cys:118 捕われたシド
魔法で映し出した映像越しにアルカナートから嘲笑されたドロスは、怒りと共に地団駄を踏んだ。
「おのれ……おのれ、おのれ、おのれアルカナート! どこまでも私をコケにしやがって!」
けれどドロスは一旦呼吸を整えると、冷や汗をかきながらも邪悪な笑みを浮かべた。
ドロスには分かっていたからだ。
アルカナートが結局ここから抜け出せない事を。
それを思ったドロスは、冷や汗を流しながらもニヤリと嗤う。
「フゥーフゥー……策を弄しながらも間抜けなのはオマエだ、アルカナートよ! 復活に全ての魔力を使った今、お前に勇者の光を使った技は出せんのだからな。蛮族を狂戦士から戻した所で、所詮同じ事。焼け死ぬがいい。ヒーッヒッヒッヒッ♪」
ドロスが下卑た高笑いを上げた時、サガもアルカナートの魔力が今限りなくゼロになっている事に気付いた。
「アルカナート、俺を狂戦士から戻す為に禁呪を使ってくれた事には感謝しかない。しかし、ここからどうするつもりだ? お前の魔力が回復していない今、この炎のドームを破る術はないように思えるが?」
「サガよ。お前の疑問は最もだが、結局二人とも焼け死ぬ為に俺がわざわざ禁呪を使うと思うか?」
「フッ。愚問だったなアルカナート。であれば……」
そこから脱出方法を聞いたサガは、それでいいのか? という顔をしてアルカナートを見つめた。
けれどアルカナートの表情は変わらない。
「かまいやしない。どの道アイツを倒せばこの炎も消えるんだからよ」
「だが、俺はお前の……」
「フッ、僅かに回復した魔力と決意、それを友に託すのは間違っているのか」
「アルカナート……!」
サガは感嘆のため息を零しアルカナートを見つめると、炎の壁に向かい全身の闘気を高めた。
それに続き剣を構えたアルカナート。
「いくぜサガ。狙うは一点。この一撃で風穴を空ける! 貫け!『アナフラクティ・フォース』!!」
アルカナートの剣先から一筋の光が放たれ、ドロスの作り出した炎のドームに一瞬風穴を空けた。
その瞬間、サガはそこから全力で駆け炎の外に脱出し、それを見届けたアルカナートは満足気にニッと笑った。
「さすがだな。じゃ後は頼むぜ。ドロスのヤローをぶっ倒してくれ」
◆◆◆
アルカナートが必殺技を放つ少し前、ドロスは思考をフル回転させていた。
アルカナートなら僅かでも魔力が回復していれば、一瞬ではあるが炎のドームの壁を破れる事と、その直後、そこからサガが出てくる事。
ドロスはそこまで分かっていたからだ。
「ええーい、アルカナートめ! 心からいまいましいわ。しかし、このままだと私の死は確実……何か、何か手はないのか? もうすぐきっとあの蛮族めが脱出してくるハズ……何とかせねば!」
苛立ちながら怒気を吐くドロス。
もはや流石にもう打つ手無しかと思った時、ドロスの瞳が輝いた。
「あったぞ! 私の助かる道が。やはり最後に勝つのは謀略と運の良さよ!」
絶望の中に光を見出し歓喜するドロスの視線の先にあったモノ。
それは、木陰から今にも飛び出そうとしていたサガの息子シドだった。
シドは戦いの現場に辿り着いた瞬間、ギリッと歯を食いしばった。
倒れている兵士の中にサガがいなかった事から、サガは目で燃え盛る炎のドームの中にいる事を察したからだ。
そんなサガの事が心配でたまらなかったシドは父親を助けにいこうと思い、炎のドームの中のサガに向かって叫ぼうとした。
「とうさ……」
その瞬間、シドの意識は一瞬で闇に包まれた。
シドを一瞬で眠らせたのは、もちろんドロスだった。
ドロスは戻ってきたシドを偶然発見するやいなやコッソリ忍び寄り、超至近距離から魔法をかけて眠らせたのだ。
自分が助かる為の人質にする為に。
ドロスはシドを眠らせた後、念の為魔力で作った拘束具で動きを封じた。
「クククッ……これでいい」
ドロスがそう零した時、炎の中から脱出してきたサガはその光景を目の当たりにすると、怒りに震えドロスに問う。
「ドロス……キサマっ! 本当にお前はアルカナートと同じ国の人間なのか?!」
「ハハッ、私とてアルカナートと同じ国になどいたくない。だから、奴が別の場所にいくまでジッとしておいてくれたまえ」
「別の場所だと?」
「決まっておろう蛮族。スマート・ミレニアムではく、死の国よ」
「ゲスが……! 許さん」
するとドロスは、サガを卑やらしく見据えた。
「言動には気を付けたまえ蛮族よ。アルカナートより、お前の息子の方を先に送り出してやってもいいんだからな! ヒーッヒッヒッヒッヒッ♪」
サガの瞳と耳に、下卑た高笑いをするドロスの姿と声がこだまする。
怨敵を前に手が出せない彼は、ギリッと歯を食いしばり拳を強く握りしめた。
そしてこうしている間にも、炎のドームはじりじりと狭まり、アルカナートに迫っていた……!
この状況で、サガはどうするのか……!
次話はドロスの思い出したくない過去が描かれます。
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