激しい怒りのエネルギーが、全身を駆け巡っているから。


 それにより、ソフィアの目が怒りに釣り上がり、長く美しい髪がブワッと揺れる。


「貴方達を絶対に許さないっ!!」


 ソフィアの全身から、高貴な銀色のオーラがブワッ! と、立ち昇ってゆく。

 それを見て、恐怖が混じった苛立ちの顔を浮かべるカイザー達。

 瞬時に理解したからだ。

 ソフィアの中に目覚めた『封ずる者』としての力を。


「あーぁ。アレ、ちょっと厄介だね」

「えぇ、マズイわ」

「チッ、あの力は我らにとって脅威……!」

「ヴゥゥゥッ、けど美味そうだぁ。喰いてぇ〜〜〜」


 だが、カイザーは漆黒のオーラを滾らせ皆に号令をかける。

 このタイミングが重要な事を分かっているからだ。


「だからこそ今叩く! 奴が力を使いこなす前にな! 行くぞっ!!」


 その号令が響き渡ると同時に、カイザー達はソフィア目掛けてスザアッ! と襲いかかった。

 漆黒のオーラと殺気を纏い、凄まじいスピードと共に。


「消え失せろ! 封ずる者よ!!」

「アハッ♪ さっ、死んでください」

「チョーシこいてんじゃねぇぞ、こらあっ!」

「ウフフッ♪ 宿命(さだめ)に従い消えなさい」

「グフフフッ……お前、喰う!」


 狂気を宿した悪魔王達の瞳は、悍ましくギラギラした光を放っている。

 

「くっ……!」


 けれど、その攻撃は届かない。

 六代悪魔王の中でも最強を争うアーロスが、彼らの前に立ち憚ったからだ。

 アーロスが手をササッと動かすと、悪魔王達の前に銀河が広がってゆく。


「こ、これはまさか……!」


 銀河を見渡すカイザー達。

 そして、彼らの額からツーっと汗が流れると同時に、アーロスは両足を広げ両腕を上に伸ばした。

 その両手のひらに生み出されたエネルギーが、大きく光り輝いてゆく。


「俺の嫁に手は触れさせん! 『ダークギャラクシアン・エクリシス』!!」

 

 その咆哮を上げた瞬間、数多の銀河の煌めきがカイザー達を激しく包み込み、目が眩むような輝きと共に大爆発を起こした。


 グワーーーーーーーーーーーーーーン、ドンッ!!! ドドドドドッ!!!!!


「ぐわぁァァァ!!」

「うわあっ!!」

「キャアアアアッ!!」

「ぐはぁッ!!」

「ゲフウッ!!」


 上空に大きく吹き飛ばされ、グシャッ! と、地面に叩きつけられたカイザー達。

 何とか急所は外したものの、アーロスの一撃で大きなダメージを負い(うめ)き声を漏らしている。


 だがそんな中、カイザーはググッと立ち上がった。

 そして、額からツーっと血を流したまま、ハァッ……ハァッ……と息を切らし苦しそうにアーロスを睨む。


「くっ……バカな。お前の魔力はもはや無いハズ」


 そこまで零した時、カイザーはハッと目を見開いて見つめた。

 立ったまま、静かに絶大な力を滾らすアーロスを。


「まさか、アーロス。貴様……!」

「そうだカイザー。これが究極に出会った俺の力。命を力に変換する事のできる『アニムス・メタトロフィー』」


 アーロスの全身から漆黒と銀色が相まったオーラが立ち昇り、カイザー達の力を凌駕してゆく。


「ア、アーロス、だがそれは……」

「あぁ、俺の命はここで尽きる」

「愚かな……! そんな事をして何になる! 命を捨てての勝利など無に等しい!」


 カイザーがそう言い放った瞬間、ソフィアはアーロスの体を両手でガシッと掴み、涙を迸らせながら見上げた。


「ダメよアーロス! 悔しいけど、カイザーの言う通りよ! 死んだらダメッ!」


 ソフィアは涙を滲ませた悲壮な顔を浮かべ、アーロスを見つめている。


 確かにまだ出会ってから数刻しか経っていない。

 けれど、アーロスから強く感じるのだ。

 本気で自分を愛してくれている事を。


「アーロス! 貴方は悪魔王なのに、彼らを裏切ってまで私達を助けてくれたじゃない! だから私……貴方に死んでほしくないの!!」


 ソフィアの切なる叫びが響き渡り、アーロスの胸に突き刺さる。

 カイザー達の攻撃以上に……

 それを隠すかのように、アーロスは顔をスッと斜めに逸らした。

 

「ソフィア……我ら悪魔王の寿命は、どれぐらいあるか分かるか?」

「えっ?」

「我らの寿命は、お前達人間とは比較にならない。言わば無限に等しい。それに、能力もお前達の比ではない」


 アーロスはそこまで言うと、艶のある黒髪を揺らしながらソフィアの方にサッと顔を向き直した。

 

「だが、それ故に手に入らない。刹那の時の中で生きる充足も、誰かを助け想い合う気持ちも」

「アーロス……!」


 哀しく見上げるソフィアに、アーロスは続ける。


「だから我ら悪魔王達は、究極を求めている。それぞれ形は違うがな」

「究極の……?」

「あぁ、無限で絶大な能力を持つ故の孤独。その乾きを癒やすためだ。そして俺は見つけた。ソフィア、お前の事を」

「くっ……でも……でもっ!」


 アーロスを見上げ見つめるソフィアの澄んだ瞳から、綺麗な涙がポロポロと流れ落ちる。

 どんなクリスタルよりも美しく、そして、哀しく煌めく涙が。


「アーロス……いや……そんなのいやよ!」


 ソフィアが涙を浮かべ声を上げた瞬間、アーロスはソフィアの唇にスッと口付けをした。

 それにより、思わず声を漏らすソフィア。


「うっ……!」


 そんなソフィアに、アーロスは唇をそっと離し告げる。


「ソフィア、出会ってくれて礼を言う」


 そして、ソフィアが言葉を発するより早く全身から煌めく漆黒のオーラを大きく立ち昇らせ、パバッ! と幾何学模様の魔法陣を三つ作り出した。

 その魔法陣がエメラルドグリーンに輝きソフィアを包みこんでゆく。


 その光に照らされたソフィアを見つめながら、アーロスはニコッと微笑んだ。


「さらばだ、ソフィア! お前のお陰で究極の心を知れた」

「いや! アーロス!!」

「……ソフィア、国を造れ。お前のその、心で」


 アーロスはソフィアにそう告げると、両手を大きく広げ繰り出す。

 命を全て使い、最後の技を。


「お前は俺が永遠に守り抜く! 『エターナル・ディメンション』!!」

「アーーーローーーーーーーーーーーーース!!!」


 涙を迸らせながらアーロスに向かい片手を伸ばした瞬間、ソフィアの体は魔法陣の大いなる光に包まれ消え去った。

 切ない叫びと共に……

あまりにも切ない別れは、何処へ向かうのか……



次話から新展開。

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