表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
132/251

cys:130 戦いの痕と嫌な予感

「これは……!」


 驚き辺りを見渡すロウの側で、他のみんなも目を見開いている。

 ティコ・バローズに刻まれた激闘の痕に。


「ニャー、これはまだ最近の戦いの痕だの」

「ああ……しかも、こいつは間違いなくアイツの技の痕だぜ」


 ジークはそう零し、戦いの痕からノーティスが戦った場面をイメージしながら目で追いかけた。

 すると、何があったのかが見えてくる。

 王宮魔導士であり、ノーティスと何度も手合わせしているジークだからこそ可能な芸当だ。


───こ、こいつは……!


 ジークは、思わずギリッと歯を食いしばった。

 アネーシャとクリザリッドの事は分からなかったが、ノーティスが強大な敵とどう戦ったかが分かったからだ。

 そして、自然と目をやった。

 ノーティスが落ちた崖の方へ。


 それにハッとしたメティアはジークに近づき、縋るような顔で見上げる。


「ジーク、まさかノーティスは……!」

「くそっ……なんでだよ!」


 ジークは苛立ち目を背け、両拳をギュッと握りしめた。

 認めたくない結果に胸を締め付けられながら。

 そんなジークを涙目で見上げたまま、体を震わすメティア。


「ジーク……嘘だよね。ねぇジーク……」

「メティア。俺だって、俺だって認めたくねぇさ。こんな事……!」

「ううっ……嘘だ、そんなの嘘だ!!」


 メティアが大粒の涙を零して叫んだ時、ルミが悲壮な顔で恐る恐る近づいてきた。

 ルミは皆と違い戦いの痕から読み取る事は出来ないが、今の会話と雰囲気から充分に伝わってきたからだ。

 自分にとって最悪な結果になっている事を……


「メティアさん、ジークさん。ノーティス様は……ご無事、なんですよね?」


 けれど、二人とも辛そうにうつむいたまま答えない。

 ロウとアンリもそうだ。

 皮肉にも、それが何よりも雄弁に物語っていた。


「嘘……嘘よ……ノーティス様が、ノーティス様がそんな事になるなんて、あるわけない。ある訳ないの」

 

 そう零しながら、体をフラフラとし始めたルミ。

 あまりのショックに、もはや立っているのすら厳しい。


「あぁっ……」


 虚ろな顔でドサッと倒れかけたルミを、エレナがサッと抱きかかえた。


「お姉ちゃん!」

「エレナ……」

「大丈夫お姉ちゃん。しっかりして!」

「もう、私……」


 抱きかかえられたまま、力なく零したルミ。

 誰よりも愛しているノーティスがいなくなったのだから無理もない。

 しっかりするどころか、もう消えてしまいたいとさえ考えている。

 

───私が……あの時、止めていれば……


 もはや、瞳の焦点も合っていない。

 けれどエレナは、そんなルミを敢えて強く睨んだ。

 自身も瞳に涙を滲ませながら。


「認めちゃダメだよ! お姉ちゃん!!」

「エレナ……」


 瞳の焦点が合っていないルミに、エレナは表情を崩さず続けていく。


「お姉ちゃんは本当にそれでいいの? ノーティスがいなくなったって認めるの?!」

「エレナ、私は……」

「私は認めないよ! この目で見るまで絶対信じないもんっ!」


 エレナは瞳に涙を滲ませながら、叫ぶように告げている。

 当たり前だが、エレナだって辛いのだ。

 けれど、だからこそエレナは決して認めない。


 そんなエレナの想いに当てられ、ルミの瞳から涙がブワッ! と、溢れてきた。


「うっ……ううっ! エレナ……」

「お姉ちゃんの辛さは分かるよ。でも、お姉ちゃんのノーティスへの想いはそんなモノなの? 違うでしょ」

「ううっ……」


 涙をボロボロ零しているルミに、エレナは言い放つ。

 心に一瞬グッと沸くモノを押さえて。


「ノーティスの無事を信じて。お姉ちゃんは……ノーティスから愛されてるんだから!」

「エレナ……!」


 ルミの瞳に光が戻った時、アンリは嬉しそうにエレナを見つめた。


「ニャニャニャッ♪ エレナ、お主なかなかやるではないか」

「アンリ様……私だってノーティスの事大好きだし、それに、お姉ちゃんの妹だもん」


 そう言って力強い笑みを零すエレナに向かい、アンリもニヤッと笑う。


「それに当たっとるぞい♪」

「えっ?」


 その言葉にハッとしたエレナ。


「当たってるって、もしかして……!」


 その時、レイもハッとし目を凝らした。

 ノーティスが戦った痕を。

 すると、ボンヤリだがレイにも見えてくる。

 涙を超えた先にある真実が。


「……嘘でしょ? いや、でも間違いないわ……!」

「そうじゃろ♪ そうじゃろ♪」


 にゃかにゃか笑うアンリを見て、ルミも大きく目を開いた。

 感じたからだ。

 先程とは真逆の雰囲気を。


「ノーティス様が……!」


 その瞬間、アンリの後ろからロウがスッと出て来て微笑んだ。


「あぁ。誰かがこの崖から、ノーティスを追って下りて行った」

「おっ、さすがロウ。気付いたみたいだニャ♪」

「まあ、キミよりは遅かったけどな」


 少し悔しそうに零したロウに向かい、アンリはニパッと笑った。


「気にするでない♪ お主の性格上、最初に遺跡の方へ目がいってだけじゃろ」

「ハハッ、そこまでお見通しか」


 ロウが軽く微苦笑した時、目を丸くしたのはジークとメティアだ。


「マ、マジかよ!」

「えっ?! じゃあノーティスはまだ……!」

「そのとーーーーりニャ♪ あ奴はまだ生きておる」

「よかった……! ノーティス、すぐに迎えにいくからね」


 その傍らで、ルミは涙を浮かべている。

 先程とは逆の意味での涙を。


「ノーティス様……! ううっ……よかった……よかったーーー!!」


 救われたという顔でわんわん泣くルミ。

 レイはそんなルミを片手で優しく抱きしめると、そのままジークに呆れた眼差しを送った。


「気づかなかったのはジーク、アナタだけよ」

「な、なんだよレイ。お前さんだってそーだろうが」

「あら? 私は最初から気付いてたけど」

「はぁーー? 嘘つけ。流石にそりゃねーだろ」


 ジークがイラッとした顔を向けると、レイはやれやれのポーズを取ってため息をついた。


「ハァッ、どーせ戦いばかりに目がいってたから気付かなかったんでしょ。戦闘狂って困るわーー」

「ケッ! うるせっ」


 ジークがそうボヤく側で、アンリとロウは少し神妙な面持ちを浮かべた。

 ノーティスを助けた相手が不可解だからだ。

 

「ただ、楽観視ばかりはしておれんの」

「そうだな」

「ん、そりゃどーゆーこった?」


 少し分からないという顔をしたジークにレイが告げてくる。


「ジーク、アナタ分からないの?」

「なんだレイ」

「この微かに残留してるエネルギー、一つだけ異質でしょ。魔力クリスタルからのじゃないわ」

「あっ!」


 ジークが声を上げた時、メティアも戦慄した表情を浮かべた。

 メティアには、それが誰であるか分かってしまったからだ。


「こ、このエネルギーは……アネーシャだ!」


 その瞬間、皆驚愕して大きく目を見開いた。


「なっ?!」「ニャニャッ?!」「嘘でしょ?!」「マジかよ?!」


 アネーシャはスマートミレニアムの宿敵国の勇者。

 以前、ノーティスと激しい戦いを繰り広げた事を皆ハッキリと覚えている。

 けれど、メティアには確信があった。


「間違いないよ……あの時、ボクは側で二人の戦いを見ていたから」


 メティアの脳裏に蘇る。

 あの日の戦いの中で、アネーシャが見せた強さと哀しさが同居した瞳を。


───アネーシャ、なんでキミはノーティスの事を……


 メティアがそう想いを巡らせていると、ロウが神妙な顔のまま口を開く。


「だとしたらマズいな、メティア」

「えっ?」

「彼女はノーティスを人質にして、僕達に揺さぶりをかけようとしている可能性がある」

「そ、そんな……!」


 ゾクッとしたモノを感じるメティア。

 あの時、アネーシャからは気高いオーラを感じたが、同時に譲れない想いの為には敢えて心を鬼にする事もあると感じたから。

 そんなメティアの側で、アンリ達も神妙な面持ちを浮かべている。


「まあ、確実にそう決まった訳ではないが、状況はマズいニャ」

「確かに、可能性は充分あるわ」

「フム、ならば……」


 ロウがそう零すと、ジークは胸の前で掌と拳をパシンッ! と、合わせニヤッと笑みを浮かべた。

 さっきまでと違い、逞しい戦士の貌になっている。


「だったら、サッサと取り戻さねぇとな! 軍を用意して攻め込もうぜ!」

「そうね。この機会に彼らと決着付けてあげるわ♪」


 意気揚々とした顔をしてるジークとレイ。

 メティアもコクンと頷いた。


 しかし、ロウとアンリは一瞬アイコンタクトを取ると、ジーク達の方へサッと顔を向けた。

 密かな想いと決意を胸に。


「みんな、このまま行くぞ」

「それがいいニャ♪」


 その発言に思わず目を丸くしたジーク達。

 二人の発言が予期していないモノだったから。


「えっ、このままかい?! いいのかよロウ、教皇様に許可取らなくて」

「そうよ、いきなり私達だけで行くの? 軍は動員しないの?」

「そうだよ。早くノーティス助けたいけど、ボク達だけで大丈夫なの?!」


 ジーク達の疑問は最もだった。

 教皇の許可も軍隊の動員もなく動くなんて今まで無かったし、むしろ、常に冷静なロウとアンリがそう言うなんて信じられなかったから。


 けれど、ロウもアンリも表情を変えない。

 ちゃんと考えがあるからだ。


「フム、みんなの気持ちは分かるが問題ない。今回は壁外調査だが、目的はノーティスの安否確認だ」

「そうそう。だから、それの一貫と考えれば再許可は不要ニャ♪」

「でも、軍の動員無しで行くなんて……」


 少し不安げな顔をしたレイに、アンリは猫口でニヤッと笑った。


「ノープロブレムにゃ♪」

「なんでよ」

「攻め込む訳じゃないからの」

「どういう事?!」


 レイが訝しむ顔をすると、ロウがサッと答えてくる。


「あくまで調査の体でいく。確証も無いまま攻め入る事は出来ない。それに、軍を動員すれば相手方も攻めてくるだろう。今回の目的はノーティスの奪還のみだ」


 そう言い放ち、皆を見つめながらロウは思っていた。


───もしこの件を話せば、教皇は許可を出さない可能性が高い……!


 もちろん、アンリも同じ考えだ。

 全貌まで分かりはしないものの、教皇クルフォスの漆黒のオーラに気づいているから。


 けれど、それを表には出さずレイ達を納得させ向かう事になった。

 ただ、ルミは非戦闘員なので連れてはいけない。

 

「ルミ、ここからは僕達に任せてくれ」

「でもっ……!」


 ルミが悲壮な顔で見上げると、背中からエレナが肩にポンと片手を乗せた。


「お姉ちゃん、一緒に戻ろう」


 するとルミは振り返り、訴えるように告げる。


「エレナ、私だって一緒に……」

「ダメよお姉ちゃん! 分かってるハズよ。一緒に行ったら足手まといになるわ」

「うっ、だ、だけど……」


 哀しくうつむくルミ。

 もちろんエレナが言った通り、足手まといになるのは分かってるし、何より自分のせいでこんな事になってるのも分かっている。

 けど、どうしてもノーティスに会いたくて仕方ないのだ。


 エレナはその気持ちを痛い程よく分かっているが、だからこそ心で誓う。

 大好きなノーティスに。


───ノーティス、お姉ちゃんは私が守るから。危険な目には会わせないよ。


 そう誓ったエレナは、凛とした光に揺れる瞳でルミを見つめギュッと抱きしめた。


「お姉ちゃん!」

「エ、エレナ……!」

「一緒に帰ろう。お姉ちゃんを危険な目に会わせたら、ノーティスに叱られちゃうよ」

「うっ……うぅっ……ごめん、ごめんねエレナ」


 ルミはギュッと瞳を閉じながら涙を流している。

 エレナから伝わってくる、優しく強い愛に。


 そんな二人をジッと見つめているロウ達は、皆心の中で決意をしていた。


───二人の為にも、必ずノーティスを取り戻す……!


 けれど、彼らは深淵から見据えられていた。

 そう。スマート・ミレニアムの漆黒の闇の戦士クリザリッドに。


「クククッ……そうはさせん。お前達を利用し、最も苦しい場所に送ってやる」

クリザリッドは何を企んでいるのか……


そして、ゆっくりとした展開はここまで。

次話から展開が加速していきますので、よろしければブクマお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ