cys:108 真実への葛藤
「ノーティス、どうしたの……」
星空を見つめているノーティスの背中から、そっと声をかけたメティア。
いつものように明るく声をかけなかったのは、ノーティスの背中からなぜか儚げなオーラを感じたからだ。
───さっきまで、あんなに元気だったのに。
そう思って見つめていると、ノーティスはメティアにスッと振り向いた。
「メティア、まだ寝てなかったのか」
「うん、何となくね」
「そうか。メティア、手伝ってくれて本当に嬉しいけど、無理はし過ぎるなよ」
「ありがとう♪ ノーティス。でも、キミの方が何か無理してないかな」
メティアから見つめられたノーティスは、一瞬ハッとした表情を浮かべたが、すぐにいつものようにフッと笑みを零した。
「別に、そんな事は無いさ」
けれどメティアには通用しない。
「……アネーシャが言ってた事、考えてたの?」
「メティア……!」
ハッとして目を開いたノーティス。
それをメティアは静かに見つめる。
するとノーティスは、ハァッ……と軽くため息を零し、メティアに切ない笑みを向けた。
「まったく、メティアに隠し事は出来ないな」
「当たり前でしょ♪ ボクはいつもキミを見てるんだから」
そう言ってメティアも少し切ない笑みを零し、ノーティスを包み込むような優しい瞳で見つめる。
ある意味、分かり過ぎてしまうのが辛いと思うぐらい、メティアはノーティスの心を大切に想っているから。
そんなメティアの愛に当てられたノーティスは、隠す事をやめた。
「メティア、いつもありがとう」
「ううん。ボクが好きでしてるんだから気にしないで♪」
「けど、そんなキミに俺はいつも助けてもらってる。あの冷たい雨の日も、アネーシャと戦った時も」
「それはお互い様だよ。ボクだって助けてもらってるし、ノーティスの側にいれて幸せだよ♪」
そう言ってニコッと笑ったメティアに、ノーティスも嬉しそうに微笑むと、言いにくそうに悩んだ顔を浮かべた。
「メティア……アネーシャと戦った時言った通り、俺はメティア達の事を必ず守る。けど……」
そう言って言葉を詰まらすノーティスを、メティアは黙ったまま見つめている。
そしてそんな中、ノーティスは絞り出すように声を震わす。
「俺は……俺達は、間違って……いるのか!」
「ノーティス……」
「アネーシャとの時だけじゃない。シドの時も感じた……」
ノーティスの脳裏に蘇るあの時の記憶。
『守る? 守るだと? 貴様は……貴様らは、この俺達からどれだけのモノを奪ったと思っている!!』
『やはり、偽りの光と歴史に塗れた国の者には、何も見えていないようだな』
───シド……!
『ノーティス。アナタは今から100年前……本当にこの世界に悪魔、カターディアが現れたと思っているの?』
『本当にカターディアからの呪いの感染防止の為に、魔力クリスタルが必要になったと思ってるの?』
『……どうせ言っても信じもしないし、分からないわ。クリスタルの輝きという偽りの光に目を眩まされ、何も見えない……いえ、何も見ようともしないアナタ達には!!』
───アネーシャ……!
ノーティスはシドとアネーシャの言葉が、ずっと胸に突き刺さっている。
もちろん、その時唯一側にいたメティアもだ。
ノーティスが戦っている時は、騙されないで! と、強く叫びノーティスを応援したが、メティアもずっとそれは心に残っている。
また、スマート・ミレニアムではシドやアネーシャの国トゥーラ・レヴォルトの事を、悪魔に支配された蛮族の国というが、少なくともシドとアネーシャは決して蛮族などではなく、むしろ、気高く誇り高い戦士の誇りを持っていた事も分かっていた。
だからこそメティアは、ノーティスの気持ちが痛いほどよく分かるのだ。
彼らが言っていた事が正しいのであれば、自分達は一体何の為にここまで戦い、そしてここから戦おうとしているのか?
その問いがノーティスの胸を、いや、まるで魂ごとギュッと締付けてくる事を……!
そんな切なさと悔しさ、どうしようもない葛藤を抱えうつむくノーティスを、メティアは哀しげに見つめている。
「ノーティス……間違ってるって、どういう意味」
「それは……」
ノーティス自身が一番言いたくなかった。
言葉にしてしまうと、それを本当に認めてしまいそうになってしまうから。
───でも、ハッキリさせないと俺は……!
心でそう零すとメティアを真摯な眼差しで見つめた。
「メティア、俺はこの目で確かめたい。真実が一体何なのかを……!」
ノーティスから純粋で儚げなオーラを感じたメティアは、ハッ! と目を見開き哀しげな瞳で零す。
「ノーティス、まさかキミは……」
「あぁ、俺はもう一度ティコ・バローズへ行く」
「ティコ・バローズへ?」
てっきり、ノーティスが単身でトゥーラ・レヴォルトに乗り込むんじゃないかと思ったメティアは、予想外の答えに驚き目を丸くした。
「なんでまたあそこに行くの?」
メティアがそう尋ねた時、ノーティスの魔力ポータルが振動した。
───誰だ?
そう思ったノーティスは、着信の相手を見てハッとし、それを数旬見つめた後メティアに断り応答ボタンを押した。
「ノーティス、ごめんね。こんな時間に」
「構わないよ……セイラ」
このタイミングでの連絡……!