cys:106 託されたルミ
「えっ、帰るってなんで急に……」
思わずそう声を漏らしたルミの側で、エレナもビックリした。
メティアが言った言葉が、全く予想外の物だったからだ。
「そーだよ。ノーティスが今起きたばっかりなのに……」
ルミもエレナも、なぜメティアが急にここで帰ると言い出したのか、本当に分からない。
むしろ、メティアの涙で目をノーティスが覚ましたのなら、自分がノーティスに一番愛されてるんだ。と、誇ってもいいのにとさえ思っている。
けれど2人がそう思う中、メティアはルミにスッと近づくとルミをギュっと抱きしめた。
そしてそのまま、微笑みと共に囁く。
(ルミさん、ノーティスの事よろしくね)
(えっ? メティアさん、なんで……)
急にそう告げられ目を丸くしたルミに抱きついたまま、メティアは切なく微笑む。
(だって、ルミさんずっと寝てなかったし、食事も取って無かったでしょ)
(な、なんでその事を……)
(ボクはこれでも特級ヒーラーだから、見たら分かるよ。ルミさん寝ないで、ノーティスの事を看てたんだなって……)
(メティアさん……)
(だから、ルミさんになら……ボクの大好きなノーティスを任せられるよ)
(うっ、うぅっ……メティアさん)
ルミはその瞳から大粒の涙をボロボロ零した。
メティアのノーティスへの愛と、それを自分に託してくれる切なく大きな愛に。
また、それが聞こえてしまったエレナも涙を零している。
「な、なによそれ……ズルいよっ……」
するとメティアはルミからスッと身体を離し、ルミにニコッと微笑んだ。
「じゃあ、またねルミさん」
そして、ベットから自分の方を見つめているノーティスの所へ行くと、ハンカチをスッと差し出した。
「ノーティス、ごめんね。またグチャグチャにしちゃって」
「かまわないさ。でも、今ルミと何を話してたんだ」
「へへっ♪ それはルミさんから聞いて」
「えっ、なんで」
「いーーから♪ じゃあまたね、ノーティス」
ニコッと笑ったメティアに、ノーティスはちょっと肩透かしを喰らったような気になった。
「あっ、あぁ。もう少しゆっくりしていかないのか」
「そうしたいんだけど、今日はもう……」
メティアがそう言いかけた時、エレナが悲壮な声が部屋に響く。
「お姉ちゃん!!」
その声にノーティスとメティアがハッと振り向くと、そこには倒れたルミを抱えるエレナの姿が。
「ルミっ!」
「ルミさん!」
ノーティスとメティアはサッと駆け寄り、ルミの顔を覗き込んだ。
特にノーティスは必死な顔でルミを見ている。
「ルミどうした! しっかりしろ!」
するとエレナがノーティスに向かい、シッ! とポーズを取り片目を瞑った。
(ノーティス、静かに)
「な、どういう……ハッ、まさか」
(そう、お姉ちゃんずっと寝てなかったの)
ノーティスはホッとして大きく息を吐くと、ルミの身体をスッと抱きかかえ、ルミの寝顔を愛おしく見つめながら歩き出した。
ルミを部屋まで運んで行く為に。
そして部屋まで辿り着くと、ノーティスはルミをベットにそっと寝かせた。
エレナは切なく、それを見つめる。
───ノーティス、まるで王子様みたいね。それに、お姉ちゃんはお姫様か……
エレナが心でそう零す中、ノーティスはルミの手をそっと握った。
ルミに申し訳ない気持もあるがそれ以上に、こんなになるまで自分を看てくれたルミが、ただただ愛おしいのだ。
───ルミ。キミにはいつも、助けてもらってばかりだな……
ノーティスはこれまでの事を振り返り、ルミの手をよりギュッと握った。
「今度は俺がキミを看る」
するとそれを見たメティアがハァッと、軽くため息を漏らした。
「あーーーもうそれじゃあ、今度はまたノーティスが倒れての入れ替わりじゃん」
「メティア……」
「大丈夫ですよメティアさん、私もいるし」
エレナがそう言うと、メティアは2人を見て優しく微笑んだ。
「そーゆー訳にはいかないよ。だって、エレナさんが寝てる時、ノーティスはちゃんと出来るの? 病み上がりなのに」
「別に、問題ないさ」
「あるよ。だって、ノーティスの身の周りの事は、いつもルミさんがやってくれてるんでしょ」
「まっ、まあそーだけど……」
バツが悪そうな顔を浮かべ、ノーティスは片手で頭を掻いた。
看たい気持ちとは裏腹に、確かに身の回りの事は全部ルミにやってもらっていたので、ルミを看るどころか自分の事も出来るか怪しい。
メティアはそれを分かっていたので、敢えてノーティスに言ったのだ。
「だからノーティス、無理しないで。人には得手不得手があって当然なんだから♪」
「メティア、それ、昔ルミからも同じ事言われたよ」
「アハハッ♪ さすがルミさんだね」
メティアはそう言って笑うと、エレナをチラッと見た。
「じゃあエレナさん、一緒に美味しいご飯を作ろう♪」
「えっ?」
少し吹っ切れた感じのメティアと、貴重な穏やかな時間……
次話は2人のお料理対決にノーティスが付き合います。
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