表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゼロの輝き─無魔力追放からの反逆  作者: ジュン・ガリアーノ
第6章 魔力クリスタルの深淵
103/251

cys:102 ロウの戦闘回避術

「覚悟なさいっ!!」


 アネーシャは咆哮を上げ剣を振り下ろしたが、その直後バッ! と後に飛び退いた。

 足元が凄まじい凍気でピキピキピキッ! と、凍りついていったからだ。


「誰っ?!」


 アネーシャが声を上げると、レイのセクシーで美しい姿を思い浮かべる、華美な香りが漂ってきた。


「フフッ♪ 惜しかったわぁ」


 その姿に、パッと顔を明るくするメティア。


「レイ!」

「メティア、よく頑張ったわね♪」


 レイはメティアに微笑むと、妖しく美しい瞳でアネーシャを見つめる。


「でも、本当に惜しかったわ。アナタの素敵な醜い姿を、美しい氷の中に閉じ込めてあげれたのに♪」

「素敵な醜い姿?」

「ええ。弱ってる相手にトドメを刺そうとする、アナタの心よ♪」


 レイからフフン♪ とした態度で流し目を向けられたアネーシャだが、動ずる事無く余裕の笑みで返す。


「あら、不意打ちをしてくるアナタこそ、自分で氷の棺に入ったらどうかしら♪ 素敵じゃない」

「フンッ、言うわね。蛮族のくせに」


 レイがイラっとして片手で髪をファサッとかき上げると、アネーシャは軽く握った拳を口に添えて笑う。


「アハッ、蛮族って……アナタの格好の方が、よっぽどはしたないと思うけど♪」

「なによ!」

「フッ♪ 図星ね」

「~~~!」


 睨み合うレイとアネーシャ。

 その中でガクッと気を失ったノーティスに、レイはハッとして駆け寄った。


「ノーティス、どうしたの! しっかりして!」


 レイがノーティスの体を揺さぶると、メティアがレイにそっと触れてきた。


「レイ、落ち着いて。大丈夫って言うのも変だけど、ノーティスは気を失っただけだよ」

「気を失っただけって、どういう事よ……」


 レイが不思議そうに見つめてくると、メティアは寂しげに軽くうつむく。

 さっきまでの、激しく切ない戦いを思い浮かべたから。


「今さっきまで、凄く苦しそうだったんだ」

「えっ」

「ボクの魔法で傷も体力も全快したけど、原因不明の頭痛で……」

「じゃあ、今はそれが落ち着いたって事なの?」

「うん……だから寝かせといてあげて」


 メティアがそう言って寂し気に微笑むと、レイはノーティスの手をキュッと優しく握り、眠っている顔を優しく見つめる。


「ノーティス、早く起きてくれなきゃイヤよ。私とデートの約束したんだから……♪」


 そしてスッと立ち上がり、アネーシャをキッと睨みつけた。


「許さない! 私の愛するノーティスを、こんな風にしたアナタを!」

「あら、早とちりさんね♪ 私のせいじゃないわ。急に苦しみだしたんだもの」

「ハアッ? なんですって!」


 嘘だと思いアネーシャに怒鳴りつけたレイに、横からメティアが告げる。


「レイ、本当だよ。確かにアネーシャと戦ってたけど、それとは別に、急に頭を抱えて苦しみだしたの!」

「そんな……メティア、アナタでも治せなかったの?」

「うん、ごめん。さっき言った通り、ヒールLv:4でも他の魔法でも治せなかったよ……」


 メティアが悲しく零すと、アネーシャは笑う。


「フフッ、早とちりさん。いくら綺麗でも、そんなんじゃ、好きな相手にも嫌われちゃうわよ♪」

「黙りなさい! そんなの、アナタにとやかく言われる筋合いは無いわ」


 レイが怒鳴ると、アネーシャはニヤッと笑みを浮べた。

まるで、今の会話でレイの本性を見抜いたかのように。


「フーン……アナタって一見気が強そうに見えるけど、ホントは凄く寂しがり屋なのね♪」

「はっ? 何言ってるの。そんな事ないわ」

「フフッ、隠したってムダよ♪ そーねぇ、アナタにはグイグイ来てくれる、一見ガサツな人が合ってるんじゃないかしら♪」

「なっ?!」


 心の内を一瞬で見透かされたレイが驚いて目を大きく開くと、正にそのガサツな男がやって来た。


「おっ、レイ。お前さん、相変わらずまーーたインチキ占い師にやられてんな。ホラムの時で懲りただろーが」

「ジーク!」

「向こうがあら方片付いたんで来てみりゃ、お前さんも懲りねぇヤツだな。ガッハッハッ♪」


 ジークが大声で笑うと、アネーシャは今度はジークをジッと見つめた。


「アナタ面白いわね」

「ん? 俺がかい」

「えぇ、そうよ。アナタってガサツなくせに、好きな女には尽くすタイプでしょ♪」

「バッ、バカ言え。なんで俺様が……」


 顔を赤くしたジークに、アネーシャはニヤッと笑みを向ける。


「だってアナタ優しそうだもん。それを隠す為に、敢えてガサツに振る舞ってるのね。フフッ、可愛いじゃない♪」

「レイ、なんだコイツは」

「あら、ジークこそやられてるじゃない。インチキ占い師さんに♪」


 レイがニヤッと笑うと、アネーシャは2人に向かって微笑んだ。


「レイとジークか、アナタ達お似合いよ♪」

「はあっ?! な、何を言ってるのよ!」


 そう言って顔を火照らし文句を言うレイの隣で、ジークはドキッとして顔を赤くしながら零す。


「レ、レイ。こいつは本物の占い師さんだわ……信じるしかねぇ」

「ジーク、アナタね……」


 呆れた顔をして肘で小突くレイ。


「あらレイ。いらないんなら、私がもらっちゃうわよ♪ 彼可愛いし」

「渡すわけないでしょ! あっ……」


 しまったという表情で顔を赤くして、両手で口を抑え目を大きく開いたレイ。

 そんなレイを見て、アネーシャは楽しそうに笑う。


「アハハッ♪ レイ、貴女分かりやすいわね」

「な、なによアンターーー!」


 顔を火照らせたままギーッ! と、睨むレイの横で、ジークはレイの可愛さに頭から湯気を出している。


 アネーシャはそんな会話をしていると、昔の事を思い出した。

 トゥーラ・レヴォルトで、好きな人や友達と仲良く遊んでた時の事を。


───楽しかったな。あの頃……あの人もまだ皆いて……


 けれど、アネーシャが仲良くしていた人達はもういない。 

 スマート・ミレニアム軍にやられてしまったから……!

 それを思い返したアネーシャは、軽く楽しく話をしてしまった自分を恥じ、剣先をレイとジーク達にスッと向ける。


「お喋りはここまでよ。勇者が倒れた今、アナタ達の負けなんだから!」

「くっ……」

「チッ……」

「それでもまだ抵抗するなら、相手してあげても構わないけど。1人に複数でかかってくるのが、スマート・ミレニアムの流儀ならね♪」


 アネーシャに、一瞬で追い詰められたレイとジーク。

 確かに勇者同士の一騎打ちは、その他の大勢がどうであれ、その決着によって決めるのが戦いのルール。


 アネーシャがノーティスと一騎打ちに挑んだのも、それが理由だった。

 無用な死者を出さない為に。


「さあ、どうするの! レイ、ジーク」

「やるわね……!」

「どーするよ……」


 追い詰めるアネーシャと、それにたじろぐレイとジーク。

 けどそんな中にロウが現れ、アネーシャに慧眼な眼差しを向けた。


「だったらこの戦は引き分けだ」

「なんですって?! アナタは何者なの」

「これは申し遅れてすまない。僕はスマート・ミレニアムの王宮魔道軍師、アルカディア・ロウだ」

「私はトゥーラ・レヴォルトの勇者、メデュム・アネーシャ」


 アネーシャがロウに名乗ると、ロウはアネーシャを静かに見つめた。

 そして、敬意を込めた眼差しを向けて話を始める。


「アネーシャ。キミの戦いぶりは素晴らしかった。敵ながら見事だと思う」

「フンッ……」

「けど、あそこでノーティスが突然原因不明の頭痛に襲われていなければ、キミが負けていたハズだ」

「……! でも、立っているのは私よ!」


 悔しそうにギリッと睨んできたアネーシャを、ロウは諭すような顔で見つめる。


「チェスにしても剣技にしても、勝負の相手が勝負内容以外の事で倒れたら、その勝負は無効だ。違うかな?」

「うっ……」

「よって、勇者同士の一騎打ちは無効。片や、他の部分では僕らの勝利だ」


 ロウがそう告げた時、ちょうどアンリが現れた。


「ニャハハッ♪ こっちはほぼ終わったぞーーーい♪」

「アンリ、ご苦労だったな」

「ロウ、お前さんのお陰ニャ♪」


 アンリがそう言って笑うと、ロウはアネーシャにスッと視線を戻す。


「アネーシャ。と、いう訳でこの戦は僕らの勝ちだ。けど、キミの奮闘に免じて引き分けにして、これ以上は戦わず見逃してあげてもいい。さぁどうする?」


 形勢を一気に逆転されたアネーシャは、しばらく悔しい顔でロウを睨んでいたが、スッと表情を落ち着かせロウに問う。


「じゃあ今からアナタ達を蹴散らして、ノーティスを殺すと言ったら?」


 するとロウだけでなく、レイやジーク、メティアも再び魔力クリスタルを輝かせ、力強い笑みをアネーシャに向けた。


「賢明なキミが、その判断をするとは思えないが」

「フフッ♪ 結果は占わなくても分かるわよね」

「やりてぇなら、やってやるぜぃ」

「ボクもノーティスを全力で守るよ」


 アネーシャはそんな皆を凛とした瞳でジッと見つめると、フッとため息をついた。

 そして、クルッと背を向けマントをバサッと(なび)かせると、右手を大きく天に掲げ号令を出す。


「この戦は引き分けだ! 全軍撤退っ!」


 その号令に互いの残った兵士達から、ワァーーーッ! という歓声が上がる中、アネーシャはスッと顔を振り返らせた。


「アナタ達、勘違いしないでね。アナタ達が束になっても私には勝てないから」

「んだとぉ!」

「言ってくれるじゃない……!」


 興奮したジークとレイを、ロウはサッと手で制した。

 ロウには分かっていたからだ。

 今のセリフが誇張や過信ではなく、本当である事が。


 もちろん、全員本気で戦えば勝てるかもしれないが、皆大きなダメージを負うのは必至。

 ロウはそれを一瞬で見抜いたからこそ、戦いを回避させたのだ。


「ならば、なぜ呑んだ……」

「決まってるでしょ♪ そんな状態の彼を倒しても、私の気持ちは晴れないからよ」


 アネーシャのその言葉を聞いたロウは、驚きと敬意に目を丸くした。

 そしてフッと感嘆のため息を零すと、アネーシャを凛とした瞳で見つめる。


「なるほどな……皆に伝えておくよ。トゥーラ・レヴォルトの勇者メデュム・アネーシャは、自軍と戦士の誇りを守ったと」

「……!」


 アネーシャは決して頷きはしなかったが、その瞳にロウへの敬意を宿し見つめる。

 ロウが自分の心を汲んでくれた事を感じたからだ。 

 そして、気を失っているノーティスの事をチラッと見ると、スッと戦場から去っていった。


 そこに、儚げなオーラだけを残したまま……

これにて連続投稿終了です。

お付き合い下さりありがとうございました。

面白かったと思って頂ければ、是非ブックマークと★評価をお願い致しますm(_ _)m



次話はノーティスが、女神から凄惨な過去を見せられます。

ブックマーク、評価いただけると励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ