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cys:127 精霊エレミア

「ノーティス、貴方って本当にいっぱい食べるわね」


 アネーシャはノーティスの食べっぷりを、軽く呆れた顔をして見つめている。

 ノーティスの周りに、カシャカシャと幾つも積み上がっていく食器と共に。


「美味いっ! 美味いよアネーシャ!」


 皮肉な物だが、アネーシャとノーティスは互いに命を賭けて戦った事があるにも関わらず、食事を一緒にした事はなかった。

 なのでアネーシャは、ノーティスがここまで大食いだとは知らなかったのだ。


 けど、当のノーティスは至って普通な感じでモグモグしている。


「そうか? フツーだと思うけどな。いや、美味いっ!」

「もう分かったから♪ けど、フツーじゃないでしょ。多分、周りからもそう言われてたハズよ」


 アネーシャからそう言われた時、ノーティスはレイやジークの事が一瞬脳裏に浮び手を止めた。

 が、やはり思い出せず、再びモグモグと食べ続けながら軽く零す。


「……そうかもな」

「フフッ、きっとそうよ。食べっぷりも見てて気持ちいいし♪」

「そっか? まあ、美味い物はいくらでも食えるさ。美味いっ!」


 そんなノーティスを、ライトは感心しなからも少し不思議そうに見つめている。

 隣のマーヤもそうだ。


「ねぇ、ノーティス兄ちゃんってなにしてる人?」

「ん? あーーー、いや、思い出せないんだ……」

「へーーそうなの」

「あぁ……」


 ノーティスが食べながらそう答えると、マーヤがちょっと顔を赤くした。

 一目で分かる、恋する乙女の顔だ。


「でも……ノーティスお兄さんって、カッコいいよね! 後でみんなで遊ぼーよ♪」

「遊び? あ〜〜」


 子供と遊ぶのはあんまりした事が無いノーティスは、ちょっと困ってしまった。

 仮に今記憶があったとしても、ノーティスは元々学者志望だったから、あまり友達とワイワイ遊んだ事は無い。

 なので苦手なのだ。

 記憶も無い今なら尚更の事。


 けれどノーティスは、子供の頼みを無下に断る訳にはいかないとも思ってしまう。


「まっ、いいよ。遊ぶか」

「やったーーー♪」


 元気に万歳のポーズをして、ニコッと笑ったマーヤ。

 そんな光景を見て、アネーシャは思わずフフッと微笑んだ。

 ちょっと無理してでも遊んであげようとする所に、ノーティスの優しさを感じたから。


「じゃあ、私も一緒に遊んじゃおうかな」

「わーい♪ アネーシャお姉ちゃんも一緒だ。よかったね、ライト」

「うん! アネーシャ姉ちゃん、ノーティス兄ちゃん。はやく食べて遊ぼうよ!」

「あっ、あぁ分かったよ。遊ぼう」

「わーーい♪」

「やったぁ!」


 遊ぶのは苦手でも、子供達の嬉しそうな笑顔にはつい微笑んでしまうノーティス。

 アネーシャはそれをクールな瞳で見つめている。

 胸に何とも言えぬ、複雑な気持ちを抱えて……


───ノーティス。貴方は……


 そんな中、ノーティスがライトとマーヤに笑顔で手を引かれながら外に出ると、急にスイっと女の子が顔を覗かせてきた。


「およよっ? お主、見慣れん顔よの?」

「うわっ、キミは」


 ノーティスが思わずビックリして軽く体をのけ反らすと、その女の子はニコッと微笑みクルッと宙を舞った。

 飛び跳ねたのではなく、浮いたままクルッと舞ったのだ。

 体からは白いフワフワした光が放たれている。


「ん、ワシか? ワシは……」


 そこまで言った時、ライトとマーヤが嬉しそうに笑って両手を上げた。


「エレミア!」

「わあっ、エレミア♪」


 そんな二人の背中越しに、アネーシャが嬉しそうに笑みを浮かべた。


「エレミア、ちょうどよかったわ♪」

「およっ?」


 軽く宙に浮きながら、どした? と、いう顔で皆を見つめるエレミアに、ライトとマーヤは元気いっぱいな笑顔で答える。


「今日からともだちになった、ノーティス兄ちゃんだよ!」

「今からいっしょに遊ぶの♪」

「ほほうっ♪」


 エレミアは楽しそう顔を浮かべながらも、ノーティスの額に残っている砕けた魔力クリスタルを見つめた。

 その瞬間、エレミアの表情が一瞬険しくなる。

 エレミアはそれが何かよく知ってるからだ。

 ある意味、ノーティス達よりも深く……


「ノーティスと言ったか。お主は……」


 その瞬間、アネーシャがエレミアを見つめながら首を横に軽く振った。


「エレミア、彼は記憶を失くしてるの。だから暫く、ここで暮らすわ」

「な、なんと! そうであったか……!」

「ええ、だから……」


 凛とした瞳で見つめ合うアネーシャとエレミア。

 その数旬の静寂を経て、エレミアは微笑んだ。


「フッ、ならば良かろう。それにアネーシャ、お主もおるしの♪」

「ありがとうエレミア」


 そのやり取りを見て、ノーティスは少し不安げな顔を浮かべた。

 咄嗟に思ってしまったから。

 自分がここにいちゃいけないのかと。


 そんなノーティスの心を見抜いたかのように、エレミアはニコッと笑いスッと身を乗り出した。


「私はエレミア。精霊の一人じゃ♪」

「せ、精霊っ?」

「そうじゃよ。ノーティス、お主は初めてかもしれんが、私は昔からお主ら人間達と一緒におる」

「そう……なんですか」


 ノーティスが何となくだが納得した顔をすると、エレミアはニッと笑みを浮かべた。

 エレミアは感じたからだ。


───魔力クリスタルはしておるが、こ奴は悪い奴では無さそうじゃ。


 心でそう呟くと、ノーティスの砕けた魔力クリスタルに人差し指でそっと触れた。


「これが……お陰よの♪」

「えっ?」

「いや、それにの。お主の瞳、どこかで出会った事がある気がするぞ」

「エレミアに、俺が……?」

「まあ、遥か昔の事じゃがの」


 エレミアが心で遥か昔に想いを馳せていると、他の精霊達も集まってきた。


「エレミアーー♪ って……ヤバッ」

「誰そいつ?」

「何でクリスタル着けた人間が……」


 皆、エレミア達の仲間なので、ノーティスの砕けた魔力クリスタルを見ると一瞬顔しかめたが、エレミアが事情を話すと彼らは一応納得した。


「ふーん……」

「そーなんだね」

「まあ、それなら大丈夫か」


 彼らはそう零すと、エレミアやノーティス達と遊び始めた。


◆◆◆


 もう夕暮れになったが、ライトとマーヤはまだまだ元気にエレミア達と遊んでいる。

 ノーティスが少し休憩しながらその光景を見つめていると、隣にアネーシャがスッとやってきた。


「ノーティス、今日はありがとうね」

「いや、こちらこだよ。記憶の無い俺に美味い飯を食わしてくれたし、みんなと遊んで何だか気が紛れたし」

「そう。ならよかったわ」


 そう言って軽く微笑むアネーシャの顔が夕日に照らされ、少し切ない雰囲気を醸し出す。


「あの子達ね、孤児なの」

「えっ?」


 突然の話に思わず軽く声を上げたノーティス。

 てっきりアネーシャの子供だと思っていたから。


「戦いで親を亡くして、私が引き取ったの」

「そうだったのか……」

「うん、だからここで育ててるんだ。本国より少し離れたこの場所の方が、気持ちが落ち着くから」


 アネーシャはそう話しながら、優しい瞳で見つめている。

 エレミア達と元気いっぱい遊んでいる、ライトとマーヤの姿を。

 そんなアネーシャの顔をチラッと見たノーティスは、フッと軽く息を零した。


「ライトとマーヤは幸せだな」

「えっ?」


 今度はアネーシャが軽く声を上げ、ノーティスを見つめた。

 アネーシャは心の中でいつも思っているから。

 自分はあの二人を、これからもちゃんと育てていけるのかと。


 そんなアネーシャの心を分かっているかのように、ノーティスは優しく告げる。


「あの二人の笑顔を見てたら分かるさ。アネーシャ、キミがあの二人をどれだけ愛して育てているかが」

「ノーティス……!」

「今の俺には両親の記憶も無いけど、キミみたいな親に育ててもらったら幸せだなって思うよ」


 ノーティスはそう零すと、少し照れくさそうに片手で頭を掻いた。


「あっ、ごめんアネーシャ。なんか変な事まで言っちゃって」

「ううん、そんなこと無いわ。それに……」


───記憶を失くしてる貴方は、ある意味孤児よりも孤独よ。


 アネーシャは心でそう零したが、咄嗟に言葉を変える。

 こんなの言った所で、ノーティスが辛くなるだけだと思ったから。


「ライトとマーヤも、貴方が来てくれてきっとよかったと思うし」

「そ、そうかな」

「そーに決まってるじゃない♪ まあ、これからも遊んだり、家の手伝いはしてもらうからよろしくね」

「あぁ、任せてくれ。むしろ、そう言ってもらった方が気が楽だ」

「あら、頼もしいわね」


 アネーシャが嬉しそうに微笑んだ時、ライトとマーヤがこちらに向かい大きく手を振った。


「ノーティス兄ちゃーーーーーーん、こっちきてよ」

「早く早く♪」


 するとアネーシャは微笑みながら、ノーティスの顔を軽く覗き込んだ。


「フフッ、さっそく呼ばれてるみたいよ」

「だな。よしっ、また遊んでくるか。アネーシャは少し休んでて大丈夫だから」


 そんな二人を、少し離れた所からチラッと見つめるエレミア。

 その瞳には切ない哀しみを宿っている。


───ノーティスよ、お主はいい奴じゃ。きっとこれからもアネーシャ達と上手くやっていけるハズ。けど、お主のその魔力クリスタルが直った時、私らとは二度と会えなくなるのじゃ……


 エレミアは心でそう呟き一瞬瞳を閉じると、上を向いたままスーっと高く飛んだ。

 瞳から涙が零れ落ちないように……

 エレミア達と魔力クリスタルには、どんな関係が……

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