cys:110 ルミの復活
「そーですよ、ノーティス様。全部自分でお抱えになる所は、ノーティス様の悪い癖です♪」
その声にハッ! としてノーティスが後ろを振り向くと、そこには自分に向かい、エレナの隣でルミが微笑んでいる姿が。
もちろん寝巻き姿ではなく、いつものピシッとした執事服に身を包んでいる。
「ルミっ!」
ノーティスがルミの方へ身体を振り向け嬉しそうな顔を浮かべると、ルミはノーティスにツカツカと歩み寄りグイッと身を乗り出した。
そして、ちょっと怒った可愛い顔でノーティスを見上げる。
「私もメティアさんもノーティス様を大切に想っているの、分かっていないんですか? どーなんです?」
「うっ、いや、それは……」
「ちゃんと答えて下さい」
いつも通りの微笑ましい光景に、エレナも一瞬笑みを浮かべ乗っかっていく。
「そーだよノーティス。私だってそうなんだからね」
「エレナ……」
ノーティスは、参ったなという顔をして片手で頭をクシャッと掻くと、ルミを真っすぐに見つめた。
「分かってるに決まってるだろ」
「ですよね」
「ああ、当然だ」
「じゃーーーなんで置いてこうとしたんです」
「うっ……!」
「どーせノーティス様の事ですから、寝てる私にそっと別れを告げて、お一人で行こうとか考えてたんですよね」
「な、なんでそれを」
まるで、超能力でも使われたかのように完全に見抜かれドキマキするノーティスに、ルミはニコッと笑った。
「当り前じゃないですか。私は、ノーティス様の執事ですから♪」
「ルミ……なんかそのセリフ、凄く久しぶりに聞いた気がするよ」
「それはそうですよ。私とノーティス様、入れ替わりで倒れてたんですから」
「フッ、そうだな。でも安心したよ。ルミが元気になってよかった」
「それはノーティス様達のお陰です。ありがとうございます♪」
ルミはメティアとエレナに振り向き笑顔で会釈をすると、再びノーティスを凛とした瞳で見つめる。
「ですのでノーティス様、私達も一緒に行きますからね」
「……う、うん。分かったよ」
ちょっと照れながら口を尖らせたノーティス。
「分かって頂ければいいんです♪」
そう言ってニコッと笑うと、メティアがルミに微笑んだ。
ルミが元気になったのも嬉しかったし、最近ずっと戦いばかりだったので、こういうほのぼのした光景が嬉しかったから。
「さすがルミさんだね♪ 病み上がりとは思えないよ」
「メティアさんのお陰です。それにノーティス様は、すぐこういうご勝手されますから、いつまでも寝てられませんし」
「アハハッ♪ 確かにそーだね」
メティアが楽しそうに笑う中、エレナは軽く微笑みを浮かべてルミに言う。
まるで、その場にいるのが申し訳なさそうな雰囲気だ。
「お姉ちゃんがいない間、家の事はちゃんとしておくから♪」
「エレナ……!」
ルミが少しハッとした顔をすると、エレナはちょっと切なそうにみんなを見つめる。
エレナは分かっているからだ。
ルミやメティアと違い、自分はそこに行くにはそぐわないという事が。
その気持ちを察しエレナを切なく見つめるルミとメティアだが、ノーティスはそんなエレナをジッと見つめた。
「エレナ、家の事はいい。キミも一緒に来てくれ」
「えっ、だって私は……」
「キミだって、いつも俺を大切に想ってくれてるじゃないか」
「ノーティス……!」
エレナは思わず涙が零れそうになった。
ノーティスが同情や気を使ってではなく、本心でそう言ってくれてるのが伝わってきたから。
でも、だからこそニコッと笑って舌を出した。
「べーーーっ、分かってないなぁ♪ もし私まで言っちゃったら、その間にレイ様達が訪ねてきた時とか、どーするつもりなの」
「あっ……まぁそれはだな……」
言葉を詰まらせたノーティスに向かい、エレナは再びニコッと笑い首を可愛く横に傾けた。
「でしょ。だから私はここに残るから」
「分かった……じゃあ、留守の間よろしく頼むよ」
「任せてっ♪」
エレナは、ノーティスが自分の事を大事な場面に誘ってくれただけで、充分嬉しかったのだ。
そんなエレナをルミもメティアも優しく見つめると、ノーティスに凛とした瞳を向けた。
「ではノーティス様、明日の朝、セイラ様にご連絡してから向かいましょう」
「ああ、そうだなルミ」
「ボクはセイラさんに会うの初めてだから、緊張するなーーー」
「大丈夫ですよ、メティアさん。セイラ様は気さくでお優しい方ですから。ですよね、ノーティス様」
ルミは明らかに同意を求める眼差しを向けたが、素直なノーティスはまた余計な事を言ってくる。
「うん、でも最初ルミは喧嘩したけ……」
「ゴホンっ!」
その咳払いに、ここは余計な事を言ってはいけないと察したノーティス。
「ああっ、大丈夫だメティア。へーき、へーき」
「ですよね。ノーティス様」
と、まあこんな感じでルミも目を覚まし、いつも通りの景色が戻ってきた。
けれど、ノーティス達は分かっていなかった。
ここから途轍もない運命の大きなうねりが、自分達を待ち構えている事を……!
運命は良くも悪くも完璧なタイミングで訪れる……
次話はセイラから話を聞いた後、あの男が登場します。
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