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ゼロの輝き─無魔力追放からの反逆  作者: ジュン・ガリアーノ
第6章 魔力クリスタルの深淵
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cys:119 戦士の誇り

「ドロス、キサマに戦士としての誇りは無いのか?!」


 子供を人質に捕るドロスにサガは怒りの声を浴びせたが、ドロスは大きくため息をつき侮蔑の瞳をサガに向けた。


「ふーぅ……蛮族よ。その戦士の誇りとやらは幾らになる?」

「なんだと?」

「その戦士の誇りとやらが、金になるのかと尋いているのだ」

「何を言う! 戦士としての誇りが、金に変えれる訳がないだろう!」

「だろう? 蛮族よ、その通りだ。戦士の誇りなど金にならん。なのになぜそんな物を持たねばならぬ?」


 ドロスは煽る為に言ってる訳でなく、本当にそう思ってサガに尋ねているのだ。

 それを感じたサガは、怒りよりも哀れみの瞳で見据え告げる。


「そんな事も分からぬのか? ドロスよ。戦士としての誇りは自分の為に持つのではない」


 そう告げられたドロスは怪訝な顔をサガに向けた。

 まるで不可解な存在を見る目で。


「ハンッ、だったら誰の為に持つのだ?」

「決まっている。自分以外の全ての為だ。戦場は互いに殺し合う場だ。互いにその背後に大切な者達を抱えながら……けれど、戦士の誇りがあるからこそ、戦場で相手に剣を向ける事が出来るのだ! それがなければ戦士ではなく、ただの殺人鬼に過ぎん」


 そう告げられた瞬間、ドロスはギリッと歯を食いしばり顏をしかめた。

 サガとアルカナートが一瞬重なって見えたからだ。


「いまいましい……何が相手の為だ! 殺すのであれば何も変わらん。戦士の誇りなど持たずとも、より多くの敵を討ち取った事が金と評価に繋がるのだ! なのにそんな物を大事にするとは……キサマもアルカナートもただの愚か者に過ぎん」


 ドロスはそう叫ぶとサガに向かい魔導の杖を振りかざし、切り裂く嵐の風魔法を放った。


「喰らえ蛮族よ! 下らぬ戦士の誇りと共に、嵐に斬り裂かれるがいい!『テムノ・スィエラ』!!」


 その瞬間サガの周りに嵐が巻き起こり、サガに激しく襲い掛かった。


「ぐぉぉぉぉっ!」


 サガはその場で腕を構えて防御したが、テムノ・スィエラの強烈な暴風を喰らい全身に大きな傷を負い、血をぼたぼた流しながらドロスを睨んだ。


「キサマ……」

「ヒーッヒッヒッヒッ♪ これで分かったか蛮族よ。こうして人質を取り動けなくさせてから力で討ち取る。そうすれば、それが金と評価に繋がるのだ。戦士の誇りなど意味はない」

「そうか……哀しいな、ドロスよ」

「なんだと? 哀しいのはキサマの方だろう」

「違う。ここまでの力を持ちながら、戦士としての誇りを持たないキサマには、誰も心からは振り向かないだろう。例えどんなに地位が上がろうともな」


 その瞬間、ドロスはハッとした。

 思い出したのだ。

 昔、アルカナートから言われた事を。


◆◆◆


『アルカナート様。私は戦場に出たくありません』

『なぜだ、ドロス』

『そんなの決まってます! 恐ろしいからです! 私はアルカナート様のように強くないんです』

『ドロスよ。そんなお前だからこそ、戦場に出る資格があるのだ』

『えっ?』

『恐れを知る者は、相手もそうだと知る。けれど、俺らは大切な者達の為に戦わねばならん。だから相手に敬意を持って戦う。それが戦士としての誇りを持つという事だ』

『アルカナート様……!』

『分かったなら早く持ち場に戻りな。戦士の誇りを持ってお前らしく戦えばいい』


 ドロスはアルカナートからその話をされて以降、魔法を磨いた。

 そしてその力が認められドロスには部下が付き、彼を慕う者も増えてきた。

 彼はそれが嬉しくてより魔法を磨き、高みを目指した。

 より効率良く敵を倒し、皆から評価される為に。


 けれど、ドロスが最終的に辿り着いたのは罠を仕掛ける事だった。

 相手の事を罠に嵌め力を封じたまま倒す。

 このやり方で、ドロスは功績を上げ部下も増えた。

 けれど、それと同時にドロス自身を慕う人はいなくなった。


 その悲しさを埋め自身のプライドを守る為、ドロスは無意識的にこう思う様になった。

 戦士の誇りなど下らない。そんな物を大事にする奴もそれを慕う者も、ただの愚か者だ。と……

 自分は愚か者ではないから、奴らには理解されないだけだと。


◆◆◆


 その事を思い出したドロスは、それを振り払うかのように頭を激しく左右に振った。

 ドロスは認める訳にはいかなかったからだ。

 これを認めてしまえば、自分が惨めで間違っていた事になってしまうから。


「黙れ……黙れ、黙れ、黙れっ!! キサマもアルカナートも、どこまで私をバカにすれば気が済むのだ! お前達も、そしてこの私を理解出来ない愚か者共も、全て消え去るがいいわ」


 ドロスは傷ついて血を流すサガを見下ろしながら、魔導の杖を天に掲げ詠唱を行った。

 激しい怒りと共に。


「輝け、私のクリスタルよ! 愚か者共を駆逐する為に!!」


 ドロスの額の魔力クリスタルから紫色の輝きが放たれ、その煌めきがドロスの全身を覆った。

 そしてドロスは魔導の杖と左手の間に魔力をバチバチと溜め、ニヤリと邪悪に微笑んだ。


「クククッ……消え去るがいい」

「くっ……! マズいな。今の身体でアレを受けきれるか?!」


 その時だった。


「ドロス、何をしているっ!!」

「誰だっ?!」


 ドロスが後ろを振り向くと、そこには茶色のマントに身を包み知性の溢れた眼差しを持つ男が立っていた。

 若き日のロウだ。

 全身から、エメラルドグリーンの光を立ち昇らせている。

 この頃はまだ見習い魔術師だったが、既にその明晰な頭脳と魔法弓の腕前は抜きんでていた。


 そんなロウはドロスを見据えながら逆に問いかけた。


「僕はスマート・ミレニアム軍見習い魔術師アルカディア・ロウだ。ドロス、アナタこそ、ここで一体何をしている!」


 ロウからキツく問われたドロスは心の中で毒づいた。


───ロウだと?! あの天才と名高い見習い魔術師か。部下達の口止めなら容易いが、こいつにこれを見られるとは……クソッ! どうする?


 ドロスは数瞬思考を巡らせた後、ロウに向かい斜め下に両手を広げた。


「これはこれはロウくん。何をしてるも何も、見ての通りだ。我がスマート・ミレニアム軍に楯突く蛮族を成敗している所だ」


 ぬけぬけとそう答えるドロスを、ロウは鋭い眼光で睨んだ。


「ドロス。私がアナタに尋いているのはその事ではない。なぜその炎のドームの中からアルカナート先生の魔力を、僅かながらでも感じるのかという事だ」

「なんだとっ?!」


 思わず叫んだドロス。

 ロウが感づいた事と、アルカナートの魔力がもう回復しつつある事に驚いたからだ。

 そんなうろたえるドロスを見て、ロウはすぐさま状況を悟った。

 真実を見抜く冴え渡るキレはこの頃から健在だ。


「ドロス。いかな事情や想いがあったとて、アルカナート先生を陥れようとした事。このロウ、決して許しはしない!」

「くっ、生意気なガキが。少しばかり天才だからといって調子に乗りおって!」


 ドロスは怒気を吐きかけたが、ロウは動じる事無くドロスに向かい素早くエメラルドグリーンの魔法弓を構え、僅かながら標準を変え矢を放つ。


「邪悪なるものを消し飛ばせ! 『コズミック・メテオアロー』!!」

「なっ! しまった!」


 驚くドロスを尻目にエメラルドグリーンの矢はドロスの脇を通過し、燃え盛る炎のドームに突き刺さると大きな光と爆風を放った!


 ドカァァァァァァンッ!!


「クッそぉぉぉぉぉっ!」


 炎のドームが綺麗に消え去り、ドロスは悔しさのあまり声を張り上げたが、すぐにサア―――ッと顔を青ざめさせた。

 もう、アルカナートを遮る物は何も無いからだ。


「ぐっ……うぅぅ」


 ドロスが悔しさと恐怖に歯を食い縛りながらうめき声を漏らす中、アルカナートは誇らしい顔でロウを見つめている。


「フッ。たまには行き先を告げておくのも悪くはないもんだな」

「先生っ! ご無事で」

「ロウ、なかなかやるじゃねぇか。礼を言うぜ」


 アルカナートからそう告げられたロウは、ドロスをキッと見据えた。


「ドロス……これでもう言い逃れは出来ない。アルカナート先生へ邪悪な牙を向けたアナタを、逆賊として成敗させてもらう!」

これで終わりか……?


次話はドロスにアルカナートから鉄槌が下ります。

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