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cys:129 揺れる王宮魔導士達

─スマート・ミレニアム領内、ノーティスの自宅─


「どういう事だよ、嬢ちゃん!」


 大きなテーブルにドンッ! と両手を叩きつけルミを睨んだのはジークだ。

 普段は女に怒る事は滅多に無いジークだが、今は激しい怒りに顔をしかめルミを睨んでいる。

 まるで、今にもルミに飛びかかりそうな勢いだ。


 そんなジークの前に、エレナがバッと立ちふさがった。


「お姉ちゃんをこれ以上責めないで!」

「うるせぇっ! 部外者は引っ込んでろ!」

「私はお姉ちゃんの妹よ! 部外者じゃないもん!」

「ちっ、ウザってぇ」


 苛立つジーク。

 その奥でレイはスラっと立ったまま腕を組み、クールで艶のある瞳に静かな怒りを宿している。


「ジーク、落ち着きなさい」

「でもよ、レイ!」


 納得いくかという顔で、バッとレイに振り向いたジーク。

 ノーティスが勝手に行ってしまった事もそうだし、また、それを許したルミの事を許せないのだ。

 結果、ノーティスの失踪に繋がってるから。

 もうあれから随分日にちが経つが、ノーティスは完全に消息不明のままだ。


「黙ってジーク。納得いかないのは私も一緒よ」

「だったらよぉ……」


 ジークがそこまで零した時、隣からアンリがジークの顔をスッと覗き込んできた。


「落ち着けジークよ。私とて一緒じゃ。けど……」

「きっと理由があるハズさ」

「ロウ! お主、私が言いたかった事を。ニャッはぁ〜〜~」

「フム、まあ気持ちは同じという事だ」

「まあニャーー」


 アンリは猫口でそう答えると、メティアの方へチラッと顔を向けた。


「のうメティア、お主とて同じよの」


 けれどメティアは、みんなの方に背を向けたまま口を開かない。

 そんなメティアに、ロウも背中から声をかける。


「どうしたメティア」


 けれど、変わらないし振り向かない。

 その代わりに、その小さな背中から大きな怒りが伝わってくる。


 そんな姿を見て、一番心を痛めてるのはルミだ。

 ルミは今、自分を消してしまいたい! と、思う程後悔していた。

 あの時、ノーティスを行かせた事を。


「メティアさん……ごめんなさい……私……」


 ルミが涙目のまま背中に手を伸ばしながら、そっと声をかけた時だった。


「うるさーーーーーーーーーーいっ! もう、黙ってよ!!」

「メティアさん……」


 ルミが泣きそうな顔をしてビクッと手を引くと、メティアは背を向けたまま(せき)を切ったように話し始める。


「もういいんだよ! ノーティスはボクがあんなに止めたのに、勝手に行っちゃったんだから! 結果的に失踪? そんなの……知らないよもう!!」


 メティアはそこまで叫ぶように告げると、ルミの方へキッと顔を振り向けた。

 今までに見た事のない険しい顔に、ウルッと涙を浮かべながら。


「でも……一番悪いのはルミさんだからね! なんで、なんでノーティスを止めなかったのさ!!」

「ううっ、ごめんなさい……ごめんなさい、メティアさん……」


 ギュッと目を閉じながらボロボロ涙を流すルミ。

 いくら後悔してもしきれない気持ちに、体をブルブルと震わせながら。


「うっ……ううっ……!!」


 そんなルミを前に、メティアは哀しく斜め上を向いて天井を見上げた。

 まるで、もう全てが終わったかのような、諦めた顔をして。


「ルミさん……いいよもう。よく考えたら、ボクなんかが怒るなんておかしいよね」

「メ、メティアさん……? なんでそんな……」


 涙を瞳に浮かべたまま見つめるルミに、メティアは斜め上を向いたまま、瞳からツーっと涙を零す。


「だってボクはノーティスに……さよならも言ってもらえなかったんだから!」


 その叫びにルミが言葉に詰まったと同時に、メティアはバッと走り部屋の出口に駆け出した。


 この光景をただ黙って見つめる事しか出来なかったエレナはもちろんの事、ロウもアンリもジークも焦った顔をして手を伸ばしたが、止める事は出来なかった。


 が、そんなメティアの前に、ズイッと立ち(はばか)ったのはレイだ。

 腕を組んでメティアを怒りの瞳で見下ろしている。


「メティア、アナタいい加減にしなさい!」

「レ、レイ……! ど、どいてよ! ボクはもうこんなとこにいたく……」


 メティアが身を乗り出してそこまで言った時、パアンッ! と、乾いた音が部屋に鳴り響き、皆その光景に目を大きく見開き固まった。

 レイがなぜいきなりメティアの頬を強く引っぱたいたのか、全く分からなかったから。


 そんな凍った空気の中、メティアは叩かれた頬を片手で押さえながら涙の乾かぬ瞳でレイを睨む。


「レ、レイ……なにするんだよ!」

「それはこっちのセリフよ。この……贅沢者さん!」

「なっ?! どう意味だよレイ。いくらレイでも……」

「聞こえなかったの? 贅沢者って言ったのよ」


 クールな怒りの眼差しで見下ろしてくるレイに、メティアはたじろぎながらも納得できない顔をした。


「なんで……なんでそんな事を言うのさ……」


 涙を瞳に浮かべ見上げるメティアに向かい、レイは一瞬ため息を吐いた。


「メティア、分かってないわね。私なんてね、止める機会すら与えて貰えなかったのよ」

「レイ……!」


 メティアはハッとしてレイを哀しく見つめた。

 確かにレイの言う通りだと思ったから。

 

───そうだよね……レイもノーティスの事大好きなのに、止める機会すら貰えなかったんだ……でも……


 すると、まるでメティアの心を見透かしたかのように、レイはニッと軽く口角を上げた。


「止めれる機会があったのに止めれなかったのは、よりダメなんじゃないかって思ったでしょ」

「なんでそれを?」

「フフッ♪ 当然じゃないメティア。私を誰だと思ってるの」


 レイはそう言って微笑むと、メティアにスッと身を乗り出した。

 長く美しい髪がハラリと揺れる。


「それにね、あの人が私達を見捨てて行くわけないじゃない。少なくとも私はそんなの認めないわ」

「レイ……」

「きっと、必ず帰ってくるつもりだったから何も言わなかったの」

「う、うん……」


 納得は仕切っていない顔を浮かべるメティアを、レイは凛とした瞳で真正面から見つめた。


「そんなのメティア、アナタが一番分かってるハズよ。奇跡の再会を果たしたアナタが……!」


 その光景を目の当たりにして皆が言葉が出ない中、一番先に大きく口を開いたのはジークだ。


「ガーッハッハッハッ! レイの言う通りだ。まあ、俺も最初からそう思ってたけどな!」


 その大きな声が部屋に響くと、レイは呆れた顔でやれやれのポーズを取り一瞬瞳を閉じた。

 耳に着けている大きなイヤリングが軽く揺れる。


「ハアッ、まったく……どこからそんなセリフが出てくるのかしら。ねぇ? ルミ。それにエレナ」

「あ、わ、私は別に……」


 ルミはタジタジして顔をうつむかせた。

 なんて言っていいのか分からなかったから。


 逆にエレナは、少し唸りながらジークに身を乗り出し睨んでいる。


「そーよ。さっきあんなに怒鳴ったくせにーーー」

「うっ、そ、そんなに怒鳴ったっけか?」

「怒鳴ったーーーー」


 エレナがジークに詰め寄る中、レイはそれに乗りフフンとした顔を向けジークを煽る。


「そーーよ。ルミちゃん怯えちゃってるじゃない。ジーク、アナタが怒鳴ったせいよ。どーしてくれんのよ」

「い、いや、俺は別に、なんつーか、アレだ。なあ?」


 しろもとどろの顔をしてるジーク。

 レイは、そんなジークの目の前までカツカツとヒールを鳴らして近づくと、グイッと身を乗り出し見上げた。


「はあっ? アレとか、意味が分からないんだけど」

「えっ、いやーーーなんというか……そのほら、なぁ。あんじゃん、そういう、ほら、こう……」

「ないから。女の子に怒鳴るとか、ありえないから」

「あーーだ、だよな〜〜」


 完全に追い詰められてるジークを見かねたアンリ達は、軽く首を傾げてニヤッと笑う。


「ニャニャニャッ♪ もうよいではないかレイ」

「フム、これが理想的なカップルという物か。勉強になるな」

「ちょっとロウ、変な事言わないでよ! こんなガサツな人、恋人にした覚えはないわ」


 そう怒鳴りながらもレイが軽く照れた顔を身体ごと後ろにプイっと向けると、ジークが自分の照れを隠すかのように両手を大きく斜め下に向けた。


「はぁーーーー? そ、そりゃこっちのセリフだぜ。俺は別に、お前さんに好かれようなんて、これっぽっちも思っちゃいねぇし」


 痩せ我慢ギリギリのジークに、レイはチラッと顔を振り向ける。


「あっ、そ。じゃあ今度のデートは無しね」 

「えっ?! ちょちょちょちょちょっと待て!」 

「持たないわよ。ベーっ!」

「あっ、あっ、あっ……」


 ジークはシャレにならんという顔をして大きな体をフラフラさせたが、レイからは取り付く島もないのが伝わってくる。

 なので、ロウにバッと身を乗り出した。


「おいロウ! お前さんも変な勉強はしなくていいんだよ。勘弁してくれ!」

「ハハッ、まあそう言われても、軍師として色々な事に興味はあるからな。今のも非常に興味深い」

「おい〜〜〜」


 そんな中、涙をゴシゴシ拭いて微笑むメティア。

 レイに気付かされた後にジーク達のやり取りを見てたら、何だか怒っているのも少しバカバカしくなってきたのだ。


「アハッ♪ そーだねロウ」


 メティアはそう言ってニコッと笑うと、涙の跡が残った目でみんなを見つめた。

 今さっき怒ってたのが嘘のように、いつもの明るいメティアに戻っている。


「じゃあ、みんなでノーティスの事迎えに行こう♪ きっとまだ、ティコ・バローズの近くにいるハズだよ!」

「フフッ♪ とーぜんよ」

「だな!」

「ああ、彼ならきっと無事さ」

「ヤツは何だかんだと、王宮魔道勇者じゃからの♪」


 もちろん皆、そうは言ってもノーティスが無事かどうかは分からないし、胸中不安もいっぱいある。

 けど、こういう時だからこそ、きっとまたすぐに会える未来を信じティコ・バローズへ向かった。


 この先に待ち受ける、あまりにも過酷な運命に立ち向かうかのように凛々しい貌で。


 そして、その中でルミは瞳に決意の光を宿す。


「ノーティス様、ご無事でいてください。必ず迎えに行きますから……!」

ルミやメティア達は、ノーティスに会えるのか……

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