cys:116 禁呪ベルセルク
「受けてみろ、アルカナートよ! ケトゥス・一の牙『神狼翔牙』!!」
サガの剣先から鋭い光の牙が放たれた。
それを見据えたアルカナートは、同じくサガに向けて必殺剣を放つ。
「白輝の刃よ、脅威を薙ぎ払え! 『アクティ・フォース』!!」
ドオンッ!!
2人の技はお互いの中間でぶつかり合い、凄まじい光を周囲に放つと大きく爆ぜた!
「くっ……!」
「おおっ……!」
その衝撃波を防いだアルカナートとサガ。
「技の威力は互角か……! サガよ、クリスタル無しでその強さ、敬服に値する」
「俺達トゥーラ・レヴォルトの民は、古来から精霊と神々達の力を借りている。それに魔力クリスタルも、お前の力があってこそのモノだろう」
「フッ、まぁ厄介な代物でもあるがな」
アルカナートがそう告げた時、サガは問いかける。
「アルカナートよ、やはり気付いているのか。何より、お前の程の男がなぜスマート・ミレニアムに忠誠を尽くしているのだ?」
「なぜとは?」
「知らぬ訳はあるまい。あの5人の悪魔の非道を!」
「5人の悪魔? どういう事だ?」
これまでも直感的に魔力クリスタルに疑問は持っていたアルカナートだが、サガの言った事は分からなかった。
全ての情報が開かれているようで、実は根幹の部分は隠蔽されているスマート・ミレニアムにおいて、そこを調べる事は出来なくなっているからだ。
なのでアルカナートはサガの言葉に興味を持ち問い返したが、その時だった。
「ぐっ……うぅぅぅぅ」
サガは突然苦しみ出し、その場にうずくまった。
「サガ?! 一体どうした」
サガを見つめたまま、大きく目を見開いたアルカナート。
異様な物を感じたのだ。
うずくまったまま唸り声を上げ、それと同時に髪の色が赤く変貌していくサガの姿に。
「……うぅぅぅぅ、ガアッ!!」
サガは顔を上げると、巨大な咆哮を放った!
その顔は狂気に彩られている。
「サガっ……!」
アルカナートがサガの突然の変貌に驚愕した時、2人の周囲に灼熱の炎で出来たドームが突然現れ、2人を覆った。
「なっ、これは一体?!」
驚いた顔で炎のドームを見上げたアルカナートに向かい、サガが攻撃を仕掛けてきた。
まるで悪鬼のようなオーラを纏いながら。
「死ねい! アルカナートよ!」
ガキンッ!!
「くっ……この力は!」
アルカナートは何とかサガの剣を受け止めたが、大きく後ろに弾かれた。
サガからは今までよりさらに強い力を感じたが、それよりも強く感じたのは狂気だった。
今までの誇りある勇者としてのモノではなく、目の前の敵を倒す事だけを意識した狂戦士。
「まさかっ……!」
アルカナートがそう思った瞬間、二人を包む灼熱のドームの外から声が聞こえてきた。
策略じみた、卑屈でいやらしいドロスの声が。
「アルカナート様、もーーしわけございません。このドロス、助太刀しようとしたのですが、誤ってアルカナート様まで巻き込んでしまいました~〜♪」
「……ドロスよ、キサマ!」
アルカナートがドロスに激怒したのは、ドロスがわざと灼熱のドームを放った事に対してだけではない。
彼が何よりも激怒したのは、サガの額の左側に浮き出ている紋章に対してだった。
───この紋章は……己か相手の死でしか解けぬ、禁呪ベルセルク!
「ドロス! 貴様……サガに禁呪を放ったな!」
するとドロスは、ヒヒヒッ♪と、卑しく笑った。
「さあ、なんの事でしょう? アナタ様がその蛮族に破れ、その蛮族もろとも灰になればいいなんて、そんな事、私は……楽しくて仕方ありません。ヒャハハハハッ!」
「ドロス……戦士の誇りを弄ぶキサマだけは、絶対に許さん!」
「許すもなにも、いいんですか?アルカナート様。私だけに気を取られていて♪」
ドロスが下卑た笑みを浮かべると、灼熱の炎で作られたドームの中で、狂戦士と化せられてしまったサガから強烈な刃が降りかかってくる。
「くっ……目を醒ませ!サガっ!」
アルカナートはムダだとは分かっていても、サガに叫ばずにはいられなかった。
敵ではなく一人の戦士として認めた男が苦しんでいる姿を、これ以上見たくなかったからだ。
けれど、サガは狂気の瞳でアルカナートを睨み、凄まじい早さと破壊力に満ちた剣を振るってくる。
その様子を魔力で見ていたドロスは、卑らしい狂気に満ちた表情でほくそ笑んだ。
「ヒヒヒヒッ♪ いいぞぉ、やってしまえ蛮族め。その炎のドームは魔力クリスタルの力を持ってせねば決して壊れぬ。しかし、あの狂戦士と化した蛮族を相手にしながらでは、いかなアルカナートでもそれは無理。またアルカナートが殺されれば蛮族も焼け死ぬ……♪」
ドロスはニヤリと嗤い一呼吸置きくと、ワナワナとしながら怒りの表情に変わり、魔力で映し出した炎の中のアルカナートとサガの映像を睨みつける。
積もりに積もった恨みと共に。
───アルカナートめ、思い知ったか。いつもいつも私をコケにしおって……何が勇者だ、剣聖だ! 私からすれば、お前もその蛮族と変わらん。最後に勝つのは、力や剣術ではなく謀略なのだ! ヒ~ッヒッヒッヒッ!
そんなドロスの狂気の想いから作り出された炎の中、アルカナートはサガから繰り出される猛攻を余裕を持ちながら躱し続けていた。
サガの剣は途轍もない速さと威力を秘めていたが、それらをアルカナートは一撃も喰らっていなかった。
もちろん、アルカナートの凄まじい体さばきによる所も大きかったが、一番の要因は別にあった。
ほんの僅かではあるものの、サガが無意識のうちにアルカナートから攻撃を逸らしていたからだ。
それが言葉よりも雄弁にアルカナートに語りかける。
戦士として自分を殺してくれと……!
この禁呪はどちらの死をもって以外には、決して解く事は出来ないのだ。
「サガ……!」
それを感じたアルカナートは、悲しみと悔しさで剣の柄を握りつぶしそうなぐらいギュッと強く握りしめたが、冷静さを無理やり取り戻し思考力をフルに働かせ考えた。
そして、密かに決意をした後サガに告げる。
「サガよ! お前の想い受け取った。だからお前も最後、全力で俺を倒しに来い! 勝負だ」
「ぐぉぉぉぉぉぉっ!!」
サガが咆哮を上げ飛び掛かってきた瞬間、アルカナートは額の魔力クリスタルから大きな輝きを放ち、サガに向かいニヤリと不敵な笑みを向けると剣の構えを解いた。
サガの剣がアルカナートの身体にめり込み、肩から胸にかけてアルカナートの身体を大きく斬り裂いていく。
ザシュッ!!
「ぐっ……!」
アルカナートはうめき声を上げ、胸からビシャァァァァッ!! と、大量の血しぶきを上げると大きく後ろに倒れながら剣を落とし、そのまま大地へドシャァッ! と背を付けた。
そして、溢れ出した血がサガの足元に流れ着いた時、アルカナートの心臓は鼓動を止めた……
アルカナートはなぜ刃を受けたのか……
次話はドロスを勇者の光が照らし出します。
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