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cys:132 ライトの涙とアネーシャの慟哭

「ライト……お願い、無事でいて……!」


 アネーシャは、息を切らしながら必死で走っていた。

 人々の悲鳴と燃え盛る炎が交差する中を。

 もちろん、全ての人を助けたい気持ちもあったが、今はライトの事が何よりも一番だった。

 ずっと我が子のように育ててきたライトの事が……!


 ハァッ……! ハァッ……! ハァッ……!


 全速力で駆けていたアネーシャだが、突然ピタッと足を止めた。

 いや、止まってしまったのだ。

 アネーシャの時が。

 瞳に映ったあまりにも残酷な絶望の光景に。


 ポタッ……ポタッ……と血が滴り落ちている。

 剣先から。

 誰の?


 黒い鎧を着た男が持つ剣先から。


 幼い子供を突き刺したまま、狂気に満ちた笑みを浮かべている、クリザリッドの剣先から……!


「ライトーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」


 アネーシャは、背後に燃え盛る炎をかき消すかのような叫び声を上げた。

 その声に反応したライトは、息も絶え絶えに声を漏らす。


「アネーシャ……姉ちゃ……ん……」

「ライト!!!」


 アネーシャが悲壮な顔で叫び声を上げた時、クリザリッドはニヤリと嗤い、ライトを刺している剣をアネーシャ目掛けてブンッ! と、振った。

 ライトの体が剣からズルッと抜け、アネーシャにドシャッ! とぶつかる。


 アネーシャはそんなライトを抱きしめしゃがんだまま、悲しみの涙を迸らせた。

 ライトの体から溢れ出る血に、体を赤く染めながら。


「ライト! ライト! しっかりして!! お願い!!」


 必死で呼びかけるアネーシャに、ライトは口からゴフッ! と、血を吐きながら虚ろな瞳で片手を伸ばす。

 まだ穢れを知らぬ幼き手を。


「アネーシャ姉ちゃん……ごめん……俺……」

「いいから! もう喋らないで!」

「マ、マーヤを……ま……もりたくて……」

「ライト! マーヤは無事よ! ノーティスと一緒にいるわ!」


 アネーシャにそう告げられたライトは、一瞬微笑んだ。


「よかっ……た。でも、なんで……ぼくたち、殺される……の? アネーシャ……姉ちゃんたちと……もっ……と、いっ……しょ……に…………」


 ライトはその瞬間、ガタッと手を下ろし瞳を閉じた。

 二度と開く事の無い綺麗な瞳から、キラキラとした涙を流したまま……


「あーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!」


 まるで、天を貫くような叫び声を上げたアネーシャ。

 アネーシャの心が張り裂け、心から鮮血が吹き上がる。

 我が子のように大切なライトを失った、形容し難い絶望と共に。


 だが、クリザリッドはそんなアネーシャを見下ろしながら、まるで意に介さぬ顔でニヤリと嗤った。

 ライトを殺した事など、虫を殺したぐらいにしか感じていない顔だ。


「フンッ。やはり、エデン・ノーティスは生きていたか。奴は、どこにいる?」

 

 その瞬間、アネーシャは怒りに沸き立つ激情と共に剣を振りかぶり、クリザリッドに飛びかかった。

 怒りの刃がクリザリッドを襲う。


 しかし、クリザリッドはその剣をスッと躱すと、アネーシャの横腹をドガッ!! と蹴り飛ばした。

 クリザリッドの強烈な蹴りが、アネーシャの腹に突き刺さる。


「ガハッ!!」


 口から鮮血が吐き出したアネーシャ。

 クリザリッドの凄まじい蹴りで、内蔵に大きなダメージを受けたのだ。


 けれど、怒りが肉体の痛みを凌駕しているアネーシャは、構う事なくすぐさま飛びかかり、煮えたぎる怒りと共に剣を振り降ろした。

 だが、その剣は虚しく空を切ってゆく。

 何度も振ってもだ。


 それをせせら笑うクリザリッド。


「クククッ……メデュム・アネーシャよ。そんな乱れきった心で、俺に斬撃が届くわけないだろう」

「あああっ!!!」


 尚も咆哮を上げて剣を振り降ろした時、クリザリッドはそれをサッと躱しアネーシャの首をガシッ! と片手で掴み吊し上げた。

 アネーシャを見据える瞳が冷たく光る。


「愚かな女め……」


 首がギシギシと締め付けられてゆき、苦しく身悶えるアネーシャ。

 締め付けられる手を振りほどこうとするが、クリザリッドの力は圧倒的で成すすべが無い。


「ぐっ……うっ……うっ……」

「もう一度だけ尋いてやる。エデン・ノーティスはどこにいる?」

「だ、誰が貴方なんかに……!」

「……そうか。ならば死ぬがいい。封ずる者、メデュム・アネーシャよ!」


 クリザリッドはそう告げると、もう片方の手で剣先をアネーシャに突きつけた。


 が、その瞬間、クリザリッドはアネーシャをバッと放り捨て剣を咄嗟に横に構えた。

 その直後にガキィィィン! という音が鳴り響く。

 それと同時に、クリザリッドはニヤリと笑った。

 激しい怒りの眼差しを向けてくるノーティスに向かって。


「クククッ……」

「アネーシャに手を出す奴は許さない!!」

「フンッ、わざわざ出てくるとはな。探したぞ。『祓う者』エデン・ノーティス」

「祓う者だと? 貴様、何を言っている」

「クククッ……知らぬなら教えてやる。お前のその光のクリスタルは……」


 そこまで告げた時、クリザリッドは驚きのあまり大きく目を見開いた。


「き、貴様、なぜ額にクリスタルをしていない?! いや、なぜ砕け散っているのだ!」

「知るかそんな事! 第一、お前と同じ趣味など無い!」

「なんだとノーティス。その光のクリスタルはどうした?!」

「光のクリスタル? さっきから何を言ってるんだ」


 まるで話の噛み合わない二人。

 だか、それによりクリザリッドは瞬時に悟った。


「まさか貴様……記憶を失くしたのか? 光のクリスタルと共に!」

「このクリスタルが何の関係があるのか知らないが、確かに俺には記憶が無い」


 その答えに戦慄を覚えたクリザリッド。

 額から汗がツーっと零れ落ちる。


 だが、クリザリッドにとってそれは決して悪いことではなかった。

 むしろノーティスがクリスタルと共に記憶を失くした事は、クリザリッドの野望を阻む大きな壁が一つなくなった事を意味するからだ。


「クククッ……ハハハ……ハーーーッハッハッハッ!!」


 片手を額に当て大きく高笑いを上げたクリザリッドは、狂気に満ちた悦びを瞳に宿しノーティスを見据えた。

 クリザリッドの瞳が、ギラっと妖しく光を放つ。


「ならば……」


 そこまで言いかけた時、クリザリッドは言葉をサッと止めた。

 感じたからだ。

 もうすぐ、ロウ達がここまで辿り着く事を。


───クククッ……素晴らしいタイミングだ。ここでこのこの二人を生かしておけば、この後……


 クリザリッドは狂気と残虐さに満ちた謀略を巡らすと、部下達に号令をかける。


「退くぞ、貴様ら!!」


 すると部下達はそれに従い退却の姿勢を取ったが、当然アネーシャはそれを許さない。

 ここはトゥーラ・レヴォルトの本国ではないにしろ、平和を壊され、何より大切なライトを殺されたから。


「待ちなさい! このまま逃がすと思ってるの!!」

「フンッ、今のお前達がこの俺に勝てると思ってるのか」

「そんなの関係ないわ。貴方だけは絶対許さない!」


 怒声を浴びせてきたアネーシャに向かい、クリザリッドは一瞬ため息を吐いた。


「お前達の始末は、他の王宮魔導士達に任せてある。もうすぐここに来る手筈になっているからな」

「なんですって? どういう事なの!」

「なぁに、簡単な事だ。他の王宮魔導士達も、エデン・ノーティスを取り戻しに来ただけの事。お前達を殺してな」


 クリザリッドはアネーシャに嘘を伝えると片手で剣を天に翳し、その剣から漆黒のエネルギーをグワッ! と、溢れさせた。

 そして、それを部下達にも行き渡らせてゆく。


「さらばだ。哀れなる神器の光達よ。『ダーク・ディメンション』!!」


 その瞬間ブワンッ! という闇が大きく弾け、思わず片手で顔半分を覆ったアネーシャとノーティス。

 そしてその直後、クリザリッドの姿は部下達の姿と共に消え去った。


「くっ……!」


 アネーシャが悔しく声を零した時、少し離れた場所から声が聞こえてきた。


「ノーティス!」


 その方向に二人がハッと顔を振り向けると、そこにいたのは、なんとメティアだった。

 メティアはノーティスにやっと会えた嬉しさで、瞳に涙を滲ませている。


「会いたかった……会いたかったよ!」


 無論、そこにはメティアだけでなくジーク達もいて、皆万感の想いで見つめていた。


「ノーティス! ほんっっっとに良かったぜ!」

「まったくもう。私に黙って、勝手に行くからよ」

「ニャハハッ♪ ともかく無事で何よりだニャ」

「フム。だがノーティス、なぜアネーシャと一緒にいる? そしてこの惨状は一体……」


 ロウが静かにそう尋ねると、横からジークがノーティスを見つめながらニヤッと笑った。


「ロウ。そんなもん決まってんだろ。あのおっかねぇ女に攫われてんのさ」

「そうか……」


 二人の姿を見てロウは違和感を感じていたが、その違和感の正体を整理する間もなく、アネーシャがキッと睨み詰めてきた。

 最悪の誤解による、強き怒りの眼差しと共に。


「貴方達を、絶対に許さない……!」

最悪のタイミングでの再会……

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