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cys:135 クリスタルが照らす女神の記憶

「アネーシャ……?」


 ノーティスはスッと立ち上がり見つめた。

 自分の事を、哀しさと優しさの交叉した瞳で見つめているアネーシャを。

 そんなノーティスを見つめたまま、アネーシャは体に一瞬グッと力を込めた。


「ノーティス、お別れよ」

「えっ? な、なんで急にそんな事を」


 突然の事に驚き、目を丸くしたノーティス。

 瞳の色が一気に悲しみに染まる。

 なぜ急に別れを告げられたのか、全く分からない。


 また、エレミアは宙に浮きながらそれを哀しく見つめている。


───アネーシャ、お主……


 けれど、アネーシャの表情は変わらない。


「貴方は、ここにいちゃいけないの」

「どうしてだよアネーシャ!」


 ノーティスが悲壮な顔で見つめる中、アネーシャは無言でスッと背を向けた。


「アネーシャ?」

「着いてきて。全て伝えるから……」


 アネーシャはそのまま女神像の前に行くと、女神像を両手でクルッと横に回した。

 すると床が、ゴゴゴゴゴッ……という音と共に開き、隠し部屋が現れた。


「これは……!」


 目を丸くして立ちすくんでいるノーティスを置いて、アネーシャは何も言わずに部屋に入っていく。

 その背を追いかけ、部屋に入るノーティス。


「アネーシャ、ちょっと待てって」


 そう零し部屋に入ったノーティスの瞳に映ったのは、石造りの殺風景な部屋の中にある、白く大きなクリスタルだった。


「なっ……!」


 身の丈を超える程大きく、滑らかな楕円形のクリスタルが、先端がギザギザのクリスタルに支えられ艶めいている。


「こ、この巨大なクリスタルは一体?!」

「……皮肉な物よね」

「えっ?」

「私達を蹂躙してきた記録が、クリスタルに記録されてるなんて」

「蹂躙?」


 ノーティスがそう声を漏らした時、アネーシャはクリスタルに向かいスッと片手を翳し、エレミアに切ない眼差しを向けた。

 アネーシャの瞳が、ステンドグラスから差し込む月の光に照らされ揺れる。


「エレミア、お願い」

「アネーシャ、本当に良いのか。こ奴にアレを見せても」


 真剣な表情で尋いてきたハルメスに、アネーシャは一瞬間を置き再び決意した。


「かまわないわ」

「……分かった」


 エレミアは一瞬瞳を閉じてからそう答えると、アネーシャの周りをクルクルと軽快に飛び回り始めた。

 それと共に体からキラキラと零れ落ちる光が、アネーシャを包んでいく。

 まるで、星屑に包まれているようだ。


「綺麗だな……」


 ノーティスがそう零す中、アネーシャは、その光を手の平からクリスタルに放っていく。


「女神レティシアよ。世界の記録を映し給え」


 その詠唱と共に、クリスタルがブワン……ブワン……と光を放ち始めた。


「こ、これは……」

「ノーティス、全て見せてあげるわ。真実の歴史を」


 アネーシャが静かにそう告げた時、クリスタルからブワッ!! と大きな光が広がる。


「うわっ!」


 ノーティスは片腕で顔の上半分を覆ったが、次の瞬間あまりの事に一瞬声を失った。

 今まで殺風景な部屋にいたハズなのに、アネーシャやエレミアと共に、穏やかな日差しが照らす緑豊かな場所に立ってるからだ。


「あっ……こ、ここは……」


 呆然とした顔を浮かべているノーティスに、アネーシャは静かに告げる。


「記憶の中よ」

「記憶の?」

「そう。女神レティシアの力を通じ、私達の国トゥーラ・レヴォルトが辿ってきた『女神の記憶』の中」

「女神の記憶……」


 そう零し周りをキョロキョロ見渡すと、皆幸せそうな笑顔で暮らしてる光景が目に映る。

 決して派手とかではいが、皆も満ち足りた顔だ。


 そんな彼らに話しかけようとするノーティスに、アネーシャは軽く首を横に振った。


「ここは記憶の中だから、彼らに触れたり話す事は出来ないわ。ただ、見ることが出来るだけ……」

「そうか……でもアネーシャ、この女神の記憶って一体何なんだ?」


 ノーティスは、事態がまだよく分からない。

 まあ、でも当然だ。

 

 急に別れを告げられたと思ったら、巨大なクリスタルが現れそこから知らない場所への転移。

 しかもそこは女神の記憶の中と、目まぐるしいにも程がある。


 なのでアネーシャは、ゆっくりと話をしていく。


「ここは、かつて平和だった頃の記憶よ。みんな、神聖樹ユグドラシルから放たれる神聖な魔力によって、幸せに暮らしていたの」

「ユグドラシル? 神聖樹? 一体どこにそんな物が……」


 ノーティスが辺りをキョロキョロ見渡すと、アネーシャはクスッと微笑んだ。


「大きすぎて見えないのかしら。ほら、そこにあるじゃない」

「そこ? ん……」


 まさかと思って後ろを向いた時、ノーティスはハッと目を丸くして見上げた。

 でも、すぐには認識が出来ない。

 ゆっくり見ていくと、ようやくそれが何なのかが分かる。


 天を覆うような枝葉と、天を超えるような高く太い幹。

 それが山より遥かにきくそびえ立つ、超巨大な神聖樹ユグドラシルだと!


「こ、こ、これが……!」

「そうよノーティス。これがユグドラシル。全ての者に力を与え……そして、魔力クリスタルの悲劇に利用された神聖樹よ」


 そう告げたアネーシャの瞳が、怒りと哀しさの光に揺らめいた。

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