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cys:139 最速の結婚

「これで終わりだっ!」


 悪魔の剣がソフィア目掛け振り下ろされた時、それを寸前でガキインッ!! という音と共に止めた者がいた。

 それはロキ? カイン? 他の仲間の誰か?

 いや、違う。

 それはなんと……


「き、貴様、気でも狂ったか?!」


 驚愕し、思わず後ろに飛び退いた悪魔を見据えたまま、その者は静かに口角を上げた。


「いや、カイザーよ。俺は至って正気だ」

「バ、バカな。ならば、ならばなぜ止める! 答えろ……六大悪魔王の一人『アーロス』よ!!」


 そう。止めたのはソフィアの味方ではなく、むしろ、打ち倒すべき六大悪魔王の一人だったのだ。

 なので、六大悪魔王の一人であるカイザーはもちろんの事、ソフィア自身もなぜだか全く分からず、謎めいた顔をしてアーロスを見つめている。


「なぜ私を? 貴方は私の敵のハズ……」


 そんなソフィアにアーロスは力強く微笑んだ。


「惚れたからさ」

「えっ?」


 あまりの事に、一瞬理解が追いつかなかったソフィア。

 倒すべき相手である上に、今まで一度も話した事も、いや、今の今まで会った事すら無い相手から言われたのだから無理もない。


 けれど、当のアーロスは表情を変えずソフィアを見つめている。


「フッ、我らに立ち向かう勇気と民を想う気持ち。そして、ダーククリスタルにも屈しないその精神(こころ)。惚れるなと言う方が無理だと思わないか」

「お、思わないかって、分かってるの? 私は貴方の敵で……」


 戸惑う顔を向けるソフィアだが、アーロスは変わらない。

 いや、むしろ見つめる眼差しの光はより強くなる。


「ソフィア、俺は『究極の心』を求めている。カイザー達がそれぞれ自分の野望を持っているようにな」

「究極の心?」

「そうだ。そもそも我ら悪魔王は……」


 アーロスがそこまで言いかけた時、カイザーはその言葉を断ち切った。


「アーロス! 貴様、本気なのか?」

「ああ、本気さカイザー。俺はソフィアを嫁にする。誰にも手出しはさせない」

「えっ? ええっ!?」


 突然過ぎる言葉に顔を赤く火照らせアーロスを見つめるソフィアと、それを見てギリッと歯を食いしばるカイザー。


「貴様……それがどういう意味か、分かっているのか」

「当然だろ」


 アーロスが何の躊躇いもなく答えると、他の悪魔王達も呆れと怒りを交えた顔を浮かべ見据えてきた。

 無論、誰もアーロスの気持を疑ってはいない。

 けれど、だからこそ苛立ちが募る。


 ただ、そんな中でも一番苛立ちを募らせているのはカイザーだ。

 悪魔王のリーダーとしても、アーロスの行動を許す訳にはいかない。


「ならばアーロス、お前をここで粛清せねばならぬ」

「まっ、だろうな。俺だって掟は重々理解してるし、何より俺自身驚いている」

「フンッ、戯言を。撤回はしないのか」

「撤回? そんなんカイザー、お前が一番よく知ってるだろ」

「……そうだな」


 カイザーはスッと瞳を据えると、片手に下げていた剣をゆっくりと構え、禍々しい漆黒のオーラを全身から再び溢れさせた。


「アーロス、お前を逆賊として討ち取る……!」

「フッ、それが筋なのは分かっている。けど、俺も究極を見つけてしまった以上、このままやられる訳にはいかない」

「貴様……そんな事が通ると思うのか。第一、お前一人で我らに勝てるとでも?」

「まあ、無理だろうな。だから……」


 アーロスはその瞬間、ダークエネルギー全身からゴオッ! と、沸き立たせると、両手をババッと動かし幾何学模様の描かれた異次元空間を創り出した。

 それを目の当たりにして、ギリッと顔をしかめるカイザー達。


「チッ、次元の迷宮『ジオメート・エディション』か」


 これはアーロスの得意技の一つ。

 自分と相手の間に無限の迷宮を作り出し、迷い込んだ者をそこに閉じ込めてしまう事が出来る為、踏み込んだ者は二度と出る事は出来ないという代物だ。


「アーロス、貴様本気なのだな……!」

「とーぜんだろ、カイザー。俺は嘘はつかない」


 アーロスはそう答える出すと同時に、ロキとカインにエネルギーを与え傷を治した。

 それにより目覚めるロキとカイン。


「うっ……」

「あっ……」


 瞳を開けたロキとカインにアーロスから事情を話すと、二人は驚いて互いの顔を見合わせた。

 少し意識を失ってる間に、全く予想していなかった事が起きていたから仕方ない。


「おいカイン、聞き間違いじゃないよな」

「あーー、耳掃除は昨日したばっかだけど、足んなかったかな」


 そう呟くと、二人はソフィアの方にバッと振り向き身を乗り出した。

 あまりの事に、戦闘中だというのを一瞬忘れてしまっている。


「ソフィア、本気か?!」

「おま、マジなのかよ?!」

「わ、私は……」


 顔を火照らせたままチラッとアーロスを見つめたソフィアに、アーロスはニコッと微笑んだ。

 その瞳は、六代悪魔王の一人とは思えぬ程に澄み切っている。


 それを受けたソフィアは、ロキとカインの方へ凛とした顔を振り向けた。


「本気よ」

「そうか……!」

「かぁ〜〜〜マジかよ」


 クールに受け止めたロキと、額に片手を乗せのけぞったカイン。

 二人共昔からソフィアに想いを寄せていたのでショックを受けてるが、その反応は対象的だ。

 そんな二人に向かい、力強く微笑むソフィア。


「私だってビックリしてる。けど、今はそれが最善だと思うし、何より……この人本気だから」

「まあ、そうだな」

「確かにそーみてぇだけど、いや、いきなり過ぎだろ」

「フフッ♪ カイン、人生はいつも突然よ」


 ソフィアはそう言って微笑むと、アーロスの前にスッと立ち凛とした瞳で見上げた。


「アーロス、貴方の嫁になってあげる。その代わり、必ず皆を無事に逃がしなさい」

「フッ、いきなり俺を尻に敷こうとするとは、大した女だ」

「私は六代悪魔王の嫁よ。文句あるの?」

「クックック……あるわけ無いだろう。さすが我が嫁、上出来だ」


 アーロスは満足気に目を細めて笑うと、ソフィア達にサッと背を向け顔を振り向かせた。


「だが、そろそろ行くぞ。この迷宮も長くはもたぬ」

「えっ?」

「我の作る迷宮は、一度足を踏み入れたら二度と出られぬ、次元の狭間に作りし無限回廊。しかし……」


 アーロスがそこまで告げた時、その迷宮にピシピシピシッ……と、いう音と共に亀裂が走り始めてゆく。


「無尽蔵の魔力を持つ悪魔王達相手にとっては、その限りではない。行くぞっ!」


 そう告げ走り出したアーロスと共に、その場から駆け出したソフィア達。

 そんな中、ソフィアの額のダーククリスタルを、切なくチラッと見たアーロス。


───フッ、仕方ないさ。究極に出会ってしまったからな……


 心でそう呟いた刹那、アーロスの瞳が切ない光で揺らめく。

 それはまるで、アーロスとソフィアの奇妙で切ない逃避行が始まりの合図を告げているようだった。

この逃避行の果てに待つ結末は……

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