cys:117 光のレクイエム
「アルカナート……」
サガが狂気から目覚めた時、一番最初に映ったのは血にまみれた自分の剣。
そして、肩から胸まで斬り裂かれ仰向けに倒れている、アルカナートの姿だった。
サガはそこにそっと近づくと一目で分かった。
アルカナートの身体に、最早命は宿っていないという事が。
その姿を見たサガの胸に、悲しみと怒りが込み上げてくる。
自分が狂戦士として剣を振り下ろしたあの瞬間、アルカナートがその刃をワザと受けた事を分かっていたからだ。
「うぐっ……!」
サガはその場にドシャッとしゃがみこみ、アルカナートの身体を両手で抱きかかえた。
「アルカナートよ……俺を目覚めさせる為に、その身を犠牲にするとは……すまない。すまない、アルカナートよ!」
アルカナートとへの感謝の気持ちと、ドロスに戦士の誇りを弄ばれた悔しさに嗚咽を漏らすサガ。
その光景を魔法で外から見ていたドロスは、ニマァっと卑らしい笑みを浮かべ嘲笑う。
「クク……クククク……ヒーッヒッヒッヒッ♪ よくやった蛮族よ! よくぞ憎っくきアルカナートを討ち取ってくれた! これで私をバカにしてきたアルカナートは死に、ついでにあの蛮族も炎で焼け死ぬ。愉快愉快♪」
ドロスはそう声を上げて小躍りしていたが、サガに抱きかかえられているアルカナートの姿を、再びジッと見つめた。
「アルカナートの奴め、あの蛮族を狂戦士から戻す為に、ワザとあの蛮族の刃を受けたというのか……下らん。最後に生き残るのは、戦士の誇りなんかではなく狡猾さよ。いくら綺麗事を言っていても、死ねばただの躯に過ぎん」
そう吐き捨てたドロスだが、同時に違和感を感じた。
───ん? 待て、おかしい。何かがおかしいぞ……
ドロスはその感じた違和感を整理し始めた。
剣術は疎く、魔力と狡猾さでここまでのし上がってきたドロスには、感じた違和感をそのまま放置しておく事が出来なかったからだ。
───あの蛮族を狂戦士から目覚めさせたとしても、結局あの炎に焼かれて蛮族は死ぬ事になるのはわかってたハズ。なのに、なぜアルカナートは身代わりになってまで……ハッ、まさか!
ドロスがハッとその答えに辿り着いたその時だった。
ドロスの魔法で映し出されている炎のドームの中の映像が、突然強く光輝いた。
サガの腕に抱きかかえられていたアルカナートの額の魔力クリスタルが、突然大きな眩い光を放ったからだ。
「こ、この光は!」
ドロスは思わず片腕で顔を半分覆ったが、次の瞬間ドロスは腰を抜かした。
死んだハズのアルカナートの顔に生気が戻り、斬り裂かれていた傷も完全に治っていたからだ。
しかもそれだけではなかった。
アルカナートは復活すると同時に、いつも通りのニヤリとした不敵な笑みを浮かべ、映像越しにドロスを見据えてきたのだ。
「ドロス、どうせお前の事だ。俺達の事を見ているんだろ。 だから光栄に思えよ。今の光は、これから死にゆくお前の為のレクイエムだ」
「わ、私に対するレクイエムだと?!」
ドロスは突然復活したアルカナートに驚愕しながらも、頭をフル回転させて考えた。
アルカナートから逃れる為に。
───どうする……? 復活したヤツは必ず私を殺しにくる。奴の放つ勇者の光があれば、あの炎のドームも破られるのは必須。そうなれば……イヤ、待てよ
ドロスはそこまで考えた時に、ふと思い出した。
それはアルカナートの復活に関わるモノ。
そしてドロスはそれを思いついた時、焦りながらも活路を見出した事により、ニヤリと卑らしい笑みを浮かべた。
◆◆◆
ドロスが下卑た笑みを浮かべている時、アルカナートはクールな表情で手を差し伸べていた。
アルカナートが復活した事により驚愕し、その場に座り込んでいるサガに対して。
「サガよ、狂戦士の禁呪から目覚めたようだな」
「ア、アルカナートよ、礼を言う。ただ、俺が斬ってしまっておいて言うのも何だが、確かにお前は死んだハズでは……?」
驚きを隠せないサガに向かい、アルカナートはニヤリと笑った。
「サガ、俺も禁呪を使ったまでさ。ただし、復活の為の禁呪だがな」
「復活の為の禁呪?」
アルカナートは自分の額の魔力クリスタルを指さした。
「己の魔力と引き換えに、死んだ瞬間に生き返る事が出来る禁呪だ」
「なんと! スマート・ミレニアム軍はそんな事が出来るのか?」
サガは驚きと羨望の眼差しをアルカナートに向けたが、アルカナートは軽く首を横に振った。
「いいや、全員が出来る訳じゃない。勇者の光を持つ者のみの技だ」
「と、いう事は……」
「その通りだ、サガ。これは俺の専用の禁呪だ」
サガにそう答えると、まるでドロスがそこにいるかのように虚空を向きニヤリと笑った。
「ドロスよ。俺の前で禁呪ベルセルクを使った事が、お前の敗因だ。策を弄しながらもこれを見抜けねーとは、やはり間抜けなヤローだ。覚悟しやがれ……!」
剣聖の光が闇を照らす……!
次話はドロスの卑劣さが加速します。
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