cys:12 ルミの愛と杞憂
───ノーティス樣、無事に試験終わったのかな……
ルミは筆記試験の部屋の外で、ノーティスが出てくるのを少しハラハラしながら待っていた。
部屋に入る時にゲッソリしていたし、何よりノーティスはトラブルに巻き込まれる事が多い体質だからだ。
───あぁ……大丈夫かな、ノーティス樣……
ルミがそう思い軽くうつむいていると、筆記試験終了の合図と共に、部屋から受験者達がゾロゾロと出てきた。
───あっ、試験終わったんだ! 早く会いたいなっ♪
そう思ったルミはサッと顔を上げ、小柄な体をピンと伸ばしたまま、入口から出てくる人波を見つめながらノーティスを探す。
けれど、ノーティスの姿は見当たらなかった。
───あれ? ノーティス様、何でいないのー?
そう思ったルミは、部屋から出てきた受験者の1人の肩をポンポンと叩き、ん? と、振り返った男に尋ねる。
「あの、すいません。ノーティス樣をお見かけしませんでしたか?」
「ノ、ノーティス? 知らねーな。誰それ」
ルミの可愛さにちょっと顔を火照らす男に、ルミはその可愛い顔を向けたまま下から見上げた。
「白のロングジャケットを着た、背の高くカッコいい男性です♪」
ルミがニコッと笑って男を下から見つめると、男は顎に軽く手を添えて少し考えた。
そして、何か思い出したような顔を浮かべると、ポンッと手を叩いた。
「あっ、もしかしてアイツかな。プラチナゴールドエリアから来た受験者」
「そう! 多分その人です」
「あー、アイツなら確か別室に連れて行かれたけど……」
「べっ、別室?!」
事情を知らないルミは、目を大きく開いて声を上げた。
またノーティスが何かに巻き込まれたのかと思ったから。
男は、そんなルミに軽く告げる。
「あぁ、何か呼ばれてたぜ。俺は試験に集中したくてギリギリまで勉強してたから、あんましよく見てなかったけど、確か、何か白服のヤツを何人かが罵倒してたな……」
───白服、罵倒、間違いない。ノーティス様だ……
ルミはそう確信しガクッと肩を落とすと同時に、ノーティスの事が凄く心配になってきた。
───ノーティス様、申し訳ありません。私がついていれば、必ずお守りしましたのに……!
ルミは悔しさに震えながら、男に訴えるような眼差しを向ける。
「じゃあ、何してるんでしょうか? ノーティス様は!」
「さ、さぁ?」
男は軽く首をかしげ、ごめんな、と言いその場から去っていった。
ルミの事は可愛いと思うけど、彼氏持ちならこれ以上は、しゃーないと思ったから。
「あっ、あの……ハァッ……」
ルミが軽くうつむいてため息を零すと、三人の受験者達が、ニヤニヤした顔をしながらルミに近付いてきた。
あのキリト達だ。
「おい。アンタ今、ノーティスって言ったか?」
「あっ、はい。アナタ達は……」
何となくイヤなオーラを感じたルミは、少し引きながらキリト達をジッと見つめた。
するとルミが感じた通り、キリト達はルミに尊大な態度を取ってくる。
「クラスメイトだよ。まあ、元だけどな」
それを聞いて、ちょっと警戒を解いたルミ。
「なんと、ノーティス樣のご学友の方でしたか!」
「まあな。ちなみに、アンタはノーティスの何なんだ?」
「私は、ノーティス樣の執事『アステリア・ルミ』と申します!」
ルミがそう言って丁寧にお辞儀をすると、キリトはチッと舌打ちして顔をしかめた。
「マジかよ……どーゆー訳か分かんねぇけど、マジで執事いるんだな」
「ホント、信じられないね」
「そうね。本当にありえないわ。あんなヤツが」
その態度に、ルミはイラッとした顔を向ける。
やはり最初感じた通り、良くない相手だと思ったからだ。
「何なんですかアナタ達は。ノーティス様の、元ご学友ではないのですか?」
ルミにキッと睨まれたキリトは、顔を軽く横に向け、ルミを嘲るように見下ろす。
「ハンッ! あんな能無しと一緒な訳ねーだろ。なぁ、オルフェ」
「キリトの言う通りだよ。全くもって不愉快だな……」
オルフェがやれやれのポーズを取りため息を吐くと、エリスがズイッと前に出てきた。
そして、胸の前で腕を組み、勝ち誇った顔でルミを見下ろす。
「そーよ。それに試験なんて受かりっこないんだし、今頃どっかで寂しく落ち込んでるんじゃない♪ アハッ」
下卑た笑みを浮かべながらノーティスを嘲る3人に、ルミはメラメラと怒りが込み上げてきた。
大好きなノーティスの事を、バカにされたからだ。
「アナタ達、いい加減に……」
ルミがそう叫びかけた時、筆記試験の部屋からノーティスが出てきた。
「あっ、ルミお待たせ」
今怒りを爆発させそうになってたルミとは対象的に、軽い感じで声をかけてきたノーティス。
その瞬間、ルミはパアッと顔を明るくした。
「ノーティス樣♪」
好きな人に会えた時の、条件反射のような物だ。
「ごめん、遅くなっちゃって」
「大丈夫ですけど、心配しましたよ! どこに行ってたんですか?」
ルミが、会えた嬉しさと心配した感情を入り混じらせた顔でノーティスを見つめると、横からキリト達が下卑た笑い声をぶつけてきた。
「アハハハハッ! ノーティス、どーせ全然出来なかったんだろ。試験俺らでも難しかったもんな」
そうやってバカにした顔で口を大きく開くキリトの隣で、横顔に侮蔑の表情を浮べ、蔑みの眼差しを向けたオルフェとエリス。
「そうだね。キミが頭を抱えた姿が、目に浮かぶようだよ」
「どーせ落ちたんでしょ♪ 早くその子に慰めてもらえばーー♪ ボク、試験難しくて出来なかったのーーって♪」
キリト達はそう言って卑らしく笑い声を上げていたが、次の瞬間ピタッとそれを止めた。
ノーティスの後ろから、ロウがスッと出てきたからだ。
「あっ! て、天才王宮魔道軍師ロウ樣!」
キリト達がロウとの突然の邂逅に緊張して固まる中、ロウは彼らをサッと一瞥すると、ノーティスを見た。
少し腹に何か抱えたような眼差しで。
「ノーティス、彼らは?」
「あっ、彼らは元クラスメイトです」
「そうか……」
ロウはそう呟き少し黙ると、ノーティスを凛々しい瞳で見つめたままサッと右手を差し出した。
一瞬で見抜いたからだ。
キリト達はノーティスに対して、ディラードと同じような事をしてきた事を。
───少し、彼らにも分かってもらうとするか。
「ノーティス。筆記試験満点だっただけでなく、キミには色々驚かされたよ。これから宜しくな!」
そう告げたロウの手を、ノーティスは少し照れながらも、凛とした瞳を向けたガシッと握る。
「はい! こちらこそ、特別講義ありがとうございました!」
その光景を目の当たりにして、啞然とした顔で立ち尽くす3人の元クラスメイト。
「ま、満点って……」
「う、嘘だ……」
「どーなってるのよ一体……」
また、彼らだけではなく他のクラスメイト達も啞然とし、逆に、ノーティスを知らなかった人達は、尊敬の眼差しでノーティスを見つめている。
「満点だと! あの試験を……」
「ヤバい、あの人超カッコいい」
「しかも、あのロウ様に認めて貰えるなんて何者なの? 凄すぎるんだけど」
男からも女の子達からも、羨望と好意の眼差しを向けられるノーティス。
けれど、ノーティスはまるで何事も無いかのように、顔色を変える事はない。
人の評価なんて、コロコロ変わる物だと知ってるからだ。
そんなノーティスはロウと握手を交わした後、そこから去っていくロウの背中に礼儀正しくお辞儀をすると、スッとルミの方を向いた。
「ごめんな、ルミ。試験はすぐに終わったんだけど、その後ロウ様から、特別講義受けて色々と話をしててさ」
「いえいえ、いいんです♪ それに特別講義なんて凄いですね! 一体どのような?」
軽く驚いたルミに、ノーティスは嬉しそうに話す。
「話すとちょっと長くなるけど、クリスタルの特性の活かし方と、色の変化についての最新の研究だよ」
「へぇ、それは面白そうですね♪」
「あぁ、流石ロウ樣だ。師匠と近い事を言ってたよ」
「えっ? あの方とですか」
アルカナートの事を思い出したルミに、ノーティスは少し誇らしげな顔をした。
「うん。ロウ様も師匠の弟子だったんだ」
「ええっ?! ホントですか」
「そーなんだよ。師匠の事も色々話してくれてさ。まあ、師匠は昔から変わってないなって思ったよ。色々とさ」
「アハハッ♪」
ルミが楽しそうに笑った時、ハッとした顔を浮べたノーティス。
「あっ、ルミ。そーいえば大丈夫だった?」
「何がですか?」
「ほら、あそこの三人
ノーティスは、キリト達の方へスッと視線を向けた。
それにつられルミもキリト達の方を見ると、言葉を失い立ち尽くしてこちらを見ている彼らの姿が目に映った。
「あっ……」
彼らの事をすっかり忘れていたルミに、ノーティスは心配した顔を向ける。
「彼らからなんか言われたり、逆に、怒ったりしちゃわなかったか?」
まるで、その場にいたかのような質問をしてきたノーティスに、ルミは顔を少し火照らし軽くうつむいた。
洞察力もそうだし、何より自分を心配してくれるノーティスの気持ちが嬉しかったから。
「あっ、暴力は振るわれていませんが……その……ノーティス樣の事を嘲るような事を言ってこられたので、少し怒りそうになってしまいました……」
するとノーティスは、優しく軽い溜息をついてルミを見つめた。
「そうか……ありがとうルミ。でも、怒らなくていいんだよ。ルミが怒ったって、彼らは何も変わりはしないから」
「えっ?」
チラッと上目遣いで見つめてきたルミに、ノーティスは優しく諭すような笑みで告げる。
「人は色んな事を経験して大切な事を学んでいく。だから許してあげて。彼らはこれからなんだ」
「ノーティス樣……!」
ルミが感動してノーティスを潤んだ瞳で見つめていると、キリトとオルフェが怒りに体を震わせ、怒鳴りつける。
「ふざけるなよノーティス! バカにしやがって。何かエラソーだな、オマエよ!」
「そうだよ。まるで、キミが俺達よりも遥か先にいるような言い方だ!」
そんなキリトとオルフェにノーティスは何も言わず、ただどこまでも深く澄んだ瞳で見つめた。
ただ、ノーティスのその瞳に当てられた二人は、何も言葉が出てこない。
その瞳がまるで自分達の愚かさと小ささを、ありありと映し出すように感じてしまうから。
「ちっ……」
「くっ……」
けれど、エリスはそんな二人とは違った。
ノーティスに妖艶な笑みを向けて真正面からゆっくり近付くと、媚びたような声で告げてくる。
「ノーティス、ごめんねーー♪ 私、ノーティスがこ〜〜んなに凄い男だって知らなかった♪」
「エ、エリス。一体何を……?」
豹変したエリスに、ノーティスは何を思うのか……
次話はエリスにざまぁです。




