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cys:134 葬列とアネーシャの祈り

「ううっ、ノーティス……」


 スマート・ミレニアムに戻る中、メティアはうつむき涙を流しながら皆と歩いていた。


 もちろん、他の皆も誰一人口を開かない。

 悔しさと苦しさに覆われた顔を軽くうつむかせ、無言のまま歩いている。

 まるで、葬列のような雰囲気で。


 そんな中で、ようやく口を開いたのはレイだ。

 前を向いて歩きながら静かに告げる。


「メティア、いつまで泣いてるのよ」

「だって……だってレイ……」


 メティアは涙をポロポロ零しながら見上げたが、レイは真っ直ぐ前を向いたまま振り向かない。


「泣いたら戻って来るの? あの人が……!」

「レイ……ううっ……」


 涙が止まらぬメティアの側で、レイはキツい表情のままだ。

 当然だがレイも辛いから。

 メティアとは異なる想いではあるが、だからこそ尚の事辛い。

 けれど、今一滴でも涙を零せば、そこから止まらなくなるのを分かっている。


───だから、私は泣かない。絶対に……!


 そんな二人を哀しそうに見つめたジークは、悔しさに一瞬ギュッと目を閉じた。

 ガサツな雰囲気に隠されているジークの優しい心に、二人の気持ちが痛いほど伝わってくるから。


───くそったれが…


 そして、ジークはその場にピタッと足を止めると、ロウの方にバッと顔を振り向けた。


「ロウっ!」


 その声に皆足を止め振り返った中、ジークは溜まった想いをぶつけゆく。


「お前さんは俺達の軍師だ。だから、あの場でした事に文句を言うつもりはねぇ。けどよ、なんでああしたのか教えてくれねぇか! 俺だって、本当はアイツを連れて帰りたかったからよ……!」


 切なる叫びを受けたロウは、しばし無言のままジークを見つめている。

 ここでの一言が今後ジークを含め、皆の気持を大きく左右する事が分かっているから。

 なので、一瞬で思考を巡らせた後ゆっくりと口を開く。


「取り戻す為だ。彼を……僕らの勇者エデン・ノーティスを」

「ロウ……だったらなんで、いや、これからどうやってアイツを取り戻すんだ。この機会に、大軍連れて奴さんらの所に攻め込むのか?」


 するとロウは、一瞬スッと瞳を閉じてからジークを見つめた。

 その瞳に迷いはない。


「まずは教皇様へ報告する。ありのままを。そこからどう動くかを必ず伝える。無論、その意味も……!」

「ロウ、お前さん……」


 ジーク達が少し不思議そうな顔で見つめる中、皆の間を冷たい風がビュッと吹き抜けた。

 まるで、今後の嵐の前触れかのように……


◆◆◆


 それからしばらくが過ぎた頃、ノーティスはアネーシャを探していた。


「アネーシャーーどこだーー?!」


 あの大惨事の後、犠牲になってしまった人達の弔いが行われたのだが、それまで一緒にいたアネーシャの姿が見当たらないのだ。

 もう日も落ち、澄み切った空には星が煌めいている。


───まさかアネーシャ……!


 不安な気持ちを募らせながら色々な所を探し周っていると、斜め上から白く光る精霊がスッと近寄って来た。


「エレミア!」

「ノーティス、大変じゃったの……」


 いつも陽気で明るいエレミアだが、今は悲しく悲壮な表情を浮かべている。

 光る体がそれと逆なのが、対照的で切ない。

 そんなエレミアを、ノーティスは辛そうな顔で見上げた。


「エレミア、さっきからアネーシャが見当たらないんだ!」

「アネーシャが?」

「あぁ、そうなんだよ。どこにいるのか知らないか? なんか、嫌な予感がするんだ」

「うむ……」


 エレミアは少し目を閉じて考えると、スッと目を開けスー―ッと動き出した。

 エレミアの動いた後ろに、一瞬光の帯が出来ていく。


「こっちじゃ。恐らくな」


 そんなエレミアの後を追って歩いていくと、辿り着いたのは大きな教会だった。


「ここは……!」


 ノーティスは、その教会から立ち昇る厳かな雰囲気に立ち尽くしていたが、ふと横に目をやると、木製の看板に白い文字で書かれている言葉が目に入った。


『絶望した時、アナタは最も真実に近い場所にいる』


 それを見て、この教会の中にアネーシャがいる事を直感したノーティス。


「行こう、エレミア」

「うむっ」


 教会の扉をスッと押して入ると、奥の方に膝をついたまま祈りを捧げているアネーシャの姿が。

 ステンドグラスの窓から差し込む光が、アネーシャを照らしている。

 まるで聖女のように。


「アネーシャ……」


 静かに零したノーティスは、ゆっくり近寄っていく。

 いきなり駆け寄ったりしなかったのは、祈りを捧げるアネーシャの姿が包まれていたからだ。

 この祈りを邪魔してはいけないと感じさせる、神聖なオーラに。

 無論、エレミアも同じ気持ちを感じている。


───精霊以上に神聖じゃな……


 そんな風に感じながら見つめる中、アネーシャは瞳を閉じまま哀しくうつむき、両手を組んだまま祈りを続けている。


「女神レティシア……なぜ、なぜライトをあんな目に……なぜ、私じゃなかったのですか……私は、愛する人をまた失いました……憎しみはいけないのは分かってます……けど、私はもう……」


 アネーシャの全身から、神々しいオーラと共に哀しみが溢れ出ている。


 それはもう、当然だった。

 アネーシャはこれまで、愛と正義の為に自分を犠牲にしてずっと戦ってきた。

 どんなに大変でも、決して泣き言を言わずに。


 なのに、これまでそれが決して報われる事はなく、むしろ悲劇となって返ってくる。


 もちろん、ノーティスはそれを知らないが、祈りを捧げるアネーシャの姿からヒシヒシと伝わってきた。

 これまで、アネーシャがどう生きてきたのかが。


───アネーシャ、キミは……


 ノーティスはアネーシャの下へそっと近寄り切ない瞳で見下ろすと、隣にスッと跪き同じ方向を向いて祈りを捧げ始めた。

 自然とそうしなければいけないと思ったのだ。


 それに気づき、アネーシャはハッ! と、した顔を振り向けた。


「ノーティス! それにエレミア、貴方まで」


 ビックリして思わず立ち上がり、二人の事を見つめているアネーシャ。

 だが、ノーティスはそのまま祈りを続ける。


「アネーシャ、俺もキミと一緒に祈る」

「ノーティス……!」


 アネーシャの瞳に思わず涙がジワッと浮かんだ。

 さっきノーティスが感じたように、アネーシャもノーティスのその姿から感じたから。

 ノーティスの愛と魂を。


 そんな二人を、エレミアは無言のまま見つめている。


 もちろん、アネーシャにとってノーティスは本来敵だ。

 いや、敵以上の仇。

 愛するシドの命を奪った憎むべき仇。

 けれど、記憶を失ったノーティスと一緒に過ごす中でイヤでも分かってしまっていた。


───ノーティス、本当の貴方は優し過ぎる……私は……


 アネーシャは一瞬瞳を閉じ想いを心でギュっと抱きしめると、ノーティスを見つめゆっくり口を開く。


「ノーティス、話があるの」


 その声に跪いたまま振り向いた時、ノーティスの瞳に映ったアネーシャの姿は、まるで天使が懺悔するような哀しい神々しさに満ちていた……

アネーシャはノーティスに何を想うのか……

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