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ゼロの輝き─無魔力追放からの反逆  作者: ジュン・ガリアーノ
第6章 魔力クリスタルの深淵
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cys:115 戦士の矜持

「アルカナート様! なぜここに?」


 驚きと安堵が混じった声を上げたドロスに、アルカナートはいつもの如くぶっきらぼうに答える。


「フンッ、このサクラという花に興味があって近くにきたまでの事。だが、まさか美しい花の下に、血の花が咲いてるとはな……」


 アルカナートは、サガに倒された兵士達を哀しい瞳で見つめたまま感じていた。

 ドロスの部下達が、どれだけ真剣に戦ったのかという事を。


───お前達、よくやった……!


 アルカナートが心でそう悼むと、ドロスが卑屈で焦った顔を向けてきた。


「申し訳ございません! 部下達の力が足りなかったせいで、あんな蛮族一人に、まさかのこんな無様な醜態をさらしてしまいしまして……」


 その瞬間アルカナートは、ドロスをギロッと睨んだ。


「ドロスよ。多勢に無勢とはいえ、彼らはお前の指示通り精一杯戦ったのだろう。キサマはそれを無様と呼ぶのか」

「うっ……それは……」


 たじろぐドロスを、アルカナートは厳しい眼差しで見据えている。


「何より、ヤツは蛮族などではない。俺達スマート・ミレニアム軍とは思想と立場が異なりはするが、立派な一人の戦士だ。それぐらい一目見たら分かるだろう」

「い、いや、その……」

「フゥッ……むしろ、それが分からずヤツを蛮族などとほざくお前こそ、戦士としての品位が疑われるというものだ。なぁ、ドロス。違うか?」

「も、申し訳ございません……」


 ドロスはアルカナートに諭され、うつむきながら顔をしかめ、心の中で毒を吐く。

 残った部下の冷たい視線に晒されながら。


───おのれ、アルカナートめ……!


 そんな光景を目の当たりにしたサガは、しばし呆気に取られた後、アルカナートを見てニッと笑った。


「お前がかの名高い、スマート・ミレニアム軍の勇者、剣聖アルカナートか」

「ほう? 俺を知ってくれているとは光栄だな。いかにもその通り。俺は勇者剣聖イデア・アルカナート。して、お前の名は?」

「これは失礼した。俺はトゥーラ・レヴォルト軍の戦士、アルベルト・サガだ」


 サガがそう告げると、アルカナートは嬉しそうにニヤリと笑った。

 感じ取ったからだ。

 サガから溢れ出る、強く気高いオーラを。


「サガか。いい目をしているな。誰かさんにも見習わせたいもんだ。しかしなぜ、お前程の男がこんな所で戦っている」

「この花を家族で見に来ていたら、お前達スマート・ミレニアム軍に、俺の妻と子を襲われそうになったからさ」

「なんだと?!」


 アルカナートは、思わず声を上げ目を丸くした。

 ドロスが行ったあまりの蛮行に驚愕したからだ。

 そして、ドロスに顔を振り向けキツく睨みつけた。


「おい、敵国の者とはいえ、非戦闘員にまで手をかけようとするとは……ドロス、俺達スマート・ミレニアム軍は蛮族なのか?」

「ヒッ……!」


 怒りのこもった皮肉にたじろいだドロス。

 アルカナートはそれを一瞥した後サガに向き直り、スッと頭を下げた。


「サガよ、すまなかった。ドロスに代わり、この俺が詫びよう」


 すると今度は、サガが目を大きく見開いた。

 同じスマート・ミレニアム軍でも、ドロスとアルカナートのあまりもの差に驚いたからだ。

 なのでサガは一呼吸置き、アルカナートに戦士としての瞳で向き合った。


「かまわん。彼らも自分達の正義と、上の命令に従って戦っただけの事。それにアルカナート。アンタは敵でありながら俺を蛮族としてではなく、一人の戦士として見てくれた。こちらこそ礼を言う」

「フッ、礼を言うのはこちらの方だ。ウチのそこの蛮族に、戦士としての貌で向き合ってくれたのだからな。だが……」


 アルカナートがそう答えた時、サガはニヤッと笑い同時に覚悟をした。

 分かっているからだ。

 アルカナートの気持ちは伝わってきたが、彼の立場上、仲間を殺した相手を目の前にして逃す事は、到底出来ない事を。


 だからこそサガは、アルカナートの口からそれを言わせたくなかった。

 それは、サガが持つ戦士の誇りから来るモノだった。


「勇者アルカナートよ、分かっている。お前とこうして出会ってしまった以上、戦わなければならない事を……!」


 アルカナートは、サガのその言葉を聞き畏敬の念を抱くと同時に、この男を倒さねばならない事への苦しさが胸を覆った。


 奇しくもそれは、将来自分の愛弟子になるノーティスが、サガの息子であるシドに対して感じる物と同じ気持ちだった。


 けれどアルカナートは、敢えてそれを出さずニヤリと笑ってみせた後、勇者としての矜持を瞳に宿し真摯な顔でサガに向き合った。


「トゥーラ・レヴォルトの戦士……、いや、トゥーラ・レヴォルトの勇者サガよ。出来るのであれば、お前とは敵としてではなく、共に肩を並べ戦いたかった」

「奇遇だな、アルカナートよ。俺も全く同じ気持ちだ」


 二人はそう交わしすと、互いに剣を構えた。

 哀しみを超えた勇者としての矜持を胸に……!


「いざ、尋常に」

「勝負だ。アルカナートよ!」


◆◆◆


その頃、サガの妻と逃げていた息子のシドは母親に向かって突然叫んだ。


「ごめん、母さん! 俺、やっぱり父さんを置いてこのまま逃げる事なんて出来ない!」


 シドはそう告げるやいなや、元来た道を全力で駆け出した。


「待ちなさいシド! 今行ったらお父さんの足手まといになるわ!」


 母親はシドに向かって手を伸ばしたが、シドはそれを振り切りそのままサガの元へ走った。


「ごめん母さん!」

「シドーーーーーーっ!!」


 シドはどうしても、このまま逃げ帰る事を選べなかったのだ。

 まだ幼いながらもシドの心の中にある、戦士としての矜持。

 そして、父親を1人で残していけないという気持ちを止められなかったから。


───父さん待ってて……僕も今行くから!


 シドはその想いと共に全力で駆けた。

 誇り高きトゥーラ・レヴォルトの勇者サガの息子として、自分達の為に戦う父親の元へ。


 その果てに待ち受ける悲劇を、その身で予感しながらも……!

シドの行き着く先には、何があるのか……



次話はドロスがサガに禁呪をかけてしまいます。

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[一言] バカなまドロスのせいで 戦わなければならなくなった シドとアルカナート 悲しすぎる。
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