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ゼロの輝き─無魔力追放からの反逆  作者: ジュン・ガリアーノ
第6章 魔力クリスタルの深淵
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cys:101 アネーシャの葛藤

「さよなら。哀しい勇者、エデン・ノーティス」


 アネーシャはそう告げ、頭上に掲げた剣を振り降ろす。

 絶望に両膝を付いたままのノーティスの体が、アネーシャの剣の光に照らされた。


 だがその瞬間だった。


「『クリスタル・アミナ』!!」


 その叫びと共にメティアが防御壁を張り、アネーシャの剣をバンッ! と弾き返した。


「くっ……!」


 剣を弾かれ後に飛び退き、顔をしかめたアネーシャ再び剣を構えこちらを睨みつけた。

 そんなアネーシャに向かい、バッと両手を広げたメティア。


「お願いアネーシャ! もうやめてよ!」


 涙を滲ませ訴えるメティアに、アネーシャは真摯な眼差しを向ける。


「メティア、どかないならアナタも斬るわ。本気で斬れば、アナタの魔法壁なんて役に立たない事ぐらい分かるでしょ」

「うぅっ……」


 今のが嘘や誇張で無い事が分かっていたメティアは魔法壁を解き、両手を広げたまま悲しくうつむいた。

 けれどバッと顔を上げ、涙を横に(ほとば)らせながらネーシャを訴える様な顔で見上げる。


「でも……でももう勝負は着いてる! アネーシャ、ボク達の負けだよ! だから……ノーティスの事は斬らないで! お願い……!!」


 そんなメティアを哀しく見下ろしていくアネーシャの心に、相反する感情が激しく渦巻き交叉していく。

 メティアの行動を美しいと思ってしまう気持ちと、だからこそ、どうしても許せない怒りが。


「貴女は……貴女達は、そんな風に守ろうとした人達の命と想いを、どれだけ奪い……無惨に踏みにじってきたと思ってるの!!」


 まるで、激流のように押し寄せてきたアネーシャの強く切ない想いに、メティアは震える程圧倒された。

 

 けれど、一歩も引かない。

 愛しいノーティスを守る為に。


「アネーシャ……ボク達は、そんな事はしてないよ!」


 そう叫んだメティアと強く見据え合うと、アネーシャはフッと諦めたような表情を浮かべ瞳を据えた。


「哀れね……もういいわ。ノーティスのように真実に気付いて絶望する前にメティア、貴女から殺してあげる!」


 静かにそう告げると剣を右手に持ち、スッと上にかざした。

 その剣先が、断罪の決意を示すかのようにキラリと煌めく。

 その瞬間メティアはノーティスにガバッと抱きつき、涙をボロボロ零した。


「ノーティスは絶対殺させない! ボクが守るんだっ!!」

「くっ……」


 その姿に、振りかざした剣を振り下ろすのを躊躇うアネーシャ。

 メティアの姿に、あの日自分が零した涙が重なる。


───私は……


 そんな中メティアは、絶望で瞳の焦点すら合っていないノーティスの顔を、涙を流しながら微笑みと共に見つめる。


「ノーティス。キミがどんなに絶望していても、ボクはずっとキミの味方だから。愛してるよ、ノーティス……」


 メティアの涙が、ノーティスの手と膝にボロポロ零れ落ちた。

 その涙が、ノーティスの心の中の記憶を呼び覚ます。

 絶望と共に、雨に降られていたあの日の事を。


『ねぇキミ、大丈夫? こんな所で濡れたままだと、風邪引いちゃうよっ♪』

『それとね、このハンカチはキミにあげる♪』

『いいから♪ ボク、ちゃんとキミに覚えといてほしいの。自分の味方もいるんだって事を』


───メティア……そうだ。キミはいつも俺の事を……


 ノーティスの体がピクッと動いた時、アネーシャは決意と共に剣を振り降ろす。

 その美しい瞳から溢れそうになる涙を、必死に押し殺しながら。


「アァァァァッ!!」


 その姿を見たメティアは、ノーティスに抱きついたまま目をギュッと閉じた。


───ノーティス……! ボクは殺されても最後までキミを守るからね!


 しかしその時、アネーシャの振り降ろした剣はガキインッ! という音と共に、ノーティスの剣に弾かれた。


 そして、後にバッと飛び退いたアネーシャ。

 ゾクッとしたからだ。

 ノーティスから立ち昇る黄金の闘気に。


───なんで……! 体も心もボロボロのハズなのに、さっきよりも強く鮮やかな煌めきを放てるの!


 戦慄し目を大きく開きながら剣を構えるアネーシャに、ノーティスは黄金の煌めきを纏ったまま立ち上がる。


「アネーシャ。キミが気づかせてくれたように、俺達が間違っていたのかもしれない……」


 ノーティスはそこまで言うと、剣の柄をギュッと握りしめた。


「けれど俺は……メティアと皆の事を必ず守る! それだけは間違ってないんだ!!」

「ノーティス……!」


 涙を零しながらノーティスを見上げるメティアの側で、ノーティスはアネーシャに向かい剣を両手で斜め上に立てて構えた。


「アネーシャ。俺は無色の魔力クリスタルから、仲間との絆で勇者になれたエデン・ノーティスだ」


 ノーティスがそう言い放った瞬間、全身の黄金の煌めきが更に強く大きく立ち昇る。


「いくぞ! アネーシャ!」


 咆哮を上げ飛びかかるノーティスに向かい、アネーシャも銀色のオーラと呪符の力を最大限に高め、ノーティスに飛びかかる。

 凄まじい勢いで打ち合うノーティスとアネーシャ。


 そして、ノーティスは天高く飛び上がり必殺剣の構を取る。


「雷光のように轟け『シェル・スラッシュ』!!」


 それを見たアネーシャは、ノーティスをキッと睨み上げた。


「忘れたの! 私に一度見せた技は通用しないわ!」


 アネーシャはそう叫ぶと躱した後に来る衝撃波を避ける為、ノーティスと同じ様に高く飛び上がる。

 だがその直後、ノーティスはアネーシャを狙わず、剣を勢いよく大地にズドンッと振り下ろし、次の必殺剣の態勢に入った。


「喰らえアネーシャ!」

「くっ……しまった。飛ばせる事が目的だったなんて!」


 ノーティスのゴールドクリスタルが更に煌めき光を放つ。


「これが俺の、俺達の絆とクリスタルの力だ! 『アトミック・エクス・ギルス……』うっ……!!」


 ノーティスは突然ガシャンと剣を下に落とし、両手で頭を抱え苦しみだした。


「ノーティス!」


 メティアが悲壮な顔をして叫ぶ中、ノーティスは頭が締め付けられる様な痛みに襲われていた。

 突然見知らぬ記憶が、そう、昔アンリの実験室で異世界を垣間見た時に、突然なだれ込んできたあの記憶が、なぜか今突然ノーティスに襲いかかってきたのだ。


『お父さん! なんで?』

『お母さん! お母さん!』

『この二人だけでも何とか……できれば』

『この国家は、今から……』


「うっ……うっ……うわぁぁぁぁっ! 頭が……頭が割れる……」

「ノーティス! しっかりして!」


 メティアは全速力で駆け寄りヒールLv:4をかけたが、ノーティスの苦しみは全く収まらない。


───そんな! 傷も体力も全快したハズなのに!


 メティアが顔を青ざめさせノーティスの体に手を添えてる姿を見たアネーシャは、一体何が起こったのか分からず、心配そうな顔をしながら見つめていた。


 が、しかし、そんな自分を心で戒める。


───何で敵の心配なんてしてるの! 彼に何が起こったか分からないけど、これはチャンスじゃない。


 アネーシャは自分にそう言い聞かせ、ゆっくりノーティスに近付いていく。

 苦しみ続けるノーティスに向かって、一歩ずつ……


「うわぁぁぁぁっ! ぐっ……うっ……アァァァァッ!」

「ノーティス、しっかりして! ああ、一体どうすればいいの……」


 苦しみ続けるノーティスと、それを必死に助けようとしているメティア。

 その2人を見据えながら近寄っていくアネーシャは、今は亡き愛した人に心の中で問いかける。


───いいのよね……敵だもの。私達のユグドラシルを奪い、そして、アナタの命を奪った仇だもの……!


 けれど、心の中のその男は微笑まない。

 哀しい瞳でアネーシャを見つめている。


───なんで……なんで微笑んでくれないの。


 もちろん、アネーシャは答えが分かっている。

 今トドメを刺すのは、その人が大切にしていた戦士の誇りを踏みにじる行為だからだ。


──でも私は……アナタの仇を討ちたい……!


 アネーシャは心の中で強く葛藤しながら、2人の前にザッと立ち見下ろした。


「アネーシャ! ノーティスが、ノーティスが治らないんだ!」


───私が敵という事を忘れてまで、この男の身を案ずるなんて……


「メティア、私はアナタ達の敵よ」

「はっ、そうだった……でも、このままじゃノーティスが!」


 その姿を目の当たりにし、アネーシャは心打たれると同時に怒りで体をブルブル震わせる。


「……なぜ、なぜその優しさを……あの人に、あの人には向けれなかったのよ!!」


 アネーシャの瞳から涙がツ―――っと頬を伝う。

 それをメティアは哀しく見つめた。


「アネーシャ……! キミは優しいんだね。ボクだって、それにノーティスだって本当は戦いたくなんて無いんだ」

「嘘よ!」


 怒鳴りつけて剣を振りかざしたアネーシャに、メティアは寂しそうな顔を浮かべた。


「嘘じゃないよアネーシャ。ボクは、傷付いた人を1人でも多く助けたいだけだし、ノーティスも本当は学者になりたかったんだ」

「学者ですって!」

「そうだよ。昔、ノーティスから聞いたんだ。学者として研究して、その成果で人を幸せにしたかったって」


 メティアは、昔ノーティスから聞いていた話を続ける。


「でもノーティスは無色の魔力クリスタルのせいで、学校を退学させられたんだ。悪魔の呪いに感染するからって言われて」

「そんな……」

「その後アルカナートに拾われて勇者になったけど、ある意味魔力クリスタルに夢を奪われたのは、ノーティスなんだよ……」


 メティアから告げられた事実に、アネーシャは剣を振り上げたまま哀しみと怒りに体を震わす。

 この振り上げた剣をどうしたらいいのか、アネーシャ自身分からなくなってしまったのだ。

 メティアの愛と、ノーティスのこれまでの人生を知って。


「くっ……」


───私は、私はどうしたらいいの……!


 アネーシャは心の中で、再び愛する人に問いかけた。

 けれど、やはり微笑んではくれない。


───でもここで彼を見逃したら私も、大切なみんなの人生も……


 そこまで考えた時、アネーシャはハッとした。


「そうよ……私がいつまでもグズグズしてるから、アナタは微笑んでくれないのよね」

「アネーシャ?」


 瞳に狂気を宿したアネーシャは、その瞳でノーティスとメティアを見下ろす。

 アネーシャの、悲しく切ない想いが生んだ悪魔に憑りつかれたように……!


「アナタ達になんて……アナタ達になんて情は無用! 私はあの人の微笑みを取り戻すの!!」


 アネーシャは再び2人に向かい、剣を振り下ろした。

 悲しみと希望を剣に乗せて……

アネーシャの哀しみが狂気と入り交じる。果たして、正義はどちらにあるのか……



次話は、ノーティスの仲間の絆と共に一旦の決着です。

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