cys:111 セイラからの暴露
「セイラ、ちょっといいかな」
翌日、ノーティスは魔力ポータルを通じてセイラと連絡を取った。
「大丈夫よ。もしかして、来れる日決まった?」
「あぁ。もしセイラがよければ、明日にでも行こうと思ってる」
「そっか。私は明日でも大丈夫よ♪」
セイラの声は嬉しそうに弾んでいる。
思ったよりも、連絡来るのが早かったからだ。
「よかった。後、ルミとメティアも一緒に行く」
「えっ、ルミちゃんも?」
ノーティスに、セイラが一瞬困惑したのが伝わってきた。
けれど、敢えて軽くそこは突っ込んでみる。
「うん。大丈夫だよな」
「う、うん。平気だよ」
明らかに動揺しているセイラ。
元々嘘が苦手な性格もあるのだろうが、それだけ重要な話なのだろう。
「ノーティス。ちなみに、メティアさんって……?」
「メティアは王宮魔導士の1人で、俺の大切な人だ」
「そっか……」
セイラはそれを聞くと少し考えた。
───いいのかしら。ノーティス以外の人に伝えたりしても……アルカナート、私どうしたらいいの。
すると、まるでその心が伝わったかのように、ノーティスが尋ねてくる。
「セイラ、明日は師匠も一緒かな?」
「えっ?」
一瞬ドキッとしたセイラ。
タイミングがあまりにも合いすぎたからだ。
「アルカナートは少し前に一度来たけど、最近はまた顔を出してないわ」
「そうなのか……」
「どうして?」
「いや、師匠に確かめたい事があって」
「アルカナートに?」
「あぁ」
ノーティスがそう答えると、セイラは一瞬間を置いた。
今のやり取りで分かったからだ。
ノーティスが今疑問に思ってる事が、自分の答えに直結するモノである事を。
またそうである以上、ノーティスがルミとメティアに概ねの事は伝えてある事も察した。
「分かったわ。ノーティス、いいわよ。ルミちゃんもメティアさんも連れてきて」
「セイラ、ありがとう」
「ううん、じゃあ明日近くまで来たら連絡して。私明日も孤児院にいるから」
「分かった。連絡するよ」
「じゃー楽しみにしてるね」
「あぁ、俺もだよ。じゃあまた明日」
ノーティスはそう言ってセイラとの連絡を終えると、ルミとメティアに向かい微笑んだ。
「明日セイラの元へ向かう事になったから、2人とも今日中に準備しておいてくれ」
「分かりました。任せて下さいノーティス様♪」
「ボクもちゃんと準備しておくよ」
「ああ、2人ともよろしくな」
ノーティスはそう告げると、エレナを優しく見つめた。
「エレナ、留守の間よろしく頼む」
そう告げられたエレナはニコッと明るく笑みを浮かべ、ノーティスに答える。
「任せてっ♪ ノーティス達がいない間、私がお姉ちゃん以上にしっかりやっとくから」
「フッ、頼もしいな。もしレイやジーク達が訪ねてきたら頼む」
「うんっ」
可愛く頼もしい笑顔を浮かべたエレナ。
そして、ルミもメティアもノーティスを凛とした表情で見つめている。
それを受けたノーティスは、2人を見つめたまま誓う。
───セイラから伝えられる真実がどんなモノでも、俺はみんなを必ず守ってみせる……!
◆◆◆
翌朝、ノーティスはメティアと一緒にルミの運転する車に乗り、セイラのいる孤児院へと向かった。
そしてシルバーエリアの端近くまで着くと、セイラに連絡を入れた。
セイラの営む孤児院はシルバーエリアとブロンズエリアの境にあるからだ。
「セイラ、もうすぐ着くよ」
「分かった。待ってるね」
そう告げてしばらくするとセイラの待つ孤児院に辿り着き、車から降りたメティアは孤児院を感慨深そうに見上げた。
「ここがノーティスの育った所なんだね」
「あぁ、そうさメティア。あの日キミと出会った後、師匠に救われて、ここでセイラに育ててもらいながら修行したんだ」
「そうだよね……! ボクも早く会ってみたいな、セイラさんに」
メティアが少し緊張と期待を交えてそう零した時、孤児院からセイラがスッと現れた。
今日もポニテで、全身から明るく元気なオーラが溢れている。
「ノーティス! それにルミちゃんも」
「セイラ」
「セイラさん、お久しぶりです」
3人は笑顔を向け合うと、セイラがチラッとメティアの方を覗き込んだ。
「もしかして、この子がメティアっていう王宮魔導士の子?」
「あぁ、そうだよ」
「えーーーーーーっ♪」
セイラはそう言って嬉しそうに声を上げると、メティアの側にタタッと駆け寄った。
「凄く可愛いじゃない♪ 私はパナーケア・セイラ。セイラでいいよ」
ニコッと微笑んだセイラの事を、メティアは少し緊張しながら見上げている。
感受性の強いメティアは、セイラから溢れ出すオーラが凄く愛に溢れている事や、その魔力のとてつもない大きさを感じているからだ。
───さすが、伝説のパーティの1人だった人だな。格が違うや。
「ボ、ボクはフロラキス・メティアっていいます。メティアって呼んでください」
「分かったわ。よろしくね、メティアちゃん♪」
セイラはそう告げニコッと微笑むと、みんなを居間に通し椅子に座らせた。
そして、トレイに飲み物を乗せて運んでくると、ノーティス達の前にトンッと置いた。
「あっ、これは」
思わず声を上げたノーティスにセイラは微笑む。
「そっ、ノーティスの好きなアンドロメダ・スムージーだよ」
「これ、疲れ取れるんだよなー」
「当然よっ♪ 特製のハーブと私の作った魔力の実が入ってるからね」
セイラはそう言って得意げに胸を張ると、自分もノーティス達と一緒にそれを飲んだ。
アンドロメダ・スムージーは甘酸っぱく飲みやすし、セイラの自信作だ。
そしてセイラは一呼吸つくと、テーブルの向かいに座る3人を凛とした眼差しで見つめた。
「ノーティス、ルミちゃん、メティアちゃん。今日は来てくれてありがとう」
「いや、セイラ。俺の方こそ何ていうか、凄いタイミングで感謝してるよ」
「うん……」
セイラは決意をして話そうとしたが、その前にメティアを見つめた。
確かめたかったのだ。
メティアにも伝えていいのかを。
無論、ノーティスが大切な人だというのだからいいとは思うし、メティアから伝わってくるオーラは心地よい。
むしろ、自分の後継者にしたいぐらいだ。
けれど話の内容が内容だけに、どうしてもちゃんと確かめておきたかった。
「ちなみに、メティアちゃんはいつからノーティスと知り合いなの? 王宮魔導士になってから?」
「ううん、ボクは……」
◆◆◆
メティアからノーティスとの馴れ初めを聞いたセイラは、涙をボロボロながしながらメティアを見つめていた。
「う~~~~~っ、メティアちゃん、アナタ本当にいい子ね! それに、ノーティスとそんな奇跡の再会を果たすなんて……!」
「セイラさん……でも、こちらこそありがとうございます」
「えっ?」
「だって、セイラさんがノーティスを育ててくれたから、ボクはノーティスとこうして一緒にいれると思うから。感謝してます」
メティアがそう告げてニコッと笑うと、セイラは椅子からガタっと勢いよく立ち上がり、メティアに駆け寄りギュッと抱きしめた。
「メティアちゃん! アナタ本当に素敵だわ! 試すような事尋いちゃってごめんねーーーーー!」
「セ、セイラさん」
メティアはセイラの包み隠さない感情表現に少し圧倒されながらも、セイラから伝わってくる愛に心地よさを感じていた。
そして、セイラに抱きしめられたまま囁くように告げる。
「いいんです。でも、ボクも本当にノーティスの事大切に想ってるから、今回ノーティスに無理言ってでも一緒に来たんです」
「メティアちゃん……!」
セイラはそう零しメティアをよりギュッと抱きしめると、そっと身体を離し、涙に濡れた目でメティアを見つめた。
「分かったわ。ちゃんと話すわね。アナタがはノーティスの本当に大切な人だから」
そう告げたセイラは再び席に戻り3人を見つめると、ノーティスに向かい口を開く。
「ノーティス。この前、アネーシャっていう女剣士と戦ったわよね」
「ああ……!」
分かってはいたが、本当にこの話だった事に緊張が走り目を一瞬大きく開いたノーティスに、セイラは話していく。
「その時にきっと色々あったと思うんだけど、ノーティス覚えてる? 昔アルカナートが言った剣を置いた理由を」
「もちろん覚えてるよ……勇者として剣を振るう資格を失ったからだ。って言ってたよな」
ノーティスがそう答えた時、ルミも思い出していた。
昔ノーティスからそう聞いた事を。
また、メティアはそれを聞いた事は無かったが、黙ってセイラを見つめたまま話を聞いていた……
そして、その後セイラからアネーシャについての全てを聞いたノーティス達は、あまりの内容に身体を固めたまま、しばらく口を開く事さえ出来なかった。
しばらくの沈黙がその場を支配した後、ノーティスがゆっくりと口を開く。
「アネーシャは知らないんだよな……師匠がその女性を守ろうとした事を」
「えぇ、知らないわ。むしろ話した通り、最悪の誤解を生む現場しか見ていないわ」
「シドもそうだったのか……」
「シドの事はアネーシャの事と違って私は直接は見てないけど、恐らく……ね」
それを聞きギュッと拳を握しめたノーティスの側で、ルミもメティアも涙をポロポロ零してセイラを見つめている。
「なんで、なんでそんな事に……」
「うぅっ……悲し過ぎるよ」
そしてノーティスは思う。
───師匠……アナタは勇者失格なんかじゃありません。俺の師匠であり、最高の勇者です……! けれど、アナタは今どこに……!
◆◆◆
少し時は遡り、ノーティスがアネーシャと激闘を繰り広げる事になる数日前。
スマート・ミレニアム城内では兵士達が必死に1人の男を止めようとしていたが、次々と跳ね飛ばされていっていた。
「ぐわっ……! ダ、ダメです。勝手に行ってはなりません」
「うるせぇよ。お前らじゃ俺を止めれない事ぐらい、分かってんだろ」
「で、ですが私はスマート・ミレニアムの戦士として、いくら貴方様でも許可なく教皇の間に通す事は出来ません!」
「その心意気は間違ってねぇ。けど、俺は会うなきゃいけねぇんだ。全てをハッキリさせる為にな」
男はそう告げ、澄んだ艶のある瞳で兵士を見つめニヤッと笑った。
「気に病むな。相手が俺なら、負けたって咎められる事はねぇさ」
兵士はそう言われ一瞬固まってしまったが、自分の横を通り過ぎ教皇の間の入り口に向かった時、ハッと振り返り叫ぶ。
「お待ちください、アルカナート様!」
怒りを滾らすアルカナートだが……
次話はアルカナートが教皇に詰め寄ります。
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