cys:114 サガの無双と焦るドロス
「死ね!」
「この薄汚い蛮族めが!」
サガに襲いかかるドロスの部下達。
しかしその直後、バシュバシュバシュッ! という風を切る音と共に、ドロスの部下達はその場に倒れた。
「なっ?!」
驚き目を丸くしたドロスの事を、シドの父親は憤怒と覚悟を込めて睨みつける。
「貴様ら、ふざけるのも大概にしろ。アイツらには決して近寄らせん。ここを通りたくば、死を覚悟して挑んでこい!」
再び剣を構えたサガに、ドロスはニヤッと嗤った。
「ハハハッ、多少はやるようだが、これだけの数を前にオマエ1人で防ぎきれる訳がなかろう。死を覚悟するのはオマエだ」
ドロスは多数の部下を従えシドの父親を侮蔑の表情で見下したが、シドの父親の眼光は衰えない。
魔力クリスタルが無くても、サガの瞳は決意と共に輝いている。
「フン、笑わせるな。死の覚悟など、父親になった時から常に出来ている。ただ、易々とやられはしない。オマエ達はここで止める! このトゥーラ・レヴォルトの戦士『アルベルト・サガ』の命に代えてもな!」
サガはスマート・ミレニアム軍に向かい決意放つと同時に、右手を天空にかざし詠唱を行う。
自らの力を最大限に引き出し、大切な者を守る為に。
「神獣と古の神々達、我に力を与えよ!!」
サガの髪が逆立つと同時に体には呪符が浮かび上がり、左の瞳が蒼く輝く。
「オォォォォォォツ! さあ、かかってこい!!」
「うっ……」
「くっ……!」
咆哮を上げてスマート・ミレニアム軍に向かい合うサガのその姿に、彼らは一瞬怖気づいた。
しかし、そんな彼らにドロスは激を飛ばす。
「怯むな! 所詮奴は一人だ! 数の利はこちらにある。取り囲んで一斉に攻撃をしろ!」
そう命じられたドロスの部下達は、即座に三角形の形にサガを取り囲んだ。
「終わりだ。この三点同時からの陣形に死角は無い」
けれど、サガは彼らがそう告げるやいなや、あっという間にその内の一人にザッと近づき一瞬で首を撥ねる。
バシュッ!
「えっ……あっ。ガハッ!」
それを見て残りの二人は驚きと恐怖に震えた。
「なっ? バカな! 早すぎる!」
「動きすら目に止まらん!」
サガ彼らのその隙を見逃さず、他の二人も一瞬で片づけていく。
反撃の隙すら与えずに。
ザッ!
「ぐあっ!」
バシュッ!
「うぐっ!」
そしてサガは彼らの屍を背に、ドロスの顔を強き戦士の貌で見据えた。
「どうした、ドロスとやら。数の利があるんじゃなかったのか?」
「おのれ……蛮族めが!」
悔しさに歯をギリッと食いしばったドロス。
元々サガの事を蛮族だと思っている上に、サガのようなタイプが嫌いだからだ。
───気に喰わん! しかも、あの凛と澄んだ瞳はまるで……
「えぇーい、お前達。剣と魔法の同時攻撃でいけ。魔法で動きを鈍らせた隙に、剣で止めを刺すのだ!」
「はっ! かしこまりました」
ドロスに激を飛ばされた部下達は、再びサガに向かい剣を構えて態勢を整えた。
また、魔法部隊は詠唱を終えると、サガに向かい炎を放つ。
「スフィア・インフェルノ!」
サガはその炎を真っ直ぐ見据え、一刀両断に叩き斬る。
「ハッ!」
だがその直後、氷の飛礫が襲ってきた。
「エクサ・ミュエルザーチ!」
「くっ……!」
サガはそれを何とか防いだが、一瞬にして足元を凍らされ身動きが取れなくなってしまった。
それをドロスは逃さない。
「今だ! 一斉にかかれ!」
ドロスは勝ちを確信し、勝ち誇った顔で彼らに命令した。
しかしその直後、彼の表情は一変した。
サガが足元の氷を一瞬で砕き、襲い掛かったスマート・ミレニアム軍の戦士達を一瞬で薙ぎ払ったからだ。
「させんっ!」
「ぐわぁぁぁぁぁっ!」
それを見たドロスは驚きと怒りに顔を歪め、恨めしくサガを睨んだ。
「くっ、この蛮族め……強い!」
ドロスがそう零し周りを見ると、残りの人数はもう少なくなっていた。
サガのあまりの戦力に戦慄を禁じ得ない。
「バカな……我らスマート・ミレニアム軍の戦士達が、こんなたった一人の蛮族に……」
ドロスは怒りと共に部下に檄を飛ばす。
「ゆ、許さん! お前達、何としてでもこの蛮族を倒すのだ!」
けれど、残りの部下達はサガのあまりの強さに立ちすくみ、ドロスに懇願してくる。
「ドロス様。恐れながら、ヤツの強さは尋常ではありません。もう撤退しましょう!」
「バカを言うな! 例え公式な戦でなくとも、こんな蛮族1人に退いたとあってはスマート・ミレニアム軍の名折れだ!」
「し、しかし……!」
サガはそんな彼らがいたたまれなくなり、構えていた剣をスッと下に下げると、精悍な眼差しでドロスを見据えた。
「ドロスとやら、オマエの部下達の言う通りだ。もう退け。これ以上の無益な殺生は好まん。俺は大切な者を守れればそれでいい」
サガの言った事は最もな事だし、力の差を見極めるのも戦では大切な要素だ。
しかしドロスは、屈辱から生まれる恨みの籠った目でサガを睨みつけた。
「な、な、舐めるな! この蛮族めが!」
それを受けて軽く呆れたサガ。
「フゥッ。だったらせめて、嫌がる部下に命令するんじゃなく、オマエ自身でかかってきたらいい」
「わ、私自らが? それは……」
ドロスは自分ではサガに勝てない事が分かっていた。
少なくとも、真正面から戦えば負けるのは必死。
「う、ううっ……」
冷や汗をダラダラと流していると、突き刺さってくる。
部下達からの冷ややかな視線が。
───こ、コイツら……!
ドロスは部下達の冷たい視線とサガの言葉に挟まれ、半ば自暴自棄気味に決意する。
「わ、分かった! 私がいこう」
その瞬間、ドロスの背後から強大なオーラと共に、精悍で自信に満ち溢れた声が響いてきた。
「よぉドロス。お前にしては、なかなか頑張って決断したじゃねぇか!」
「ハッ! アナタは……!」
その声に振り返りったドロスに、男は言葉を続ける。
ニヤリと不敵な笑みを浮かべて。
「その意気や良し。と言いたい所だが、命をムダに捨てるのは蛮勇だ。勝てない相手から逃げるのは悪い事じゃない。後は俺が引き受ける」
そう告げられたドロスは、畏れと共に歓喜の声を上げた。
「アルカナート様っ!」
出会ってしまった2人の勇者……!
次話はアルカナートがドロスをざまぁします。
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