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cys:137 堕ちた王と戦う女神

「アネーシャ、ちょっといいかな」


 ノーティスは突然アネーシャに問いかけた。

 女神の記憶が再生される中、ノーティスはどうしても気になってしまった事があるから。


「あれから少し調べたんだ。奴らの事を」

「えっ?」


 少し驚いた顔を浮かべたアネーシャに、ノーティスは話を続けていく。


「奴ら、スマート・ミレニアムのミレニアムの歴史によれば、この魔力クリスタルを作ったのは五英傑だと言われてる」

「ええ……そうね」

「ただ、この記憶によれば六人の英雄と言っていたし、最初現れた悪魔も六人だった……」


 なぜだという顔をしながら思考を巡らせていくノーティスを、アネーシャはジッと見つめている。


「もし悪魔の奴らが英雄を騙ったとしても、一人多い、いや、足りないと考えるべきなのか……」


 ノーティスがそう零した時、アネーシャは嬉しそうに微笑んだ。


「さすがね。でも、見ていけば分かるわ。私達のトゥーラ・レヴォルトを建国した、二人の勇者の事が……!」

「二人の勇者?」


 そこから、この記憶の最も肝要な部分を見終わった時、ノーティスはギュッと瞳を閉じた。


「まさかこんな事が……」


 ノーティスが見た女神の記憶が、あまりに切ない物語だったから。


◆◆◆

 

 それは、皆が悪魔の呪いを信じ込まされ、魔力クリスタルを額に埋め込み始めていた頃。


 それまで共に暮らしてきた精霊達の姿が見えなった人々は、魔力を使えるようになった代わりに、体に不調をきたす者も現れていた。


 慢性的な疾患が増えたのはもちろん、味覚障害や鬱病の増加。

 さらには、謎の急死を遂げる者も増加する始末。


『また亡くなったか。最近多いな……』


 また何より、魔力回路の暴走により『フェクター』というモンスターへの変異。


 けれど、それは魔力がまだ低いせいだとか悪魔の呪いが強いせい。

 もしくは、国の定期検査を受けていなかったからだと言われ、国はまともに取り合わなかった。


『魔力クリスタルのせい? いやいや、因果関係は認められませんでした。妙な事を仰らないでください』


 そうしてる間に、人々の短命化は進んだ。

 それに加え、クリスタルタワーの建築により、生態系も変わってしまっているにも関わらずだ。


『クリスタルタワーが生態系を壊す? ハハッ、何を言うかと思えば愚かな事を。この新エネルギーこそ、我々の未来に繋がる物なんです!』


 また、かつてのノーティスのように、劣ったクリスタルの輝きであれば、差別し迫害されるという問題も出てくる有様。


 こんな事、普通に考えればおかしい。

 悪魔の呪いではなく、魔力クリスタルにより世界がおかしくなっていると思うハズだ。


 でも、そうはならなかった。

 悪魔に操られた王やその周辺の王族や有力者達が作り上げたからだ。


『魔力クリスタルを埋め込む事こそが、悪魔の呪いからの救いに繋がる』


 と、いう大きなプロパガンダを。

 

 また、魔力の利用によりそれまでとは違う大きな超魔力文明が作られていった為、人々の生活は豊かになっていったのも大きい。

 無論それは、精霊達と暮らしてきた時代から見れば堕落でしかないのだが。


 ただ、先に伝えたように、全ての国民達がそれを良しとした訳ではなく、ごく少数だがこの体制に立ち向かう者達もいたのだ。


 彼らは魔力クリスタルの影響でおかしくなった人達や生態系のデータを集め、国へ直訴した。


『魔力クリスタルの利用は直ちに取りやめてほしい! 精霊達はおかしくなっていない。むしろ、魔力クリスタルが認識を歪めている!』


 だが、王族達は彼らの要求を完全に無視した。

 それはなぜか?


 もう、その頃は完全に悪魔達の支配下だったからだ。

 この悪魔達の恐ろしい所は、ただ恐怖で押さえつけるだけではない。

 

 王達を完全に懐柔していたのだ。

 魔力クリスタルから得られる力によって。


「クククッ……王達よ、気分はどうだ」

「はい……最高です。下民共の魔力クリスタルから放たれる負の感情エネルギーの受信が、このような素晴らしい気分にさせてくれるとは」

「だろう。それこそがダーククリスタルの力。人の怒りや苦しみが強ければ尚の事だ。素晴らしいだろう!」

「はいっ!」


 王が狂気に操られた笑みを浮かべると、リーダー格の悪魔はニヤリと口元を歪めた。


───愚かな者共よ。そのエネルギーさえ、我らの物になってるとも気付かずに。クククッ……!


「ならば王よ。これからより争いを起こせ。紛争、侵略、虐殺、また、民達同士で争いを起こさせ魔力クリスタルを暴走させよ」

「ははっ! 仰せのままに……!」


 そこで目を付けたのが、魔力クリスタルの埋め込みに反対する勢力達だ。

 王はおふれを出した。


『魔力クリスタルを拒否する者達は、悪魔に操られた者達だ!』


 これにより、狂気に彩られた地獄とも呼べる時代が幕を開ける事になる。


 魔力クリスタルの埋め込みを拒否する人達は、どんなに優しくて賢くても悪魔に操られた異端者だとみなされ、投獄の上拷問にかけれらた。

 それでも思想を変えなければ、皆の前で公開処刑。


 勘のいい人なら分かる通り、投獄した後強制的に魔力クリスタルを埋め込まなかったのは、この公開処刑をする為だ。

 双方への見せしめとして。


 公開処刑が行われるたび、狂気の悦びに沸き立つ大多数の民衆達と怒りに燃える少数の反対派達。

 そんな狂った日々が続く中、遂にレジスタンスを作って立ち上がった者がいた。


 『メデュム・ソフィア』という若き女戦士だ。 


 元々学者であり戦士だった彼女は、魔力クリスタルを用いたこの騒動が起こった時からこの事に疑問を感じ国に直訴していたが、罪も無きとある少女が処刑されたのを見て立ち上がった。

 そして、王宮に乗り込み囚われた彼らを解放すると、数名の仲間達共に王の間に乗り込んだのだ。


「王よ、魔力クリスタルによる圧政を今すぐやめなさい!」


 ソフィアは片手でビシッと剣を向けた。

 決して許せない想いと共に。

 しかし、王は全く動じず玉座に腰かけたまま、妖しく禍々しいオーラを立ち昇らせてゆく。


「圧政? 何の事だ。ワシはただ、悪魔の呪いから民を救おうとしているだけじゃ」

「救うですって? 私達から精霊を見えなくさせ、何の罪も無い人の命を奪う事のどこが救いなの!」

「フゥ……感染防止と新時代に進む為には、仕方なき事。それが分からぬのであれば……」


 王がそこまで言った時、ソフィアは怒りを爆発させた。


「ふざけるのもいい加減にして! 悪魔の呪いなんて元からありはしないわ! それに、そんな新時代は決して来させちゃいけないの!」

「……お主は、ここで確実に消さんといけんようじゃの」


 悪魔に支配された瞳がギラっと光る。


「くっ……! あの瞳は……そうだったのね」


 全てを悟った聡明なソフィアは王に悲痛な顔を向け、心からの想いをぶつけていく。


「目を醒まして! お願い!」 

「……目を醒ますのはお主じゃ」

「違う! 私は貴方を倒したくない!」

「くどい。そうじゃ、お主もワシらと同じように授かったらよいのじゃ。この、ダーククリスタルを」


 王はそう言ってニヤリと嗤うとソフィアに片手を向けると、闇のエネルギーをバチバチバチッ!! と放出させた。

 だがソフィアはそれをサッと躱し、剣を振り上げ王に向かい飛び掛かかる。


───狙いは、あのダーククリスタル一点のみ!


「覚悟っ!!」


 ソフィアの鋭い剣が、王のダーククリスタル目掛け振り下ろされた。

 だが……


 ガキインッ!!


 と、いう金属音と共にその剣は防がれてしまい、ソフィアは後ろに飛び退いた。

 それと同時に伝わってくる。

 王の放つオーラよりも遥かに禍々しい漆黒のオーラと、この場を支配する悪魔の声が。


「フッ、王よ。お前に死んでもらってはまだ困るのだ」


 リーダー格の悪魔がそう告げると、その後ろから他の五人の悪魔達も姿を現し、妖しく煌めく瞳でソフィアを見据えてきた。 

 そして、彼らからソフィアに伝わってくる。

 この世を超越した絶対的な力と、世をカオスに陥れようとする意思が。


「くっ、なんて禍々しい力なの……!」


 けれど、ソフィアはそれを振り払うかのように彼らをキッ! と、睨みつけた。

 ここで退く訳にはいかないから。


「貴方達ね……この国をこんなにしたのは!」

「フッ、だとしたらどうする」

「決まってるわ。貴方達を倒し、この国を奪還するわ!」

「クククッ……出来るのか。ただの人間風情に」


 片手の中にダークエネルギーをバチバチと溜めながら嘲る顔で見下ろす悪魔を、ソフィアは一歩も引かず凛とした瞳に決意を宿し見据える。


「この国の……この星の未来は私が守り抜く!」

「ほざけ。大いなる力の前では、お前の力など皆無に等しい」

「それでも……それでも守り抜くわ! 覚悟っ!!」


 剣を大きく振りかぶり飛び掛かったソフィア。

 その剣を悪魔はスッと躱したが、その威力により王の間にズシャァァ! と、大きな亀裂が走った。


「フッ、なかなかの威力だ。だが……」


 悪魔の片手に急速に集まったダークエネルギーが、ソフィアに向かい放たれる。


「その想いと共に散るがいい。『ダークネス・ドラウジネス』!!」


 威力もスピードも先程の王の比ではないそれが襲い掛かる中、それを必殺剣で迎え撃つソフィア。

 全身から淡いピンク色のオーラが立ち昇り、それが剣に込められてゆく。


「私は負けない! 『桜神烈華』!!」


 桜が舞い散るように無軌道な斬撃が邪神のダークネス・ドラウジネスをかき消した。

 が、その次の瞬間、もう一つのダークネス・ドラウジネスがソフィアに襲い掛かる。


「そんなっ!」


 悪魔はもう片方の手で、同じ技を作り出したのだ。

 無尽蔵の魔力を持つ悪魔だからこそ出来る技だ。

 それが直撃し、ソフィアは大きく吹き飛ばされた。


「キャァァァァァッ!」


 そのまま王の間の壁にドシャッ! とぶつかりズズズッ……! と、下に落ちたソフィアは、苦しみの表情を浮かべながら悪魔の事を見上げる。


「くっ……なんて強さなの。このままじゃ、やられる」


 そのソフィアに、禍々しい漆黒のオーラを全身から放ちながらゆっくりと近づく悪魔の前に、ザッと二人の戦士が立ち憚った。

 ソフィアの仲間である、ロキとカインだ。

 二人は剣を構え白い闘気を沸き立たせ剣を構えた。


「ソフィア、ここは俺達に任せろ」

「そうだ。お前はここで散ってはいけない」

「ロキ! カイン!」

二人はソフィアを守れるのか……!

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