cys:13 豹変するエリス
「エ、エリス。一体何を……」
「フフフッ♪」
驚いた顔をしたノーティスを、妖艶な瞳で見上げているエリス。
全身から、妖しくセクシーな色気が立ち昇っている。
それを目の当たりにしたキリトとオルフェは、信じられないと言う表情を浮べ目を丸くした。
「おいエリス! お前、何やってんだよ」
「そーだよ、まったく」
怪訝な顔を浮かべる二人にエリスは顔をサッと振り返らすと、キッ! と、強く睨みつけた。
その瞬時、うっ……と、黙り込むキリトとオルフェ。
この関係性は、変わっていないようだ。
邪魔をしたら許さないと、エリスの瞳が告げている。
そうやって二人を黙らせたエリスは、再びノーティスに振り返ると、さらに妖しく淫靡な笑みを向けた。
「ねぇ、ノーティス♪ 私、アナタの事好きになっちゃったみたい。だから、付き合ってあげる♪」
「えっ?」
「フフッ、付き合ってあげるって言ったの♪」
エリスはそう言ってスッとノーティスの腕に抱きつき胸を当て、妖しく光る瞳でノーティスを見つめた。
「アハッ♪ 知ってるわよノーティス。アナタが昔、私を好きだった事」
「な、知ってたのか……」
「当たり前じゃない。フフッ♪」
それを見たルミは、嘘でしょ?! と、いう顔でエリスを見たが、ノーティスはエリスに優しく微笑んでいる。
確かにエリスの言う通り、昔ノーティスはエリスに好意を抱いた事はあるし、ルミもそれをノーティスから一度聞いた事はあった。
もちろん、その後、無色の魔力クリスタルだと分かってから酷い蔑みを受けた事も。
───でもダメです、ノーティス様。その方は、ノーティスを幸せにはしてくれません! 騙されないでください!
そう思ったルミは我慢が出来なくなって、バッと身を乗り出した。
「ノーティス樣っ!」
けれど、ノーティスは振り向かない。
それを見たエリスは、ルミに向かいニヤッと笑った。
「あら? アナタはただの執事でしょ♪ そこで黙って見てなさい」
「そ、そうはいきません! ノーティス様が不幸にされるのを、黙って見過ごすなんて!」
ルミはノーティスの事を純粋に想い声を上げたが、エリスはそんなルミを嘲笑うかのような顔で見下ろしている。
まるで、エリスから邪悪な女神のようなオーラが立ち昇っているようだ。
「失礼ねぇ。私が彼を不幸にするなんて、勝手に決めないでほしいわぁ♪」
「エリスさん。失礼ですがアナタには、ノーティス様を幸せには出来ません!」
「ウフフッ♪ あらそう。まるで、アナタなら幸せに出来るっていうような言い方ね」
「そ、そんな事……」
ルミは急に恥ずかしくなり、顔を赤くしてうつむいてしまった。
「アハッ♪ 可愛いわねアナタ」
勝ち誇った顔で、ルミを見下ろすエリス。
今まで数々の男を手玉に取り、欲しい男はことごとく奪ってきたエリスにとって、恋愛経験の少ないピュアなルミを言いくるめる事など、造作もない事なのだ。
「それにね、決めるのはアナタじゃないの。アナタのご主人様であるノーティスでしょ♪ 違うかしら」
「うっ……それはそうですけど……」
「じゃあ、黙ってそこで見てなさい。アナタのご主人様がどうするのかを♪」
「うぅっ……」
悔しさに震えるルミをよそに、エリスはノーティスに更に大胆に抱きつき、ノーティスの耳元で囁く。
「ねぇノーティス。私の事好きだったわよね♪」
「あぁ」
「そうよね。で、あのルミって子は執事よね♪」
「そうだ」
「じゃあ、これからアナタの彼女は私よ♪ 私がアナタを幸せにしてあげるわ」
「そうか……」
ノーティスはそう言って、エリスをスッと見つめた。
そんなノーティスの瞳を、甘美な妖しい瞳で見つめるエリス。
───フフッ♪ この男、使える上にチョロいわね。まあ、私の魅力にかかればこんなものだけど♪ これから、いっぱい貢がせてやるわ。アーッハッハッハッハッ♪
そう確信し、心で下卑た高笑いを上げたエリス。
だが、その時だった。
ノーティスはエリスの手を腕からそっと外すと、エリスから少し離れ、笑いを堪えた顔で体を震わせた。
「プププ……アッハッハッハッ! ごめーーんエリス、堪えきれなかった」
「えっ? ど、どういう事よ?!」
表情を変えキッと睨みつけてくるエリスを、ノーティスは呼吸を整えながらも、まだ軽く笑みを残しながら見つめる。
「いや、キミがあまりにも露骨だから、コントみたいに思えちゃって」
「コ、コントですって?!」
「いや、そうだろう。もし本気でいけると思ったんなら、どうかしてるよ。記憶力がよっぽど無いか、認識が歪んでるかのどちらかだ」
呆れた顔でそう告げてきたノーティスに、エリスは顔を赤くしてたじろいだ。
「なっ?! 酷いわノーティス。私、アナタの事を本気で好きになったのに……」
エリスはそう言って偽物の涙まで流したが、ノーティスには全く通用しない。
むしろ、哀れんだ瞳をエリスに向けている。
「エリス……悪いけど、もしキミのその涙が本物だとしても、俺は何も感じない」
「な、なによそれ?!」
エリスは驚きと怒りに目を大きく見開き怒鳴ってきたが、ノーティスの表情は変わらない。
「感じる訳が無いだろ。俺が無色の魔力クリスタルだと判った時に、皆と一緒になって俺を蔑んだキミからは」
「うっ……ごめんなさいノーティス!」
エリスは一番痛い所を突かれ焦りの表情を浮かべながらも、まだ諦めずに縋り付く。
「あの時は私がバカだったの。今は反省してるし、ノーティス、アナタを愛してるわ! だから……」
エリスが白々しい嘘を言って近付こうとしてきた時、ノーティスはルミの肩に手をやりグッと引き寄せた。
「え、えぇっ?!」
ドキッとしたルミは、顔を赤らめてノーティスの横顔を見上げた。
「ノ、ノ、ノーティス様っ??!」
ルミが、ノーティスの腕の中で顔を真っ赤に火照らせている中、ノーティスは真っ直ぐ見つめている。
最後の足掻きを見せてくるエリスを。
「ねぇノーティス、無理しないで。そんな子より、私の方がいいでしょ♪ アナタがずーーっと好きだった私が、付き合ってあげるって言ってるのよ」
「エリス……何を言っている」
ノーティスはそう言うと、エリスにニヤリとした笑みを向けた。
それをノーティスの腕の中でチラッと見上げたルミは、一瞬錯覚を起こし目をパチクリさせる。
───ア、アルカナート様っ?
そう。ノーティスのそれが重なったのだ。
何にも揺らぐ事がなく、男は剣で、女は目で殺すノーティスの師匠、剣聖アルカナートを彷彿させるような、不敵な笑みと共に。
そしてノーティスは、エリスにそんな笑みを向けたまま華麗に言い放つ。
「フッ、エリス。悪いが……もう、遅い!」
ノーティスは色仕掛けには靡かない……!
次話は女の子の新キャラ登場です♪
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