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ゼロの輝き─無魔力追放からの反逆  作者: ジュン・ガリアーノ
第6章 魔力クリスタルの深淵
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cys:120 決着

「ヒイッ!」


ドロスは三人から睨まれ悲鳴を上げた。

けれどその中で思考をフルに働かせ、すぐに思い出した。

サガの息子を人質に捕っている事を。


「よ、寄るな! お前達! この蛮族の子がどうなっても知らぬぞ」

「フゥ。ドロスよ。それは典型的な悪役のセリフだぞ」


アルカナートはそう告げて苦笑した後、ドロスを睨んだ。


「それにその坊主に何かあった瞬間、それはオマエの首が胴体から飛び立つ瞬間だって事も、分かってるよな?」

「う、うぅぅ……」

「さあ、どうするドロス!」


 アルカナートに剣を突き付けられたドロス。

 罠も禁呪も人質も破られた今、彼は覚悟を決めるしかなかった。

 なのでドロスは、自身の纏うクリスタルの煌めきを最大限に輝かせた。


「オォォォォォツ! 私の全魔力を捧げる! いでよ死神!『ハロ・アポスト―ロス』!!」


 ドロスの頭上に死神が召喚され、ドロスはニヤリと笑った。


「アルカナートよ。お前がいかに余裕を見せようとも、この魔法は絶対に防ぐ事は出来ぬ。そして、この死神に触れられた人間は必ず命を落とすのだ!」


 ドロスはそう吠えた後に続けた。


「……ただし、全魔力と引き換えだ。しかも一人の命しか取れん。効率の悪い魔法だ。そう……アルカナート、お前をいつの日か殺す為に編み出した魔法だ! 喰らうがいい。狩れ死神よ!『ハロス・レクイエム』!!」


 その号令と共に、死神はアルカナートに向かい凄まじい速度で突進してきた。

 けれどアルカナートは満足気に笑った。

 死神の向こうにいるドロスに向かって。


「それでいいのさドロス。ただ、死神と俺は相性が最悪なのは残念だったな。喰らいな!『ゼン・エスプランド・スラッシュ』!!」


 ザシュッ!!


 アルカナートは白輝の煌めきを纏った剣で死神を一刀両断し、真っ二つになった死神は断末魔と共に、虚空の中へと消えていった。


「オォォォォォン……!」


 それを見て目を輝かすロウとサガ。


「さすがアルカナート先生……!」

「凄まじいな……死神も一刀両断とは」


 そんな二人をよそに、ドロスは全ての力が抜けその場で膝からへたり込んだ。


「あぁぁ……!」


 アルカナートは、そんなドロスの側にゆっくり近づき見下ろした。


「ドロスよ、お前はこれで終わりだ。何か言い残す事はあるか?」


 その時アルカナートの背中に後光が射し、これからの断罪の予感を際立たせた。

 そんなアルカナートを、ドロスはへたり込んだまま力なく見上げた。


「別にもう、何もない。好きにしたらいい……」

「……言い訳はしないのか?」

「ハッ……アルカナート。キサマへの行為、そこのロウにまで見られていては、どの道再起は不可能……それであればここで散る以外になかろう」


 ドロスはそう呟いた後、サガの顔を見つめた。


「蛮族よ。散る定めだったのはその花ではなく、私だったようだ」

「ドロス……!」


 サガは思わずドロスを見つめてしまった。

 今のドロスには、これまでとは違う何かが宿っていた気がしたからだ。


 そんなドロスはアルカナートに向き直り、全てを悟った澄んだ目で見つめた。


「さあ。もう終わりにしてくれ。国に戻っても待っているのは死刑だ。けれど、国に殺されるのはごめんだ。アルカナート、お前に殺されなければ……今までの私の想いは報われん!」


 ドロスはアルカナートにそう告げると、覚悟と共にそっと瞳を閉じた。

 今、なぜか感じている、穏やかで充足した気持ちの正体を最後に確認する為に。


 いつの頃からかアルカナートに対する尊敬が嫉妬に変わり、そこから心の中に生まれた増悪の炎。

 それにより見えなくなっていたが、全力で戦った事でその増悪の炎が消え、今、心の中にはアルカナートに対する敬意の念だけがあった。

 皮肉にもそれは、ドロスが否定し続けてきた戦士の誇りだった。


───そうか、これが戦士の誇り。全力で戦って初めて分かるとは……愚か者は私の方だったか。そうだ。私はアルカナートになりたかったのだ……!


 ドロスがそう悟った瞬間、突然アルカナートに胸倉をつかまれグイッと立たされた。

 そして次の瞬間、ドロスの頬にアルカナートの強烈な鉄拳がめり込む。


 バキッッッ!!


 ドロスは大きく吹き飛んで尻もちをつき、殴られた部分を思わず手で押さえたまま、アルカナートを見た。


「うっ……!」


 するとアルカナートは、ドロスに向かい背を向けロウとサガに言う。


「ロウ。今日ドロスは全力を出して敵と戦ったが破れ、重傷を負った。そして敵は倒せなかったものの、何とか守り切った。そうだよな? ロウ」


 それをアルカナートの背中越しに聞いたドロスは、思わず声を漏らす。


「アルカナート……!」


 また、ロウはアルカナートの意思を素早く察しにこやかに微笑んだ。


「フム……私はここに来たばかりです。けれど、アルカナート先生がそう仰るのであれば間違いありません」


 それを聞いたアルカナートは軽く微笑むと、サガに向かい頭を下げた。


「サガよ、すまない。これで勘弁してもらえるとは思わないが、この場はこれで納めてほしい。後日改めて謝罪をする」


 アルカナートから頭を下げられたサガは、アルカナートに向かいニヤリと笑った。


「頭を上げてくれ、アルカナート。俺は構わん。花見をしに来たら、たまたまケンカになっただけの事。俺は家族が無事であれば、それ以上は望まん」

「サガ……! 心から礼を言う」


 その時ドロスはフラフラしながらも立ち上がり、二人に向かい吠えた。

 あれだけの事をして、これで終わるなんて無いと思っているからだ。


「アルカナートよ! お前は、お前達は、なぜ私を許すのだ? 私はお前達を殺そうとしたのだぞ!」

「フッ。それはドロス、お前自身が一番よく分かっているハズだ。お前は最後全力で戦士として戦い、そして決着はついた。命まで取る理由が無い」

「俺も同感だ。それに俺は何度も言う通り、家族が無事ならそれでいいのさ」


 二人の言葉を聞いたドロスはうつむくと、顔をギュッとしかめ様々な想いが入り交じった涙を流した。


「うぅぅっ! 私は、自分の醜い嫉妬の為に何ていう事を……」


 ドロスはしばらくそのまま涙を流しすと、サガの元に行き深々と頭を下げた。


「私のした事は決して許されるものではないが、それでも謝らせてくれ。すまなった……!サガよ」


◆◆◆


 こうしてドロスの反逆は終わった。

 優しい結末と共に。

 そう。そのハズだった。


 しかし違ったのだ。

 本当の結末は、血にまみれた残酷な結末で幕を閉じる事になる。


 息子のシドを背に抱えたサガは、自国のトゥーラ・レヴォルトの近くまで辿り着いた。

 

「うぅぅっ……!」


 小さなうめき声を上げながら目を覚ましたシドに、サガはシドを背中におぶったまま声をかけた。


「目を覚ましたようだな、シド。もう大丈夫だ」

「父さん……はっ!」


 シドはサガの傷だらけの身体を見て全てを悟った。

 命をかけて自分を助けてくれた事を。


「父さんごめん。僕のせいで……」


 自分のせいで重症を負わせてしまった事を激しく後悔し、悲しさと悔しみの声を零したシドに、サガは優しく微笑んだ。


「よく来てくれたな。俺はお前を誇りに思う」

「父さん……!」


 サガは涙を堪えるシドを背中から下ろし、しゃがんで目線の高さを合わせた。


「何も恥じる事も悔いる事はない。お前は立派な戦士だ」


 そしてスッと立ち上がりシドに告げる。


「先に戻っていてくれ。俺は少し休んでから行く。こんな姿じゃ母さんに心配をかけるからな」


 優しくそう告げてきたサガに、シドはなぜか一抹の不安を感じた。

 けど、サガの言い付け通り先に帰る事にした。

 自分のせいでこうなってしまった事に、深い負い目を感じていたからだ。


「分かったよ、父さん……でも、早く帰って来てね」

「ああもちろんだ。すぐに行く。早く帰って、母さんに無事な顔を見せてやれ」

「分かった……じゃあ、後でね! ありがとう父さん!」


 シドは駆けて行く息子の姿を優しく眺めながら見送った。

 そして、息子の姿が見えなくなるとスッと表情を変え、戦闘態勢に入る。


「そろそろ出てきたらどうだ。邪悪な者よ」


 その瞬間、道の影からロングコートにフードを被った男が、ゆらりと姿を現した。

 その男は怪しい瞳でサガを見つめ、邪悪な笑みを零した。


「クククッ……」

「キサマ、何者だ?!」


 だが男は答えず、額の魔力クリスタルから漆黒の光を放っていく。


───くっ……! なんというプレッシャーだ。色は真逆だが、これはまるで……


 サガが心でそう呟いた時、その漆黒の輝きを放つ男はサガに向かいニヤリと邪悪な笑みを浮かべた。


「クククッ……傷ついた戦士よ、散るがいい。このアルカナートの剣によって!」

アルカナートの名を語る者は……



次回から、またノーティス達の話に戻ります。

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