cys:122 ルミのアミュレット
昨日のは誤投稿なので一旦消しました。すいません。
「ノーティスーー今日ありがとう♪」
メティアは甘い物をたらふく食べ家の前に着くと、満面の笑みでノーティスにギュッと抱きついた。
メティアの華奢で柔らかい体の感触が伝わってくる。
それに今までと違い、どことなく吹っ切れたような明るさがメティアの可愛さをより際立たせていた。
「あ、あぁ。こちらこそ、ありがとなメティア」
ノーティスはそんなメティアに少しドキッとしながらも、いつものように優しく頭を撫でる。
そんな光景を見てルミは怒る事は無い。
余裕という訳ではなく、メティアのそれがレイやエレナの物と違う事を分かっているし、何より託されたからだ。
ノーティスの事を。
なので、むしろ少し切なそうに見つめている。
そしてメティアが家に入ったのを確認すると、ルミはノーティスと一緒に再び車に乗り込んだ。
運転していると色んな光景が目に映り、隣に座るノーティスの顔を夜の光が次々と照らしていく。
ルミは、そんなノーティスの事をチラッと横目で時たま見ながら運転していた。
「ノーティス様、お疲れ様でした」
「いや、こちらこそ」
ノーティスはそう答えると、それ以上会話を広げようとはせずそのまま黙り込んだ。
別に、怒っていたり疲れている訳でない。
セイラから言われた事を考えていたからだ。
もちろん、ルミにはそれが分かっていたので敢えてそれ以上無理に話はしなかった。
ノーティスとルミの間柄では、特に会話しなくても気まずくはならない。
むしろ、ゆったりと流れる時間と車の振動音が心地よく響いていた。
ただ、そんな中でルミは思う。
───ノーティス様……貴方はやはり、ノーティス様ですね。
そして、自宅に着くとエレナが元気よく出迎えてくる。
「ノーティス、お姉ちゃんお帰りーーー♪」
「ただいまエレナ」
「エレナ、ありがとう。キミのお陰で無事にセイラに会えたよ」
「よかったーーあっ、そういえばレイ様とジーク様が一度来たよ」
「レイとジークが?」
ノーティスは少し嬉しそうに顔をほころばせた。
倒れてたとはいえ、2人にはそれ以上にもう大分長く会っていない気がしたからだ。
「で、2人はなんて?」
「目を覚ましてお姉ちゃんとメティアさんと出かけてるって伝えたら、帰っていったよ。後でまた連絡頂戴って」
「そうか」
「多分、気を利かせてくれたんじゃないかな」
「うん、そうかもな。後で連絡しておくよ。ありがとうエレナ」
「どーいたしまして♪」
そう言ってニコッと笑うと、エレナはクルッと背を向け居間の方へ向かったので、ノーティスとルミもそれに続き居間へ入り、そこから3人で食事をした。
食事の時は3人とも和やかで楽しく話をしていたが、それも終わりルミとエレナが寝静まった頃、ノーティスは密かに旅立つ準備をしていた。
準備といっても、いつも通りの装備を整えているだけなのだが、ルミとエレナに見つからないようこっそりとだ。
───ルミ、エレナ、メティア。すまない、俺はやはりどうしてもみんなを巻き込みたくない。けどアネーシャから言われたあの事を、俺は勇者として確かめなければいけないんだ。
ノーティスが心でそう零し、そっと家から出ようとした時だった。
「ノーティス様」
「わっ!」
突然後ろから声をかけられビクッと振り向いたノーティスを、凛とした切ない瞳で見つめるのはルミだ。
「わっ、じゃありません」
「いや、ルミ、これは……」
慌てて弁明しようとするノーティスだが、こんな所を見られては流石に言い訳出来ない。
───なんで見つかっちゃうんだよ……!
ノーティスが心でそう嘆いくと、ルミはまるでそれを聞いていたかのように言う。
「なんで見つかっちゃったのか、って思ってません?」
「え、え、えっ、なんで?」
「出て行かれるのが分かっていたので、当然です」
「バレてたの?」
「バレバレですよ」
「えーーー、でもあの後そんな素振りは見せてなかったろ」
少し顔を赤くしてバツの悪そうな顔をしたノーティスに、ルミは軽く微笑んだ。
「私を誰だと思ってるんですか。私は、ノーティス様の執事ですから♪」
「ルミ……」
「だから、もう分かってましたよ。はい、これ」
ルミはそう言うとノーティスにお弁当を差し出した。
「えっ? 作ってくれたの?」
「当たり前じゃないですか。ノーティス様はすぐお腹減るんですから」
「まぁ、そうだけど……」
「絶対行くって分かってましたので、作っておいたんです」
「ハァッ……やっぱりルミ、キミには敵わないよ」
ノーティスが少し微笑みながら参ったなという溜め息零すと、ルミがさらにスッと差し出してきた。
「ノーティス様、これをハメてください」
「ん? この腕輪は……」
「アミュレットです。ノーティス様がホラムに遠征に行ってる間に作りました」
そのアミュレットは金色で出来ていて、淡いピンク色のクリスタルが付けられている。
何ともルミらしいというか、素敵なアミュレットだ。
「これ、本来魔除けとかの意味なんですが、私の魔力も込めておきましたので着けていってください」
そのアミュレットはデザインもさることながら、ノーティスの腕にピタッとフィットした。
ルミがいかに普段から自分の事を見てくれるかを改めて実感したノーティスは、ルミを思わずギュっと抱きしめた。
「ノ、ノーティス様?!」
まさか、急に抱きしめられると思っていなかったルミは顏を火照らせてしまったが、そのままノーティスの背中にそっと両手を回した。
ノーティスから、本当に自分を想っている気持ちが伝わってきたからだ。
「……ノーティス様、必ず無事に帰ってきてくださいね。帰ってきたら、また一緒に美味しい紅茶を飲みましょう♪」
「ああ。ルミの淹れてくれた紅茶じゃなきゃ、俺飲めないから」
「もうっ、大げさなんですから」
「本当だよ」
「分かりました。じゃあ、必ず帰ってきてください。例え、どんな真実が分かったとしても。約束ですよ」
「分かった。ルミ、この約束は必ず守るよ」
ノーティスはそう告げ、もう一度ルミをギュッと抱きしめるとルミの唇にキスをした。
ルミは、一瞬何をされたのか分からず頭の処理が追い付かなかったが、今キスしたのを分かると、ボッと顔を火照らせてノーティスを潤んだ瞳で見つめた。
「あ、あ、ノ、ノーティス様……!」
上手く言葉の出て来ないルミの事を、ノーティスは真摯な澄んだ瞳で見つめた。
そして告げる。
今までの全ての想いを込めて。
「ルミ、愛してる」
ノーティスはそう告げると、ルミにサッと背を向け扉から出ていった。
ルミはあまりにビックリしすぎて言葉が出てこなかったが、扉がパタンと閉まるとその扉を見つめたまま静かに零す。
「ノーティス様、私も愛してます」
ノーティスの向かう先には……
次話はあの宿敵との邂逅です。
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