cys:138 呪われたソフィア
「ロキ! カイン!」
ソフィアの声を背に受けた二人は、その瞳に怒りと決意を宿し悪魔を見据えた。
「ソフィアに手出しはさせない!」
「とーぜんだ!」
二人の闘気が燃え上がる。
だが悪魔は、そんな二人を嘲笑うかのように見下ろしたままスー―ッと宙に浮くと、そのまま両手を天に掲げた。
そして、その中に巨大なダークエネルギーの塊を作り出し、バチバチッ! と音を立てながら膨れ上がらせてゆく。
「なるほど。その闘気、少しはやるようだがこの技の前では無に等しい」
「なんだと!」
「舐めるな!」
「フンッ、力の差も分からぬ愚か者が……! 喰らうがいい。『ダーク・ヴィメラ』!!」
悪魔の振り下ろした両手から、ゴゴゴゴゴゴゴッ! と、いう轟音と共に王の間を激しく揺らしながら巨大なエネルギー弾が三人に向かってくる。
それを迎え撃つロキとカイン。
「精霊よ、我に力を! 『神狼滅鬼』!!」
「精霊と共に全てを貫け! 『流星光牙』!!」
二人の剣から放たれた白く気高い閃光が、邪神の漆黒のエネルギー弾とドガッ!! と、ぶつかり中間で眩く燻る。
それにより起こる凄まじいエネルギー波が周囲を震わせる中、ロキとカインはソフィアに背を向けたまま叫ぶ。
「ソフィア! 今の内にみんなを連れて逃げるんだ!」
「ロキっ!」
「その通りだ。ここは俺らが食い止めるからよ!」
「カイン!」
だが、その勇ましさも虚しく悪魔の放ったエネルギー弾は二人の放つ閃光をどんどん押し返していく。
「くっ、このままでは……!」
「やべぇな、もたねぇぞ……クソったれ!」
二人はそれでも必死に堪えていたが、悪魔の力には抗いきれず打ち負けてしまった。
そのエネルギー波を受け吹き飛ばされるロキ達。
「うわぁぁぁぁっ!」
「うおぉぉぉぉっ!」
「きゃぁぁぁぁっ!」
悲鳴を上げて吹き飛ばされた三人を見て、悪魔はニヤリと嗤うとスッと床に下り、ツカツカと音を立て近寄ってゆく。
跪いたまま、苦しみに顔を歪めているソフィアの下へ。
そして、片手でソフィアの首をガシッと掴み上にグイッと持ち上げ吊るすと、もう片方の手の中にダークエネルギーを作り出した。
「女、貴様をここで殺しても構わんが、貴様のその力を我の野望を叶える為に使ってやる」
「な、なんですって……!」
「王と同じく、我が眷属にしてくれる」
「や、やめなさい!」
「貴様のその力と想い、これからは我らの野望の為に存分に振るうがいい」
「あっ……うっ……!」
苦しみもがくソフィアの額に邪神は手を翳し創り出す。
ダーククリスタルを。
「眠れ、女よ」
ソフィアにの額にダーククリスタルが埋め込まれた。
「あーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」
悲痛な叫びと共にソフィアの淡いピンク色の闘気がスッと消えた瞬間、邪神はニッと嗤い首から手を離した。
そして、ズシャッと両膝をついてうつむいたままのソフィアに命ずる。
「女、いや、暗黒の戦士ソフィアよ、そこに横たわっている二人の男と仲間達を殺せ」
すると、ソフィアは顔をうつむけたままスッと立ち上がり、剣をギュッと握りしめた。
それを見てニヤリと嗤う悪魔。
「そうだ。その剣でトドメと刺すのだ」
「……い」
「ん? どうした、早くしろ」
「……ない」
「き、貴様、まさか……!」
只ならぬ気配を感じザッと後ろに飛び退き驚愕の瞳で見つめている邪神に、ソフィアはバッと顔を上げ言い放つ。
「私は屈しない! この身が朽ちても、精神は邪悪になんて染まらないわ!!」
「バカな!! ダーククリスタルの支配が及ばないだと」
「言ったハズよ。私はこの国の皆と、この星を守るんだって!」
「そうか……貴様は危険過ぎだ。今ここで、確実に殺す」
「くっ! そうはさせないわ! 『桜神れっ……』」
ソフィアが必殺剣を放とうとした時、全身に凄まじい激痛が駆け抜けた。
「あぁぁぁぁぁぁっ!!」
そのあまりの激痛に叫び声を上げたソフィアの手から剣が抜け、カシャンッと下に落ちた。
それを見て一瞬目を丸くした悪魔は、理由をすぐに悟るとニヤリを口元を歪め嗤う。
「クククッ……そういう事か。貴様がいくら精神を保とうと、体には間違いなくダーククリスタルからのエネルギーが巡っている。貴様が精霊の力を使おうとすれば、相反したエネルギーが全身に激痛となって駆け巡るのだ」
「そ、それじゃ、まさか……」
「そうだ。もうお前は二度とその力は使う事は出来ぬ。使えるのはダークエネルギーのみ。無論、使えば完全に我が眷属になる」
「そ……そんな……う、ううっ……」
体の激痛よりも、その事実に心に激痛が走り涙するソフィアと、それを見て狂気に満ちた悦びを浮かべる悪魔。
「愉快だ。あーーーー実に愉快愉快。クククッ……ハハハハ……ハーッハッハッハッ!!」
「うぅっ……!」
ソフィアが悔し涙を床にポタポタと零す中、悪魔はニヤリを嗤い片手を天に掲げると、そこから大きな剣を創り出した。
「もはや、光も使えず闇の戦士にも成れぬ哀れな女よ。ここまでの戦いに免じ、せめてもの情け。この剣で私自らがトドメを刺してやる。さらばだっ! ソフィアよ!」
鋭く光る邪神の剣が襲い掛かる中、ソフィアはギュッと目を閉じて別れを告げる。
───ごめんなさい。ロキ、カイン、そしてみんな……!
圧倒的な悪魔の力とダーククリスタルの呪い……!